「ちょっとどういうことなのさー!あたしらのこと知ってて遊んでたの?!」
「貴公が『不可視のジェイ』と言うのならば、港で会った時に言ってくれれば良かったのではないか?」
「……まさか君が『不可視のジェイ』とは…意外だな」
「あのっ、あなたが『不可視のジェイ』さんなら、お兄ちゃんのこと…っ!」
「はい、皆さん言いたいことが沢山あるのはわかっていますから、とりあえず座りません?立ったまま話し合うには、時間が掛かるでしょう?」



姿を見るなり各々好き放題に言い始めたウィル達に、少年は、ジェイはにっこり笑ってとりあえず座るよう促した。
それなりに広さのある部屋で、ジェイがまず最初に座れば、順々に円を描くよう腰を下ろす。
唯一ワルターは立ったまま壁にもたれていたが、ジェイは咎めることはしなかった。
ワルターのそのすぐ側で膝を抱えてウィルを睨み付けているハリエットの方が、余程話の腰を折りそうだったからだ(とは言え彼女を追い出すことなど、ワルターどころかジェイだって出来そうにない)。



「さて、ではまず最初に僕が皆さん方に名乗り出なかった理由をお教えしましょう。まあ単純な話、皆さんの実力が知りたかったんです。依頼を受けるに当たって、相応しい力を持っているかどうか」
「……それで、こうしてここまで辿り着けたと言うことは、俺達は君の御眼鏡に叶ったと言うことか?」
「ええ、それはもう。列岩地帯に居たでしょう?あれを倒した時点で、依頼を引き受けるのは確定でしたので」
「ああー!あのヤギもどき!」
「……ヤギもどきはともかく、本当に助かりましたよ。ピッポ達が困っていたんで」



さらりと言ったジェイに、ウィルとクロエは「こいつ良いように私(俺)達を使いやがったな…」と思ったが、溜め息を吐いただけで口には出さなかった。
むっきー!と喚くノーマを適当に宥めつつ、とりあえず話を進めなければ埒が明かない。



「それで…お兄ちゃんのことなんですが」



おずおずと、縋るような目をしてシャーリィが聞けば、ジェイが相変わらず何を考えているのか読ませない笑みを浮かべて、言う。



「そうですね、では早速本題に入りましょう。依頼の内容であるセネルさんの居場所に関してですが…現在、セネルさんはヴァーツラフ軍の隠し砦に捕らえられています」
「ヴァーツラフ軍だと?!クルザンド王統国がなぜ…」
「それは僕よりもそちらのお二方が詳しいと思いますけど…説明お願い出来ますか?シャーリィ・フェンネスさん」



言った瞬間、シャーリィが肩を跳ねさせたと同時に、ワルターが即座に彼女を庇うように前に出た。
そうして有無を言わさずシャーリィを立ち上がらさせ、背後に庇う姿に、クロエ達は上手く反応が出来ないでいる。
禍々しい殺気すらも放つワルターに、それでもジェイは飄々として怯むこともなかった。



「貴様…なぜその名を知っている!」



睨み付けながらワルターがこう言えば、ジェイは特に何か考える素振りも見せず、普通に答えた。



「シャーリィさんだけじゃなくて自己紹介などなくとも皆さんの名前ぐらい知っていますよ、ワルターさん。ウェルテスの保安官であるウィルさんに騎士の名門、ヴァレンス家の娘であるクロエさん。そしてトレジャーハンターと言う面目で水晶の森の一部破壊をしたノーマさん」
「こら〜!なんであたしだけそんな認識なのさ!」
「事実です。情報屋としての僕の力を借りに来たと言うなら、当然の結果でしょう。結構有名ですよ?ノーマさんの自然破壊活動。もう少しでどこぞの山賊の迷惑行為と同率になれます」
「そんなの誰情報だよそれ!」
「事実です」
「二回も言うなー!」



むっきー!と再び喚き始めたノーマに、今度は強制終了とばかりにウィルの鉄拳制裁がその脳天に華麗に決まった。
呻き声だけになり大人しくなったノーマを横目に、ウィル達の視線はワルターに向く。
説明してくれ、と訴えかけるそれだったが、しかしワルターは頑なに答えようとはしなかった。


はぁ、とジェイは溜め息を吐く。
予想はしていたが、当事者の説明でないと、回りくどくなって仕方ない。



「ヴァーツラフの目的はこの遺跡船にあるとされている兵器…延いてはかつての元創王国時代から今も生きて走り続けている遺跡船そのものを手にすることと、『メルネス』と呼ばれる存在を確保することです」
「『メルネス』だと?言い伝えとばかり思っていたが…まさか本当に存在するのか?」
「ええ。『メルネス』と呼ばれる存在が元創王国を治めていたのは確かな史実です。遺跡船の上に王国を創り上げそこを治めていたとあれば…『メルネス』が遺跡船に関して重要な役割を果たしていたのは想像に難くないでしょう。そして皆さんも一度は耳にしたことがある筈です。『メルネス』を含め元創王国を創り上げた古代文明人の話を」
「煌髪人か!」



ジェイの問いに、クロエが直ぐ様返した言葉にシャーリィは肩を跳ねさせ、ワルターは苦々しく顔を歪めた。
続く言葉はもうわかっている。
それを否定すべき言葉を、何も持っていないことさえ、も。



「そう、言い伝えでは水中で呼吸ができたり髪が光を発するとされている種族のことです」
「でもそれが一体なんなのさ?流石に嘘っぱちでしょ」
「いいえ。嘘っぱちなどではなかったんですよ、ノーマさん。煌髪人は存在する。そして『メルネス』と呼ばれる存在もまた、同じように」



言い切ったジェイに、心底不快そうにワルターは苦々しく顔をしかめた。
そしてシャーリィを庇うように立っていて正解だったとも、思う(彼女はきっと、今頃泣きそうな顔をしてるだろうから)。





「ワルターさん、シャーリィさん。お二方は、煌髪人ですよね?」




ああ、だから陸の民など信用出来ないんだと。
そう叫べれたら、一体どれだけ楽になれるのだろうか。





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