派手な音を立てて壁に激突したモーゼスが、また僅か数秒で復活するのだから、質が悪かった。



「なにしてくれるんじゃセの字ぃいい!!」
「黙れ山賊。お前なんかに馴れ馴れしくされるのは不愉快だ」
「なんじゃと?!人がせっかくギートに乗せちゃろうと頼んでやったちゅーのに不愉快とはなんじゃ!!」
「不愉快なのはそこだけじゃない!馬鹿山賊!元はと言えばお前がシャーリィを拐ったせいでこんなことになってるの、まさか忘れたわけじゃないだろうな!」
「ええい!懐の狭い男じゃのう!水に流せ!!」
「流せるか!」



ぎゃあぎゃあと言い争い始めたセネルとモーゼスの二人に、心境的にはがっつりセネルに加勢に入りたかったものの、未だ痛々しいその姿にクロエが待ったを掛けウィルが仲裁に入り、フェニモールがセネルを宥めて止めた。
モーゼスに対する鬱憤は相当に溜まっていたのだろう。
顔面の形が変わるまで殴ってやらないと気が済まない、とばかりに怒りを露にするセネルに、まあまあとノーマが苦く笑いつつ開いてしまった傷を治す為にブレスを掛ければ、渋々拳は下ろしてくれる。
なんでかモーゼスが同行することになったことやらいろいろと説明する過程で、更にセネルの眉間にかなり皺が寄ったのだが、どうにか宥めて説得すれば、了承してくれたようだった(外で待ってるワルターからかなりの殺気を感じたが、誰も何も言わなかった)(彼もまたモーゼスに対してかなり怒ってるのは、誰だって知ってる)。

一通り言葉をぶつけるだけぶつけた後、結局背に腹は変えられないとのことで、傷は治したもののまだ本調子ではないセネルと、戦う術を持たないフェニモールがギートに乗せてもらうことになった。
その隣を、ワルターが合わせて進む。
傷が痛むのか時折辛そうに顔をしかめるセネルに、気付いていても声を掛けれないワルターが近くに居ることは、一体誰の救いになったのか。



「……なあ、ワルター。一つ聞きたいことがあるんだけど、良いか?」



シャーリィを助けるにしてもとりあえずここから出なければ何も始まらないと、少しばかり急ぎつつ遺跡の出口へ向かい始めてそれなりに時間が経った時のことだった。
先頭を行くウィルとクロエとの距離が僅かばかり開いたことを確かめてからわざわざ口を開いたセネルに、ワルターはほんの少しだけ眉間に皺を寄せたが、すぐにわざと無関心を装って、ぶっきらぼうに言葉を返す。



「……なんだ」
「いや、ずっと気になってたことなんだけどさ。…シャーリィはなんで、遺跡船に来ることが出来たんだ?」



長が居たのなら、絶対に許してくれはしなかっただろう?
と続く言葉を最後まで聞かずとも、その意味が容易くわかったワルターは、思いっきり溜め息を吐いてやりたい衝動に駆られたのだが、どうにか堪えて押し流した。
話しに聞いていたこと。
そしてシャーリィが何者かを知っているだけあって、水の民のことをよく知っている。
3年前に、陸の民の手からシャーリィを逃がした話は良くも悪くも知れ渡った話だった。
だからこその疑問、と言うところだろうか。
陸の民の服を着てまで、シャーリィがここまで来た、その理由。



「許されてなどいない。シャーリィは、周りが止めるのも聞かずに飛び出して行った」
「!?」
「長はその時いなかった。勿論代わりは居たがな、彼女は聞き入れようとはしなかった。一人で飛び出して行ってしまった彼女を、俺は追いかけ連れ戻しに来た。どうしても遺跡船に来たかったとは言え、一人で海に出ようとするのは無謀だったからな」



淡々と話すワルターの言葉に、セネルは思わず顔をしかめて俯いてしまった。
飛び出して行ったシャーリィの姿を再び捉えた時には既に遺跡船へ向かう船へ乗り込んでしまっていたらしく、仕方なく一旦同行することになったらしい。
まさか海に投げ出されるとは思ってなかったと、話が続けば続く程セネルの顔色がどんどん悪くなっていくのだが、誤魔化すこともなくそのままを伝えた。
別にそんな義理などワルターはなかったが、とりあえずここは嘘など交えるつもりはない。
ただ、自分の知ることを全て伝えたあと「どうして、」と力無く呟いたセネルのその言葉には、正直苛立った。
どうしても何も、彼女が何の為に行動するかなど、少し考えればわかるだろうに。





「…貴様の噂を、聞いたからだ」




遺跡船で銀髪の爪術士の少年が、マリントルーパーとして働いていると。
たった、それだけを。






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