トントン拍子に話が進んで行くのを、黙ってただ眺めていた。
迷惑にならないよう静かにしてるって?
そんな馬鹿な話はないし、大体迷惑を掛けてこそ意味があるのだし、気遣ってやる理由もない(関係無い人を巻き込むのは、ちょっと気が引けなくもないが)。
街の保安官?博物学者?あんな犯罪者がそんな風に言われてるなんて、よっぽど周りの目は節穴だったんだろう。そうとしか思えない(だって、あいつにそんな資格はないのに)。
時間が経てば経つだけどんどん腹が立って仕方なくなる気がした。
膝を抱えて踞ったまま。
我慢してるって?
違う、怒りを溜めてるだけなんだから!








「では、早速ですが現在の状況を軽く説明しますね」



言うなり、見えるようジェイが広げた遺跡船の地図に、食い入るようにウィル達は除き込んだ。輪に戻ったシャーリィも必死になって説明を聞いており、しかしワルターは立って壁にもたれてなどいるのだから、ここで一緒になって戻らない辺り相変わらずと言った感じだろう。
小柄故にかジェイのわりと小さな手が地図を指し示しているのを、眉間に皺を寄せながらハリエットを眺めていた。
目的の人物は、背中しか見えない。
見えないが、わざわざ場所を移動して見る気になんかなれやしない。



「現在僕たちがいる場所はここです。セネルさんはおそらくこのルートを辿って運ばれるでしょう」
「ん?そういえばジェージェー、セネセネってどこに連れて行かれるのさ?」
「雪花の遺跡です」
「でぇええ?!!雪花の遺跡?!」



説明の最中だと言うのに、思いっきり話を打った斬って喚いたノーマに、呆れたようにクロエが溜め息を吐いた。
うるさいぞノーマ、と言われる内が華だと言うことにそろそろノーマも気付いた方が良いのだが、わざわざ忠告するような人は居ない。



「雪花の遺跡がどうかしたんですか?ノーマさん」
「どうかしたんですかじゃないよリッちゃん!雪花の遺跡はね、封印が厳重過ぎて最奥まで辿り着いた人はいないっつう…」
「ノーマの言うことが正しいのなら、なぜヴァーツラフはそんな遺跡にわざわざ出向いているのだろうか…いや、話の腰を折ってすまないな、ジェイ。続きを頼む」



喚くノーマをほとんど無視して、自分の意見を交えながらもウィルが話の軌道を元に戻すべくジェイに促した。
宥めるクロエとシャーリィが可哀想な気はするが、さっさと話を詰めてしまわないことには何も始まりやしない。



「雪花の遺跡にはこの遺跡船に関する重要な何かがあります。ヴァーツラフの目的はそれでしょう。セネルさんはその重要な何かに関わって来る煌髪人…つまりシャーリィさんとワルターさん、お二方を誘き出す為の体の良い餌ですね。ヴァーツラフもわかっているのでしょう。身を呈してまで庇ってくれた彼をお二方が見捨てることは出来ない、と。でなければセネルさんはとっくに死んでますから」
「ジェイ!何もそんな言い方はしなくとも…!」
「事実です。話を進めますよ。ヴァーツラフの目的はこの遺跡船そのものです。となると遺跡船に関わっているだろう雪花の遺跡に、セネルさんが運ばれてしまうといろいろと不味いんですよ。そんな重要な場所にいくらセネルさんを助ける為とは言え『煌髪人』と言う存在が踏み込むことが不味いと言うのはわかりますよね?何があるかわかりません。それに戦力の問題もあります。今は本隊と護送部隊が分かれていますから戦力的にまだ可能性はありますが、本隊と合流されたらまず無理です。ですから合流される前、この場所で奇襲を掛けましょう」



言って、地図を指し示しすジェイを前に、ハリエットは頬すらも膨らましてだんだん目も据わってきた。
ここは…毛細水道か?よくお分かりで。ここは崖に挟まれて軍の行動が著しく制限を受ける地点があります。ああ、だから奇襲にはうってつけってわけね!…など、なんだかごちゃごちゃ話をしているが、ハリエットとしては何だか無性に腹が立つばかりでどうでもいい。
隣を見上げればワルターと呼ばれた青年が険しい顔をして立っていたが、彼はまだ話を聞く気はあるらしく、ここで何か言えば間違いなく睨み付けられるのはわかっていた(お世辞にも年下相手に優しく出来るようなタイプには見えやしない)。
…なんだか、本当にイライラし過ぎて腹が立つ。
セネルと呼ばれる人のことを、ハリエットは何一つ知らなかった。
知らなかったけれど、娘のことよりもその人が優先なんて、なんか腹立つ。癇に障る。
ママのことは、簡単に見捨てた癖に!




「…ばっかみたい、犯罪者の癖にそんなに必死になって。罪滅ぼしのつもりなわけ?」



睨み付けながら一応父親らしい男に言った言葉は、一区切りついたらしい会話の間に思ったよりもよく響いた。
犯罪者が振り返る。それと一緒に周りの人達も。
驚いたりいろんな視線と交わったが、ハリエットとしては別にどうでも良かった。



「ハリエット…」
「気安く呼ばないで!あんたなんかママのことは簡単に見捨てた癖に、そんなにセネルって人が大切ならその人子どもにすれば良いじゃない!ママのことも…ハティのことも何もしなかった癖に!!」



いや、クーリッジを自分の子どもにするにはかなり無理があると思うが、とクロエがボソッと呟いたが、幸いなことにウィルにもハリエットにも届いてはいないようだった(ただしジェイには聞こえていたらしく、ならウィルさんの実年齢は40歳ぐらいですかね、ととんでもないことを言っていた)。
キッと睨み付けて、ハリエットは急に立ち上がる。
未だ呆然として座ったままのウィルを見下したいのかそこまでは見ることしか出来ない周りからはわからないが、小さな体は、震えていた。



「あんたなんか…あんたなんか!ママじゃなくて、あんたが死ねば良かったのに!!」



震えながら叫んだ言葉に、返せる言葉など、誰も持たなくて。




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