「あっれー?ポッちんじゃん!お待ちしてたってどういうこと?」



工房に居たポッポに対し、誰もが疑問に思ったことを素直にノーマがこう聞いた。
側に見える何だか嫌な予感しかしない潜水艦に、クロエの顔色がどんどん悪くなっていくのだが、瞳を輝かせるポッポは気付きそうにない。
ポッポ曰く、雪花の遺跡へ侵入するにはここ巨大風穴の地底湖から潜水艦で行くことが出来るそうで。
曰く、その潜水艦はポッポが造り出した『ポッポ3世号』と言うもので。
曰く、この有人実験に協力してくれてありがとうだキュ、とのことで。
説明され、事実が明らかになれば明らかになって行くほどクロエの顔色が最早真っ青を通り越して紙のように白いのだが、「ちなみに成功率はどれくらいだ?」と聞いたウィルの問いに対するポッポの答えに、卒倒し掛かったのはまあ、仕方のないことでもある。



「ズバリ、1割だキュ!」



愛くるしさ全開で言ったポッポに、まさかクロエが抜刀し掛かるとは、誰も思ってもいませんでした。



「だぁー!!ちょっとちょっと落ち着いて!落ち着いてよクー!!」
「離せノーマ!いくらシャーリィを助け出す為とは言え、成功率1割のせせせ潜水艦になど誰が乗れるか!!」
「だからってせっかくポッちんが作った潜水艦叩き斬ってどうすんのさ!ていうかそれ以前に斬れない!剣で潜水艦は流石に斬れないよ!」
「そんなことはやってみなければわからないだろうが!とにかく私はご免だ!1割に命を賭けるなど冗談じゃない!!」
「あ、そっか。ジェージェーが言ってたあたしらの命の賭けってポッちんの有人実験に協力するって」
「(ジェイぶっ殺す!!)」



最後の叫びは流石に心に秘めるべく口にこそ出しはしなかったものの、咄嗟にモーゼスの手で耳を塞がれたセネル以外には、当然だだ漏れだった。
明らかな殺意を持って、八つ当たりすべく潜水艦を破壊しようとするクロエの手を必死に止めるノーマに、怪訝そうにセネルがモーゼスに対しても顔をしかめているが、ここは気高き騎士である彼女の名誉の為にも、聞いてしまった側は素知らぬ振りを貫かねばなるまい。
流石にこのクロエの姿を見れば、あの愛くるしさ全開のラッコも怯えてしまうのではないかとウィルが少しばかり心配して視線を戻したのだが、ポッポは何のことやらさっぱり、と言った様子で首を傾げていたから、心配やら気に掛けると言う項目を瞬時に排除しておいた。
これが人間相手だったなら医者をお勧めするのだが、ラッコの専門医は流石に知りやしない。



「ポッポ、何とかならないのか?」



怒りのあまりほとんど発狂し掛かっているクロエは一先ずノーマに任せておき、首を傾げるポッポに手の空いているウィルがこう聞いた(相変わらずモーゼスはセネルの耳を塞いで且つ、視界にクロエの姿が入らないように向きを変えている)(野蛮代表男にそんな真似が出来るとは思っていなかったが、どうやら本能的に何かを察したようだった)(賢い選択)。

ポッポの視界には異様な光景が映っている筈なのだが、気にも止めず目を輝かせて提案するその姿を見る辺り、実はモフモフ族って相当図太いんじゃなかろうか、とウィルでなくあのモーゼスすらも思ったのだが、背後の騎士殿が怖くて余計なことなどは言える筈も、なく。



「一つだけ方法はあるキュ」
「なんだ?」
「雄々しきものの角だキュ!それさえ取り付ければ、成功率は上がるキュ!」
「雄々しきもの…まさかグランゲートか!」
「それは本当か?!ウィの字!!」



ウィルが言った『グランゲート』と言う言葉に即座に反応し、モーゼスはついセネルの耳を塞いでいた手を離してしまったのだが、自分の意見を言うよりも光の速さの如く早く背中に突き刺さった視線に、慌てて再び手を元に戻した。
正解の反応。
自分の命惜しかったら離さない方が良いもんもあるよ、とノーマは思いつつその後ろ姿を見つめているが、実際は隣に立つクロエが怖い故の現実逃避だったりもする(何とか潜水艦破壊は止めたあたし偉い)(……もう一人誰か助けてくれたっていいじゃんか!)。
何が理由でここまでクロエが怒り狂うのか、ノーマも含めた全員がわかっていなかったのだがまさか聞ける筈もなく、また、そんな無謀な真似を出来る人間も、流石にいなかった。
誰だって命が惜しい。



「なら早速ポッポの言う雄々しきものの角…グランゲートの角を探しに行こう。ポッポ、場所を教えてはくれないか?」
「雄々しきものはこの地底湖に居るキュ。工房を出てすぐ奥だキュ。骨が沢山あるので、その中から角を探して欲しいんだキュ」
「わかった。では行こう」



今の今までの怒気はどこへやったのやら、さらっと言い放ったクロエの雰囲気に、モーゼスはようやくその手を離すことを許された気がした(と言うか、流石にそろそろセネルの方が堪忍袋の限界だ)(もうワイ、嫌だ)。
そっと手を離せば、不愉快だったとばかりにセネルに睨み付けられるが、モーゼスはそこは気にしない。気に出来ない。
とりあえず目的がはっきりとしたのは確かなので、ウィルもクロエの言い分に頷き、さっさと踵を返したその背を追いかけようとして、ふと足を止めた。
おや?と首を傾げたノーマとモーゼスには構わず、視線を向けたのは、未だギートの背を借りなければならない状態にある、セネルへ、だ。



「セネル、お前はここに残れ」
「! なんでだよウィル!」
「ジェイの言葉を忘れたのか?雪花の遺跡に侵入するまで、お前は戦うことを禁じられていた筈だ」
「それは…だが、角を探すだけなんだろ?それぐらいだったら…」
「それぐらいだからこそ、今の内に体を休ませておけと言っている。ポッポ、すまないがセネルの包帯を変えてやってはくれないか?よろしく頼む」



ここまで言われては了承するしかなく、仕方ないな、とばかりに頷いたセネルと「任せておくキュ!」と言ってくれたポッポを一瞥して、ウィルは今度こそクロエの後を追うべく足を進めた。
「お留守番よろしく〜」と暢気に言ってノーマがその後に続きちゃっかりモーゼスも続くのだが、扉を閉めるその間際に聞こえた会話に、何だか可哀想なことをした気分になった。




「セネルさん服に穴が空いてるキュ!ポッポお手製のアップリケを着けてあげるキュ!」
「…絶対に嫌だ」



悪意でも何でもなく善意で言うのだから、ある意味なにより質が悪かった。





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