「閣下、どうやらメルネスの娘達が逃げた通路は、帰らずの森に続いているようです」
「ならばカッシェルとスティングルに向かわせろ。メラニィ、お前は奴らを挟み撃ちにする為、別ルートから回れ」



粉々に砕かれたガラスを踏み、つい先程まで球体であった雪花の遺跡の封印を前に、横たわる煌髪人の娘とこれまでさんざん邪魔ばかりして来た少年を前に見下ろしているヴァーツラフに、メラニィは敬礼こそは取っていたものの、内心戸惑ってばかりいて仕方なかった。
指示を受けたカッシェルは直ぐ様スティングルを呼びに行った辺り、忠実に任務を完遂させるだろうが、自分もああでなければならないと自覚はあるのに、メラニィはどうしても動けない。実際に目の前で起こったことを理解しきれていないと言うのも一つの理由だが、煌髪人でもないただの邪魔な餓鬼に殺処分が出ていないことに、戸惑いを隠せなかった。
閣下が命じる前に、こちらから聞かなければならないのだろうか?
と、そんなことを考えながら数名兵士を呼び、メラニィは背を向けたままのヴァーツラフに、問う。



「閣下、この者たちはどうなさいますか?」



言いながらも、実際にこの質問は3年もの間意識を失ったままの煌髪人の娘ではなく、セネルの処分を伺っているのとほとんどイコールだったのだが、殺処分を待っているメラニィに対し、ヴァーツラフは愉快そうに口の端を上げて、答えた。



「例の場所へ運べ。封印の解けたいま、こいつらにはもう一つ役に立ってもらおう」
「……煌髪人の娘だけ、ではなくてですか?」



計画の中枢にも関わっているからこそ、当然の疑問を抱くメラニィに、ヴァーツラフは一度だけ小さく笑った後、足元に横たわるセネルの体を小突いた。
呻き声すら上げれないほど意識を深くまで落としているのだろう。
都合がいいな、と思いながらヴァーツラフは側に控えている兵士に指示を出した。
拘束の必要はない。
暫く意識を取り戻せれないだろうとメラニィも何も言わないから、荷物のように扱われるその姿を見送れど、道具には何も思いはしなかった。



「今にわかる。あの男の方こそ、奴らにとってはいい余興になると、な」



心底愉快そうに言ったヴァーツラフに、メラニィはそれ以上何も聞けやしなかった。

















「ねぇねぇ、ウィルっち」
「なんだ」
「さっきから同じような景色ばっか見えるのってあたしの気のせいかな?と言うかここってあのー…めちゃくちゃ嫌な意味で有名なあの場所な気がするのも、あたしの気のせいだったりするのかなぁー?」
「気のせいではないだろう。ここはおそらく、帰らずの森と呼ばれる地だろうな」
「あははは、ですよねー……………じゃないよ!なんでそんなに冷静なの?!ここって迷い込んだら最後って有名じゃんか!絶賛迷子じゃん!どーすんのさー!!」



うわぁあああ、と何だか聞いていて憐れんでしまうような声を上げたノーマに対し、しかし然程動じることもなく、ウィルは淡々と襲い掛かる魔物を対処し、何やらモーゼスと話して進路を決めているようだった。
シャーリィにブレスを掛けていたノーマは知らないままだけれど、ウィルとクロエはモーゼスがこの森で彼の仲間達と共に野営していたことを聞いており、従って現在ギートの鼻とモーゼスを頼りに進んでいるのだが、感覚を狂わすような同じような景色の続く森の中に、ノーマの限界は近いらしい。
確かに鬱蒼とした森の中、と言う条件は女、子どもにはキツいのでノーマがこうなってしまうのもウィルはわからないこともなかったが(ならクロエは?と言う問いにはきっと誰も答えれない)(もしかしたらこれが水場だったりでもすれば、話は違うかもしれないが)、こうも喧しいとヴァーツラフの追っ手にでも簡単に見つかりそうで、よろしくない。
鉄拳制裁でも与えて強制的に大人しくさせようか、と本人が知ったら青ざめるようなことを平気な顔をしてウィルは考えていたのだが、実際に行動に移す前に多少落ち着いたようだったから、放置しておくことにした。酷いかもしれないが、そこまで相手している場合ではない。



「なんじゃ、だらしないのぉシャボン娘」
「ぅー…モーすけには言われたくなかった…言われたくなかったけど!もう限界なの!どこまで歩けばいいのさぁー…」
「まあ、もうすぐじゃ。そろそろ着くじゃろ」



勝手知ったかのようなモーゼスの口振りに、ようやくそこでノーマもおや?と首を傾げたが、追求する前にさっさと先へ進んでしまったから、慌ててその後を追うべく駆け出した。
クロエが苦く笑いながらも待っていてくれる辺り優しさは一応向けられているようだが、どうにもぎこちなさは拭い切れていない。
それを振り払うようにノーマはあえて明るく振る舞っていて、その気持ちがわかるからこそウィル達も僅かながら少しずつぎこちなさを埋めていたのだが、まさか、今以上に目を逸らしたくなるような現実を突き付けられるとは、誰も、夢にも思ってもいなかった。





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