あたたかな光が、見えた気がした。
オレンジ色の。


彼女の、光。








朧気ながらに見上げたその先の、見慣れぬ天井に二、三度瞬きをした。
お決まりのベタな思考だが、ここは何処だ?とそんな疑問が頭に過るのだけれど、どうにも思考回路などは上手く定まってくれやしない。ぼんやりと定まらぬまま体を動かそうとしたが、本当に自分の手足なのかと疑ってしまえるぐらい、体は重くどうしてか気だるさすらも感じた。
目蓋を一度閉じる。

どうして、こんなにも体が重いのだろう。


どうし、て。





『―――セネル、』
「ステラッ!!」



ようやく思い浮かんだ彼女の姿に勢い良く飛び起きたのだが、その瞬間あんまりにも嫌な、鈍い音が異様に響き、痛みが頭部を襲っていた。ガツンだかゴツンだが知らないが、目の前が真っ暗になるとか衝撃で星が散るとかは大袈裟な言い回しとか比喩でしかないと今まで決め付けていたけれど、その考えはどうやら認識不足だったらしい。
冗談抜きで本当に頭が割れるかと思った衝撃に、とにかくただただ耐えていたのだが、まずい。洒落にならないぐらい、痛い。



「―――ッ、おい、大丈夫か?」
「…………っ、」
「すまんな、俺の頭は石頭なんだ。痛かっただろう?急にお前が飛び起きるとは思ってもいなくてな。本当に大丈夫か?」
「……ぅ、」
「無理をするな。医者の話だと肋骨が折れているそうだ。内臓を傷付けなかったのが唯一の幸いだからな、暫く寝てた方が良い」



言われて、促されまままもう一度寝かせられたが、響く痛みに拒絶する理由の方がなかった。大人しく横たわった少年に男は無事に目が覚めたことにようやくほっと息を吐くが、未だあまり顔色が良くないのは確かなので、その表情はどこか険しい。このままもう一度眠るのかと思いながら男はベッドに横たわる少年の側に椅子を寄せ座り見ていたが、しかし辛いだろうに少年は眠ろうとしなかった。

警戒、している。

尋常でないほど剥き出しているのは、敵意どころか殺意でも含んだような、そんな瞳だった。



「そんな目をするな。別にとって食おうとしてるわけじゃない」



はっきりと男はそう言ったが、少年は睨み付けたままただひたすら沈黙を貫いた。
あんまりにも頑ななその反応に男は溜め息を吐くが、このままではずっと平行線のままなのですぐに折れた。



「挨拶が遅れたな。俺はウィル・レイナード。一応この街の保安官を務めている。お前の名は?」
「………………答える義理は無い」



たっぷりと沈黙を貫いたあと、ようやく少年が口を開いたことに、男は、ウィルは内容はともかく返してくれたことにひとまず安堵した。正直こうして口を利いてくれるまで、このまま死んでしまうんじゃないかと不安だったのだから。



「そうか。答えなければこれから数週間、もしくは数ヶ月名無しの権兵衛とでも呼ぶことになるが、それでいいのか?」
「……どういうことだ」
「自覚が無いのかもしれないがな、お前の体はぼろぼろなんだ。さっき肋骨が折れていると話たがな、怪我の部位はそこだけじゃない」
「…………ぇ?」
「至るところ傷だらけの状態でお前は倒れていたんだ。本当は病院で入院の予定だったんだがな、部屋が満室だったから手当したあと俺の家に運んだんだ」



説明すれば、少年は最初こそ険しい表情をしていたが、やがて驚いたように目を見開いた。そうして一度ウィルから視線を外し、自分の手足や体を動かそうとする。
やめとけ、と忠告する間もなく僅かに体を動かした少年は、案の定痛みが走ったようで苦痛に顔を歪めた。それでも痛いとも言わずに警戒するその姿は、あんまりにも頑な過ぎて不安にしかさせない。



「……ここはどこなんだ。街の名は?」
「ん?おかしなことを聞くな。この遺跡船に街はウェルテスしかないだろう?」
「……遺跡船?」
「古代文明の遺産である巨大船のことだが…お前、自分でここに来たんじゃないのか?何も知らないのか?」



聞けば、少年は困惑したように眉間に皺を寄せて押し黙ってしまった。
ウィルとしては遺跡船で見たことのない少年に「なぜあんな山の中で倒れていたのか」とか「あの白銀の光は知らないのか」とか聞きたいことはいろいろとあったのだが、この反応からはどうにも本当に何も知らないらしい。
となると「どうやってお前はここに来たんだ?」と質問はそうなるのだが、黙っていた少年が不意にはっと目を見張ったからつい固まってしまった。



「――そうだっ!ステラは!俺の他に女の子が倒れて…っ!!」



よくもまあ、勢いだけでそこまで言えたな、とうっかり感心してしまったが、捲し立てるのと同時に勢い良く体を起き上がらせたものだから、当然体中に走った痛みに耐えられず、少年は途中で突っ伏してしまった。半分呆れてしまうが、傷が開いたらどうするつもりなのか。



「……お前、人の話聞いていたか?」
「――うるっ、さい!」



気丈にも少年はそう言い放ったものの、痛みは引かないのか苦しそうに眉を寄せるからウィルは一度回復呪文を唱えた。
痛み止程度にはなるだろうと考えてのことだったのだが、幸い本当に痛みを軽減することが出来たらしく、少年は小さくほっと息を吐く。
多少なりとも落ち着いた少年に、ウィルは先程の答えを言った。
それは少年の淡い期待を裏切るには充分過ぎた、





「…すまないが、俺が見つけたのは、お前一人だった」





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