村が焼けるのをこの目で見た。

人の焼ける臭いを知った。



あまりにも理不尽な現実に、溢れたのはただ怒りだけ。
自分達ばかりどうしてこんな目に合わなければならないのか、愚かしい陸の民にいつか必ず復讐すると、覚えたのは憎しみばかりだけ。



『お兄ちゃん…、お姉ちゃん…っ!』



泣きじゃくる少女の姿を見たのは、逃げ延びた先の森の中だった。
周りの大人達は長と話すのに必死で、誰もその涙を拭おうとはしない。
側に寄り添うには、どうしてか出来なかった。
数歩空いたその距離で、涙を溢す、その横顔を見ているだけ。



悲痛に叫ぶ。
彼女の声が、耳に痛かった。













「…あ、良かった…大丈夫ですか?ワルターさん」



ぼんやりと霞む視界に目を細めて、そうして見えた自分を覗き込むように見るその金色に、ワルターは驚き目を見開いていた。先程まで見ていた夢のせいか、彼女の姿が数年前の、今よりももっと幼い姿と一瞬被って、思わず居たたまれなさからワルターは顔をしかめてしまう。
思考の波に呑まれる前に、ワルターは一度自分の置かれた状況を把握する為に辺りを見回した。見たことのない天井に、しかし捕らわれたわけではなく、どうやらわざわざ毛布まで掛けられて、自分は今までソファに寝かされていたらしい。
拘束など、されてもいなかった。



「ここは…」
「レイナードの家だ、ワルター」
「クロエさん…!」



側に居るシャーリィに聞いた問いは、どうやら側に居たらしいクロエが拾ったらしく、返って来た答えにワルターはゆっくり、上体を起き上がらせた。
感覚が鈍っていたらしくその気配に気付けなかった自分に苛立ちつつも、視線を向ければ苦々しく顔を歪めたクロエと、何故か向かい側にあるソファに寝転がっているノーマの姿があり、ワルターはわけがわからんと更に顔を険しくさせる。
その様子にシャーリィは困ったようにおどおどし出したが、見ている側が顔をしかめてしまうぐらい、泣き腫らした痕が残っていたから、ワルターは多少努めて鋭い視線を送るのは止めた。
下手に喰って掛かるよりも、聞きたいことは他にあるのだから。



「……それはどういうことだ」
「んー?そりゃあワルちんがあの後気絶しちゃったから、ウィルっちの家まで運んで治療したって話よ。あ、そーだワルちん。大丈夫だと思うけど、どっか痛いとこない?なんならもっかいブレス掛けとく?」



ソファの上で寝転がったまま答えたノーマに、一瞬にしてワルターの額に見事に青筋が浮かび上がったのだが(おい、なんだそのワルちんなんて呼び名は!)答えとしては望んだ通りのことだったので、いきなりデルクェスを仕掛けるのはどうにか止まった。
ただワルちん呼びは各々思うところがあったようでクロエは言い出したノーマを諫め、シャーリィは困ったような笑みを浮かべている。
そんな心境じゃないのだろう、とはワルターだって簡単にわかっていた。
そこに気付けない程、馬鹿ではない。



あの場にあの銀を置いて来てしまった、その意味。





「……あいつは、どうなった」


低く放ったその言葉に、気まずい沈黙が少し流れたあと、それでも答えたのはシャーリィだった。



「お兄ちゃんは…居ませんでした。誰の姿も、彼処には残ってなかったんです」
「…捕まった、と言うことか」
「…………はい」
「私達はあの後すぐにシャーリィが言っていた場所にクーリッジを探しに行ったが、既に遅かった。…残っていたのは血の跡と、何人もの足跡だけだ」



静かに言ったクロエの言葉に、シャーリィが僅かに肩を跳ねさせたのをワルターは気付いたが、何も言えなかった。
おそらく、この言い方は残されていた血の跡は、決して楽観視出来るような量ではなかったのだろう。
にも関わらず死体はなかったと言うことは、あの兵達が連れて行ったのだ。


それはどう考えても、シャーリィを誘き出す為でしか、ない(けれどきっとあの男は、助け出されることを望んではいないのだ)。






「…眼鏡を掛けた男は、どうした」



重苦しい雰囲気の中、それでも構わずワルターはこう聞いた。
大体現状は把握出来たのだけれど、多少は記憶にあるあの男が居ないとあれば気になるのは当然で、疑問をそのまま口にすればクロエが答える。



「レイナードなら『不可視のジェイ』に連絡を取りに行った」
「『不可視のジェイ』?」
「なんでもこの遺跡船を知り尽くした情報屋みたいだよー。セネセネを助けに行くんなら、その筋の専門家に頼まないと後手後手に回るだけだからね」



胡散臭いな、と素直に思った感想はそれだったが、流石にワルターもそれは口にしなかった。






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