日の光に照らされて、靡く金を覚えてる。


(綺麗だなって、ああ、それだけを)


瞳の色も。
彼女達に与えられた色彩の、全てを。
青と白を基調とした服を、間近に、それでも線引きされた外からずっと見てた。


忘れない。
彼女達の色を、覚えてる。




「……水の民、か…」



呟くように、けれど確かにそう言った目の前の存在の言葉に、ジッと様子を見ていた少女は驚き目を見開いていた。
自分の聞き間違えでもなければゆっくり目蓋を押し上げて、蒼い瞳できちんと確認してまで告げた少年の言葉に、少女は今まで鳴りを潜めていたあらゆる負の感情が溢れそうになるのを、とりあえず押し流す。
辛いのか意識が覚醒して間もないからか知らないが、ぼんやりと視線わさ迷わせる少年は、それでも再び目を瞑ることだけはしなさそうだった。
少女は一度だけ、ギュッと唇を噛み締める。
陸の民には恐怖しか湧かないけれど、ここで聞かないわけにはいかなかった。



「あなた…なんでその呼び方を…」
「ここは…それに、君は…?」



物の見事に会話が噛み合わなかった瞬間だった。
どうやら先程の呟きは本当に独り言のつもりだったらしく、改めて質問として掲示された内容に、少女は頭を抱えたくなるような気分になったが、相手は目覚めたばかりだと僅かに残った冷静さがそう判断し、今はまず答えることにする。



「……ここは、牢屋よ。逃げることも出来ない。あいつらに殺されるのを待ってるだけの、そういうところ」
「牢屋…」
「あなたは傷だらけでここに放り込まれたの。…陸の民同士の争いなら、私たちを巻き込まないでよね」
「…ぁいつ、ら…そう、だ…そうだ…!なあ、ここには他に、誰か捕まったりしてないか?!俺の他に誰か…っ!」
「ちょっとダメよ!いきなり起き上がったりしたら傷口が…!!」



最初の内はどこかぼんやりとしていた少年が、急に我に返って捲し立てるように聞こうと…しかも無理矢理体を起き上がらせたりもしたから、少女は慌ててもう一度横たわらせた。
無茶だったのだろう。
それなりの抵抗も出来ずに大人しく再び横たわる少年を前に、そこでようやく少女は矛盾に気付く。
傷に障ろうがなんだろうが、陸の民がどうなろうと自分には関係ないと言うのに、心配で止めたと言う自分自身の行動に戸惑いを隠せなかった。
…なんで?



「あなた、の他には…連れて来られた人は居ないと、思う。私が知る分には、ですけど」
「そうか…良かった…」



目に見えてほっと息を吐いた少年に、少女は益々困惑して仕方なかった。
良かった、なんてどこをどう捉えたらそんな風に思えるのだろう。
仲間が無事だったらそれでいいのだろうか?
喜ばしいことだとは思うけれど、ここに居る以上近い未来、死ぬことしか約束されていないと言うのに。



「傷の手当ては…君がしてくれたのか?」
「ぇ?ぁ、い、一応…」
「そっか…ありがとう。……なぁ、もし良かったら…名前、教えてくれないか?陸の民の俺に言うのは、嫌だと思うけど…無理にとは、言わないからさ。教えて、欲しい」



そんなに回復していないだろうと言うのに、それでも礼を言って、そうして名前を訊ねて来た少年に、少女は本当に本気でわけがわからなくなった。

こんな、陸の民知らない。

少女にとって陸の民とは仲間を殺し蔑む理不尽な存在でしかなかった筈だった。
礼を言うなんて持っての他だ。
知らない。
陸の民がこんな筈ない。
そう思えば思うほど、だからこそ、戸惑ってばかりで。



「……あなたから、教えて」



精一杯の強がりは強がりにも成れず、たったそれだけしか口に出せなかった。
けれど、少年は気分を悪くすることもなく、普通に答えるからこそ、また違和感。



「俺…は、セネル。セネル・クーリッジ」
「……………フェニモール。フェニモール・ゼルヘス」



渋々、と言ってしまった形になったが、それでも一応フェニモールは答えたのだが、続いた言葉に、頭が真っ白になった。



「…ゼル、ヘス…祝福、か…」
「!」



ぼんやりとしながらも、それでも確かに言ったセネルの言葉に、フェニモールは自分の耳が信じられなかった。
どうして、としか頭に浮かばない。

ゼルヘス、祝福の意味を持つ誠名。

その意味を、ゼルヘスと聞いただけで陸の民がわかる筈ないのに、どうして!




「おい、あっちだ。女の方を連れて行くぞ」



浮かんだ疑問。
それを問い質す前に、不意に勢い良く牢が開けられ、兵士の恰好をした人間が数人入って来たから、フェニモールは一瞬で恐怖の方が一気に沸き上がった。
体が震える。
だって、ここから出る。
その結末を知っている。
逃げたい、死にたくないと思うのに手足はピクリとも動いてくれなくて、気が付いたら腕を掴まれて無理矢理立ち上がらせれていた。



「いやっ!離して!!死にたくない!死にたくないっ!助けて、メルネス様…!!」



縋るように、そう叫ぶことしか出来なかった。
無理矢理引き摺られる。

助けて助けて助けて!
お願いだから誰か助けてよ!!

馬鹿みたいに、それだけしか叫べなかった。
それだけしか、考えられなかった。
だから、気付かなかった。
ふわ、と軽くなった自分の腕と、その意味に。



「…ぇ?」



目の前に見えた銀色に、呟けたのは、それだけだった。







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