最初からただ、気に食わなかった。

昔の話だ。

お前はこちらを知らないけれど、こちらはお前を知っている。
何度村長に追い出せ殺せと言ったかわからないぐらい、薄汚い分際で村に居たことも、許せなかった。


(まだ子どもだからと、そんな理由で片付けられるものか!)


苛立ちは簡単に憎しみになり、3年前に囮となって消えた時には心底ほっとした。
仲間も沢山捕まったことは悲しみしかなかったけれど、あいつらに捕まることは必ず助からないことになると、知っている。
だからこそ、なぜここに居るのか、怒りの方が優先されて仕方なくなった。


なぜこいつが、生きてるのか。






「―――死ね」



淡々と青年が放った瞬間、呼応するように青年の背後に在る存在が襲い掛かって来たから、セネルは小さく舌打ちをして間合いを空けた。
狙いは自分だとわかるからこそ、とにかくシャーリィから離れようと足を運ぶ。
「ウィルとクロエはシャーリィを護ってくれ!」と攻撃を避けながら叫べば、了承の意が取れると同時にシャーリィが悲痛な程に声を張り上げて、叫んだ。



「やめて下さいワルターさん!お兄ちゃんはっ、この人達は敵じゃありません!!」



制止の言葉を放つシャーリィに、セネルはこの目の前の人間と彼女が知り合いらしいことに驚きを隠せなかったが、しかしどうにも青年、ワルターは聞く耳を持たないようだった。
淡々と従える存在に指示を出すワルターに、セネルは顔をしかめつつその攻撃を避け続ける。


戦いたくなかった、と言うのが本音だった。


けれど止まらないワルターの攻撃に、セネルはとうとうやむを得ず拳を交えたのだが、その、瞬間。



「―――――ぇ?」



身を守るべく交えたその時、突如自分自身の体から爪術ではない何かが、外へ出ようと暴れるような、そんな感覚が走った。交えたワルターも、先程までの殺意をどこへやったのか、酷く戸惑っているらしい。
セネルはセネルで困惑していたのだが、しかし次の瞬間襲い掛かって来た頭痛に、耐え切れずその場に膝を着いた。


頭が、割れるように、痛い。




「…ぁ、ああああっ!!」
「お兄ちゃん!?」



突然その場に踞ったセネルに、慌ててシャーリィ達は駆け寄ったが、まともな反応を返せない程にセネルは頭を押さえるばかりで顔を上げなかった。
すぐにウィルは回復呪文を掛けセネルの代わりにクロエがワルターと対峙するが、ワルターはワルターで目を見張ってセネルを見るばかりで、攻撃をする気配はないらしい。
肩で息をするセネルに掛けた回復呪文は多少は効いてくれたようで、少しずつ呼吸を整わせるセネルにウィルはほっと息を吐いたのだが、その瞬間突如駆け抜けた一陣の風に、弾かれるように反応したが、遅かった。



「悪いがこの嬢ちゃんは、ワイがもらってく!」



グランドガルフの背にシャーリィを乗せ、高らかにそう言った眼帯の男に、今更なにをどう反応しても手遅れだった。
颯爽と去るその背に対し、出し抜かれたからかワルターが舌打ちをして背に羽を生やし追うが、碌な追跡手段を持たないセネル達は何も出来やしないだろう。



「シャーリィ…っ!!」



痛む頭を無理矢理堪え、セネルはもう既に小さくなった男の背に、それでも大切な妹の名を、叫んだ。
叫ぶことしか、出来なかった。




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