もう、時間の問題でしかないのだと。
そう、思った。





「この辺りに居る筈だ!見つけ次第全員捕らえろ!」
「煌髪人は三名!残る一名は指示通りだ!必ず見つけ出せ!」



徐々にけれど確実に近付いて来る声と足音に、シャーリィはもう一刻の猶予もないと、そう考えることしか出来なかった。
想像するに難くない、捕らわれた後の結末など痛いぐらい知っていて、どうしても体の震えが止まらない。

怖い、とそう思った。
それは人として当然の感情であり、こんな場面に追い込まれれば誰だってそう感じるだろう。
けれど、それ以上に怖かった。
自分だけじゃなく、二人が捕まると言うことが。

失うことが嫌だった。
それはシャーリィにとって何よりの恐怖であり、だからこそ、迷いはなかった。
そっとポケットから取り出して、震えるフェニモールの手に、重ねる。
あの時にもらった

小さな、貝殻を。




「フェニモール、これを持ってて。助けてって強く思ってて」
「シャー、リィ…?」
「必ず、ワルターさんやウィルさん達が助けに来てくれるから。だから、この貝を持って、強く願っててね」



言って、すぐに立ち上がったシャーリィに、フェニモールはその言葉の意味を瞬時に理
解して目を見張った。

自分が囮になるつもりなんだ、この子は。

無茶としか言えない行動。
けれどシャーリィの意思は堅いのかもう振り向こうともしないその背に、フェニモールは届かないとわかっていたけれど、手を伸ばしていた。
待ってシャーリィ!と。
言いたかった言葉は、それ。
けれど、実際に言うことは出来なかった。
振り向こうとしないシャーリィを、自分の言葉よりもずっと引き止めれるだけの声が、彼女の名を呼ぶ声が、確かに聞こえたのだから。



「…シャー…リィ、」



小さな小さな、声だった。
驚き目を見開いたのは、何もフェニモールだけの話ではなく、シャーリィもだったろう。
大好きな兄の自分を呼ぶ声に、シャーリィは無視することなど当然出来なくて、慌てて振り返って側に駆け寄った。
辛そうではあるけれど、確かに目を開けている。

良かった、と。
まず思ったのは、それだった。
何度か瞬きをした瞳と、目が合う。



どうか、この強がりが、お兄ちゃんにバレませんように。




「お兄ちゃん…!良かった、目が覚めたんだね」
「…ごめん、心配かけた、な…シャーリィ」
「いいの、謝らないでお兄ちゃん。ワルターさんも無事だよ。フェニモールも、側に居るから」



言えば、セネルは少しだけ視線を動かしフェニモールを見て、良かった、とそう呟いた。
まだ少し意識がはっきりしていないかもしれないとシャーリィは思ったが、時間がない。
どんどん近付いて来る喧騒を耳に、シャーリィはギュッと自分の手を握り締めた。
大丈夫。
覚悟は、出来てるから。



「お兄ちゃん、私…もう行くね」
「…シャーリィ?」
「大丈夫。ウィルさん達がきっと、助けに来てくれるから」
「ま、待て、シャーリィ!どういう…っ」
「お兄さん!」



すぐにわかったのか、傷だらけの、痛いでしかないだろう体をそれでも無理矢理起き上がらせたセネルに、シャーリィは一度穏やかに笑んでみせた。
動くとせっかく血が止まっていると言うのにまた傷が開くから、フェニモールが肩を押さえて止めようとする。
徐々に近付いて来る音に気付いたのか、セネルの顔色が更に悪くなったのがわかった。

必死に手を伸ばす。
傷だらけの、その手で。



「待て!行くな、行くなシャーリィ!俺が行く!俺が行くから!だから、だから待ってくれ!シャーリィ!!」



痛いぐらい突き刺さる、自分の身を案じての彼の叫びだった。
けれど、その言い分をシャーリィは聞けない。聞くことは、出来ない。



ごめんね、お兄ちゃん。
フェニモール、お兄ちゃんを、よろしくね。




「私、メルネスだから。みんなを守らなくちゃいけないから。だから、行くね」



笑って言って。
そうして駆け出して行ったシャーリィの後ろ姿は、すぐに見えなくなってしまった。
必死に伸ばしていたセネルの手が力無く地面に落ちて、再び倒れそうになるその体を、フェニモールは慌てて支える。
掛ける言葉など、フェニモールは何も持っていなかった。
肩口に彼の頭を抱くようにして、支えているだけ。
他に何も出来なかったのだ。





まるで泣いているみたいに、彼は震えてた、から。






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