初めからわかっていたことだった。
この身を、それに捧げると言うこと。

それは、犠牲に数えない。
それは、悲しみに足されない。


(泣かないで、泣かないで。)

(悲しむことではないの。)

(これは、全て、私たちにとって必要なことだったのよ。)



祈りはやがて光となって、この地に優しく、降り注ぐ。
涙を拭って、前を見て。
これは、犠牲などではないのだから。


(泣かないで、シャーリィ。)
(悲しまないでね、セネル。)


祈りが、ただ―――















「っだぁー!!しっ、死ぬかと思った!死んだと思った!もう無理だと思った…っ!」
「死んだ方がマシだと思っ、た…」
「ちょっとー!しっかりしてよクー!死ぬなぁー!」



最後の最後で浮上しきることが出来ず、沈没してしまったポッポ3世号改から何とか脱出しどうにか辿り着いた雪花の遺跡にて、とりあえず全員が全員、肩で息をして既に半端ではない程の疲労感を味わっていた。
絶対これは死ぬな、と頭の片隅についつい思っていたからこそ、クロエの投げ遣りな言葉に、立ち直りが早いノーマ以外誰も何も言わないのだが、トラウマ決定事項となったポッポの有人実験には二度と関わらないと、結論はそこしかない。
いつまでもここに居るわけにはいかないと、ウィルの言葉にとりあえず若干クロエも冷静さを取り戻したのだが、ジェイから知らされていた星印の着いた壁を探し、その先に見えた光景に…般若と化した。
気持ちはわからないこともないが、二回目は流石にモーゼスも間に合いませんでした。



「……ねぇねぇ、ウィルっち。あたしここなーんか見た覚えあるんだけど、気のせいかな?」
「気のせいではないな。ここは俺たちが巨大風穴に行く前、ジェイと話していた場所だ」
「(ジェイぶっ殺す!!)」



口には出していない。
と言うか一回目同様口には出しきっていないが、感情がだだ漏れです、クロエさん。殺気丸出し。
とノーマとモーゼスは密かに思ったが、思った言葉をそのまま言う勇気はどこにもなかった。
だらだらと嫌な汗が溢れてどうしようもないのだが、モーゼスによる耳栓効果が無くともセネルは鈍かったらしく、次に会ったら文句を言おうとさっさと結論付けて先へ進んでしまう。
鈍さも極めると勇者になるんだな、と仕様もないことを思いつつ、雪花の遺跡の奥へ奥へと進めば、不意に今までの通路ではなく、拓けた空間へと出た。
先陣を切っていたセネルが一度周りを見回すが、敵の姿は見当たらず、その奥に大きな…水の入った球体、だろうか。この遺跡の一部として何か役割を持っているのかは知らないが、目に付いたそれに歩み寄るセネルの後を、ウィル達が続いて行く。
見たこともない物ばかりだったからウィル達の視線はきょろきょろと忙しなく動いていたのだが、まるでそれに惹かれているかのように、セネルは迷いなく球体へと足を進めて、そうして、止まった。

淡い淡い、水の中。


見えたのは、あの優しい色。

ずっと求めていた、唯一の、




「……うそ、だ」



小さく呟いただけの言葉に、気付いたのは一番近くに居たウィルだけだった。
震える手が、球体の側面に触れる。
ガラスに映ったセネルの顔は、情けないぐらい、歪んでいた。
それは初めて見る、彼の、



「…うそだ…、うそだ、嘘だ嘘だ嘘だっ!!どうして、お前がこんな…っ!待ってろ、今すぐ出すから!だからっ!!」
「クーリッジ?!」
「落ち着けセネル!一体どうしたんだ!」
「うるさい!離せウィル!!」



怒鳴り散らすセネルに、それでも考え無しに球体を叩き割ろうと拳を奮おうとしたその行為を黙認出来る筈もなく、ウィルはどうにか押さえようと後ろから掴んで無理矢理にでも止めたのだが、聞き入れそうにはなかった。
必死になって、腕を伸ばす。
止めたこちらが悪いような、そんな泣き出しそうな顔をしながら必死に必死に球体に触れようとするセネルを横目に、小首を傾げつつノーマが球体の中を見ようと目を凝らしてみて、すぐにひっと、小さな声を上げて、目を見張った。



「どうしたんじゃ?シャボン娘」
「…な、中に女の子がいる…」
「何だと?!」



告げられた言葉。
それに驚き、僅かに拘束する手をウィルが緩めてしまったその瞬間、セネルはすぐにまた球体に駆け寄り、拳を痛めるのも厭わず何度も何度も殴り付けた。

今すぐ、出すから。

目を開けて、こっちを見て

名前を呼んで

一緒に、帰ろう?


言いたかった言葉は確かに沢山あった筈なのに、閉ざされた瞳に、動かない体に、隔てるガラスに。

自分の無力さを、ただ、感じるしかなかった。




「ステラーーー!!」





その叫びすら

空に、溶けて。






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