「おう!こんなところで奇遇じゃのう、ワレら!」



からからと笑ってモーゼスが言った次の瞬間、ライトニング魔神剣、そして爪術一切関係無しに、ワルターの右ストレートが決まってました。




「ワイを殺すつもりかぃ!ワレら!!」
「なぜ貴様がここに居るんだシャンドル!懲りもせずにまだシャーリィを狙ってるのか!その腐った性根、我が剣で叩き直してやる!」
「いまやったこと流すなや!爪術で攻撃したじゃろうが!」
「私たちがそんなことしたか?ワルター」
「……ふん、愚かしい野蛮な者の妄言だろう」
「顔面ぶん殴った癖によう言うなぁワレ!!」
「……」
「挙句無視すなや!」




ぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた三人を前に、ライトニングを唱えておいて傍観を決め込んだウィルに対し、ノーマは初めて見る人物を呆然としながらもどうにか指差した。
あのワルターでさえわざわざ相手してやる程の人物に、驚きを隠せないと言うよりは「なにやったんだ?あいつ」とそんなような疑問しか浮かばない。
グランドガルフを連れた眼帯の男は一体いつ巻き込まれていたのやら、全身水浸しとメラニィによって出来た水路に流されただろうと言うのは簡単にわかった。
クロエとワルターの目が怖いが、それよりもウィルの方が怖いと感じたのは、果たしてノーマの気のせいかどうか。



「ねぇねぇ、ウィルっち。あれってさっき外に居た…」
「ああ、先程妙なタイミングでジェイの作戦を潰し掛けた男、モーゼス・シャンドルだ。札付きの山賊でな。以前、遺跡船に着いたばかりのシャーリィを拐った奴だ」
「げげっ!そりゃワルちんもクーも怒るわー…また邪魔しに来たのかな?モー助」
「…………さあな。だがいつまでも構っているわけにもいくまい。行こう」
「だぁー!!ウィルっちまたライトニング唱えんのはなし!」



時間の無駄と捉えたのか容赦無く爪を光らせたウィルに対し、ノーマが咄嗟に叫んだことは叫んだのだが、結論から言うなればまあ間に合わなかった。
再びライトニングに散沙雨、妙にタイミングの合ったコンボに地に伏したモーゼスに対し、追い討ちでもう関心もなくなったワルターが、足でその上を踏んで先へ進む。
「待たんかいワレら!!」とモーゼスが怒鳴った時は既にウィルとクロエの姿は遠く、ワルターに至っては後ろ姿が豆粒近く小さくなるぐらい、さっさと進んでしまっていた。
変に残されたのはノーマだけ。
あんまりにも悲惨なモーゼスの扱いに若干引いていたのだが、すぐに置いて行かれた事実に我に返って、駆け出していた。
「ちょっと〜!みんな置いてかないでよ〜!」と叫ぶその背も、またすぐに小さくなっていく。



「おい待てこら!ワイを無視するなって言うとるじゃろーが!!」



ここで追いかけると言う選択肢を取ったモーゼスに、誰の溜め息が漏れたかなど、言うまでもなく。



















「ここで、す!ここを押せばきっと!」



少し拓けた広場の、壁にしか見えない場所に辿り着いたシャーリィは、縋るようにボタンを探し、そうしてジェイの言っていた通り現れた隠し部屋にようやく足を踏み入れることが出来た。
意識を失っているセネルは怪我をしてないとは言え女二人の手には重く、床に出来るだけそっと横たわらせた後は、息を整える為にも思わず座り込んでしまう。
少しの間お互いに話すことが出来ずにぼんやりとシャーリィはセネルを見つめていたのだが、相変わらず目を開けてくれそうにはなかった。
少し這って近付いて、そうして息を確かめれば、生きていると言う事実に救われる気がする。
傷の具合を見れば大体の止血はされているようで、気付かなかったけれどノーマかウィルがブレスを掛けてくれたのかな、と。
その時は、それだけだった。




「ありがとうございます、お兄ちゃんを助ける為に力を貸してくれて。えっと…」



会話が出来る程までに息を整えて、そうしてこう切り出したシャーリィは、ここでようやく目の前の少女の名前を知らないことに気が付いた。
思わずどうしたら良いものかと戸惑ってしまえば、呆れたように息を吐いたあと、少女が答える。



「フェニモール。フェニモール・ゼルヘスよ」
「ゼルヘス…『祝福』って言う意味の誠名ね。素敵な名前…」
「ありがとう。あなたの名前は?」
「あ、わたしは…シャーリィです」
「誠名は?」



すぐにそう聞き返したフェニモールに、シャーリィは一瞬、ほんの少しだけ返すのを躊躇ってしまった。
側に横たわるセネルに、縋りつきそうになる。
傷だらけだからそうはしないけれど、こんな状態でなければ、きっと縋ってた。



「シャーリィ?」
「……フェンネス」
「!」
「シャーリィ・フェンネス」
「『祈る人』か…凄い誠名。きっと将来を期待されてたんだね」
「どう、かな…私、何も果たせてないから」



呟くように言ったシャーリィに、フェニモールは少しだけ眉を顰めてしまったのだけれど、何か返す言葉は浮かびやしなかった。
セネルの側で、傷だらけのその体に触れることも出来ずにいるシャーリィの姿に、フェニモールはつい顔を背けるように俯いてしまう。
雪花の遺跡に連れられるべく護送車に乗せられた時よりも規則正しい呼吸に、どこかで安堵している自分にフェニモールは戸惑っていた。
いろいろな感情が、入り交じっている。
それは、きっと同族である彼女に対しての方なのかも、しれなかった。



「…やっぱり、あんた水の民なんだよね」



ぽつり、と。
小さな声がそう告げた。
フェニモールの言葉。
それから続く言葉など簡単に予想出来て、シャーリィの耳にはあんまりにも痛みを持っていた。



「なのに…なんで陸の民が、お兄ちゃんなのよ…っ」




吐き捨てられるその言葉は、ああ、最初からわかっていた筈なのに。






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