「レイナード、ジェイからの手紙には一体何を?」
「…………」
「レイナード?」
「……要点のみ上げるならば、雪花の遺跡で待つ、とのことだそうだ」
「要点のみ?他に何か書いてあるのか?」
「………読まない方がいい」
「?」



キュッポから受け取った手紙を代表としてまず読んだウィルの反応に、内容を聞いていたクロエだけでなく疑問に思った者は多々居たが、追求するには何だか躊躇われて出来なかった。
おや?と首を傾げるノーマと、かろうじて「ジェイって誰だ?」と不思議に思っているセネルならば読んでも差し支えないかもしれないが、結局は誰にも読ませなかったウィルの判断は、正しいものだったと言えよう。
要約すると『どっかの馬鹿山賊のせいで計画がめちゃくちゃになったままでは腹の虫が治まりません。責任取らす為にもお手数ですがあの脳細胞死滅してるアホを連れて雪花の遺跡まで来て下さい』とのことだ。
実際の文面にはこれの七割増しでいろいろと書いてあるのだが、割愛しておく。
とりあえず、ジェイはモーゼスを一片も残さぬ程にまで消し去りたいぐらい、怒ってる。



「はいはーい!雪花の遺跡って、こっからどっちの方角にあるかわかる人ー?」



若干顔色を悪くしたウィルを他所に、明るい声でノーマがこう言った。
ようやく毛細水道から出ることが出来て嬉しいらしく、その声は弾んでいるのだが、着いて行けるだけのテンションの持ち主がモーゼスしか居ないことに、そろそろ気付いた方がいい。



「なんじゃ、シャボン娘は知らんのか」
「なにさ〜!じゃあモーすけは知ってんの?!ギートんに頼りっぱなしの、ダメダメ代表モーすけが!」
「どんな代表じゃ!んなもんただの役立たずじゃろ!」
「当たってんじゃん。だってギートんが、モーすけの飼い主なんでしょ?」
「ギートはワイの家族じゃ!んなわけあるか!」
「んなわけあるわ!」
「いい加減にせんか馬鹿者!!喧しい!」



よくぞまあここまで我慢したな、とうっかり感心してもらうぐらい、好き勝手に言わせたあと、ウィルの鉄拳制裁がようやくノーマとモーゼスの脳天に執行された。
傍観を決め込んでいたクロエ達の前で景気良く音が二発、続いたが、同情する価値は無しとさっさと話を決めることにする。
幸い雪花の遺跡の位置はキュッポがジェイから聞いてあったことと、ウィルがその位置を記憶していたことから問題はなかったのだが(共に行く面子にはかなり不安があるし問題だとは思うが)、話の間ずっと考え込んでいたセネルが、一つ提案を出した。
提案と言うのか、当然の申し出だ。
ここから先に進むに当たっての、こと。



フェニモールの、ことだ。





「せっかくヴァーツラフの軍から逃げれたのに、このまま俺達と一緒だとフェニモールがまた危険な目に晒される。そんなことになるのは、絶対にご免だ」



だから、彼女をこのまま連れて行くことは出来ない、と。
はっきりとそう言ったセネルに、クロエ達も確かにそうだな、とは思ったものの、本音を言うなればフェニモールだけでなくセネルも連れて行くのは避けたいことだった。
シャーリィを助けたい気持ちやいろいろと察することがあるだけに口には出せないが、仮に戦闘面から考えてみても戦う術を持たないフェニモールと、まだ自力で歩くことすら辛いだろうセネルとではほとんど同じとしか考えられやしない。
だからと言って無理に止めたところで一人飛び出して行き兼ねないから、誰も何も言わず続くセネルの言葉を待った。
ギートに乗ったまま、セネルは視線を移す。
一度だけフェニモールを見た後、すぐにセネルの視線は、ただ一人に向けられていた。



「頼む、ワルター。フェニモールを安全な場所にまで連れて行ってくれないか?」



真っ直ぐに見据えてこう言ったセネルに、ワルターは露骨に眉間に皺を寄せ不愉快そうにし、呆れたように溜め息を吐いた。
安全な場所、と言ったその言葉が差すことは、遺跡船の中にある水の民の里かとにかく縁のある場所へ連れて行ってくれ、とそういうことなのだろう。
いろいろなことを考えれば、それは間違った判断などではなかった。
むしろフェニモールを巻き込みたくなければ、それしかない。
それしかないとわかるからこそ、ワルターはどうも苛立って仕方ない。



「貴様に指図される謂れはない、が…フェニモールを巻き込むのは、俺も避けたいことだ」
「ワルター…なら!」
「だが、一つだけ条件がある」
「…ぇ?」



即座に言えば、戸惑ったように声を漏らしたセネルに、ワルターはテルクェスでフェニモールを球体に包みつつ、背を向けた。焦ったようにクロエが「ワルター!」と叫んだが、それはもう聞く気がない。
シャーリィを助け出すことを、セネル達に任せるつもりなどワルターはなかった。
だが、それでもどうしてもフェニモールを水の民の里に連れて行かなくてはならない間は、陸の民に任せなくてはならない。
ワルターが危惧したのは、その間のことだ。
自分が離れて、戻って来るまでの、時間。

条件など、それしかなかった。




「…俺は、貴様ら陸の民が嫌いだ。憎しみすら抱いている。だが、シャーリィは貴様らのことが好きだ。助けに行って、無様な真似はするな。特にセネル、俺は貴様に聞きたいことが山程ある」
「聞きたいこと?」
「今は聞かん。だが、必ず答えてもらう」








だから、絶対に、死ぬな。







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