やっとこさ時間を掛けてようやく辿り着いた火のモニュメントと呼ばれる場所は、案の定入り口が閉ざされていたことには閉ざされていたのだが、そこでお構い無しなノーマの荒っぽい解除法が披露されたのは、お決まりな流れ過ぎて誰も何もツッコミはしなかった。
唯一ウィルだけが鉄拳制裁をお見舞のは、彼が学者だからと言う理由が一番強いからだろうが、あれは単にここへ辿り着くまでの鬱憤を晴らしていることもあるのだろう。
さっさと見て回らないと夜になってしまいますよ、と言ったジェイの言葉に全員が気を引き締めてあちこちを注意しながら回っていたのだが、奥へ奥へと進むその最中に、何故か正体不明の、光を放つオブジェクトなんかがあったから、これには揃って首を傾げていた。



「なんじゃ?このピカピカは」
「感想が幼児より酷いですよ、モーゼスさん」
「ど突くぞジェー坊」
「シャンドルが悪い」



バッサリとモーゼスの言い分を切り捨てたクロエの言葉に、モーゼスは勿論、ジェイまでも顔を引き攣らせていたのだが、何か言えるような度胸はなかったので、とりあえず黙っておくしかなかった。
光り輝くオブジェクトを前に、どうするかを話し合う。
別に罠でもなければ何かしらの危害を与えるような物にも見えなくて、なら触ってみるかと手を伸ばしたのは、セネルだった。



「待ってくれ、クーリッジ。私も…」
「え?」



私も一緒に、とクロエがそう言い掛けたその時に、しかし先にセネルが触ってしまったのだから、やり取りを見ていたノーマなんかは苦笑いだったのだが、セネルが光り輝くオブジェクトに触れた瞬間、いきなり目の前が真っ白になったのだから、これには全員が全員、何の反応も出来やしなかった。
真白の光の中で、見えたのは一枚の場景。
誰も理解は出来なかった。
一体それが何を指し示すのかも、知らない。



「今のって…」
「見たことのない、知らない景色だったな。全員同じものを見せられたのか…?」
「それすらも一体何の為に?と言うところでしょうが、とりあえず先へ進みましょう。今の一度で分かることではないのなら、この先にも同じようなものがあるかもしれません」



頭の中に突如浮かんだ光景について、ジェイがそう結論付けて先へと促したのだが、そうして足を進めようとして、ふとセネルが呆然と自分自身の手を見つめていることに、クロエがまず気が付いた。
俯いてすらも見えるセネルのその横顔が、どこか青褪めているように見えたのは、気のせいかどうか。



「どうした?クーリッジ」



呼べば、ハッと我に返ったセネルが慌てて顔を上げたのだが、その顔色があんまりにも悪く見えて、クロエは思わず顔をしかめてしまった。
ノーマかウィルを呼んだ方が良いだろうか、と思い先へ進んだ仲間達を振り返ろうとすれば、しかしセネルが、それを止めて。



「何でもない、大丈夫だ。クロエ」
「だが、クーリッジ!」
「大丈夫、大丈夫だ!」
「クーリッジ…」
「俺は平気だ。…みんなには、内緒にしておいてくれ。頼む、クロエ」



そう言って背を向けて進んで行ったセネルに、クロエは何も言えずに後を追うしかなかったのだが、漠然とした不安を拭うことは出来なかった。
奥へ進む度に存在する光り輝くオブジェクトに、一緒に触れることも出来ないまま、足を進めるしかない。
顔色が悪いように見えたとは言え、もしかしたらこの場所のせいかもしれないし、ウィル達が気付いていないと言うのなら、気のせいだったかもしれないとも思えて、クロエは何も言えずにいた。
火のモニュメントの最奥部で、ボルケイノゲートを倒す時に、セネルも普通に動けていたように見えたから、それは余計に。









「あ、お帰りなさい、皆さん!ちょうど夕ご飯、出来たところなんですよ」



さんざんこの地下空間を歩き回る羽目になったせいか、次に行くよう頭の中に浮かんだ場景からそこが氷のモニュメントと呼ばれる場所だとはあっさり分かったのだが、如何せん火のモニュメントに辿り着くまでに時間を掛け過ぎていたせいで、一旦海岸に戻ろうと言う結論を出した時にはすっかり日も暮れていたそんな時だった。
一体どういう構造になっているのかまるで分かりやしないが、この場所に日暮れも夜も存在するのは不思議でしかなくて、しかし突っ込んで考えたら考えたで答えが出ないのは目に見えた話でもあり、ジェイやウィルなんかはぷっつり、そこで思考回路を切っていたりもする。
出迎えてくれたフェニモールの言葉に、ノーマやモーゼスがはしゃいでご飯!ご飯!と駆けて行ったのをウィルが呆れたように溜め息を吐いて少しばかり注意しに行き、お構い無しにグリューネがよく分からない歌を歌って配膳の手伝いをしているキュッポ達を見ているのをクロエが苦く笑っていたりもしたのだが、どこか怪訝そうにセネルを見ているフェニモールに気付いてしまえば、自然と全員の視線は2人へと、向けられていた。
般若のような、とまでは言わないものの、どこか険しく顔をしかめるフェニモールに対し、思わず目を泳がせてしまっているセネルのその姿を見てノーマやモーゼスは首を傾げているが、ジェイとウィルはフェニモールと似たような顔付きに、なっていて。



「…どういうことですか、お兄さん」



地を這うような、とまでは言わないものの、それに近いものがあるフェニモールの声色に、セネルは顔を引き攣せることぐらいしか出来ないようだった。
見守るしか他に術がないモーゼスとノーマは戸惑っているが、ウィルとジェイの目も、相応に冷たい。
ギロリと睨み付けたフェニモールが、セネルの腕をひっ掴んで問答無用とばかりに簡易ベッドに寝かせたのはあっという間のことで…正直これには、黙って見ていたクロエも若干引いてしまうぐらい、容赦ない行動ではあった。
枕から勢いよく落ちてクーリッジが頭ぶつけているぞ、フェニモール。



「なんでそんなに1人だけ顔色悪いんですか!!お兄さんまた無茶したんですか?無理したんですか?一体何をやらかしたんですか!」
「い、いや…別にそんな大したことは何も…っ」
「自分の顔色を鏡で見ても同じこと言えるなら、最後まで言ってもいいですよ」



にこりとも笑わず、淡々とそう言ったフェニモールに、これには当事者でない筈のノーマやモーゼスも凍り付き、クロエもかなり距離を空けてしまったのだが、フェニモールと似たような表情を浮かべて詰め寄ったのが、ウィルとジェイだった。
「一体何があったんですか?」と聞いたフェニモールに淡々と説明する辺り、セネルに対して「体調が悪いなら早く言え」とかなりご立腹らしい。
火のモニュメントでボルケイノゲートを倒した云々の辺りでフェニモールは鼻で笑ったが、万獣の王ゲート云々の辺りではとうとう背後に般若の顔が見えて来て、とてもじゃないがセネルは顔を上げることも出来なかった。
添い寝しているグリューネには、気付いても誰も突っ込むことは出来なかったが。



「ま、まあセの字も病み上がりであのゲートを相手にしたんじゃ。顔色が悪いのも仕方ないじゃろ。な、なあ!シャボン娘」
「そ、そーだよ!セネセネもちょっと疲れただけだって…」



どうにかフォローに回ろうとモーゼスとノーマは口を開いたのだが、しかしフェニモールの一睨みで石化し、全く上手くいきやしなかった。
げんなりと溜め息を吐いたのはウィルだったのか、ジェイだったのか。
無理をしている自覚はあるからかセネルは視線を合わせることも出来ずに横たわっているのだけど、そうしていると余計に顔色が悪く見えるのだから、弁解の余地はないだろう。



「全く、具合が悪いなら悪いでそう言ってくれ、セネル。黙っているのが一番、質が悪いんだぞ?」
「明日は氷のモニュメントと、おそらくその後に示される箇所との2箇所を回る予定です。体調が悪いのなら、ここでフェニモールさん達と留守番と言うこともあるんですからね?セネルさん」



呆れながらもそう言ったウィルとジェイの言葉に、しかしどうしてかこのタイミングでセネルが弾かれるように顔を上げて、且つ上体を起き上がらせもしたのだから、フェニモールの額に青筋が浮かんでいた。
ハリセンでもあればまた逆戻りさせれたんですけどね、とボソッと呟いた辺り、当たり前だがかなり怒っているままらしい。
ボムエレメント倒してないどころかまだまだなので、ちょっと無理ですと悪くないのにクロエは謝りたくなった。
口に出せるような空気ではなかったが。



「これぐらい俺は大丈夫だ!平気だ…だから、まだ…っ」



留守番だけは御免だと言うセネルに、結局折れたのはウィルとジェイだったが、フェニモールはまだまだ不満そうだった。
次同じことをやったらここで留守番ですからね、と釘を差すジェイに、セネルがほっと息を吐いたことも納得出来ていないらしく、眉間に皺を寄せるばかりで。



「……無茶しないで下さい、お兄さん」



縋るように言ったフェニモールの言葉に、セネルはぎこちなくではあったが確かに頷いたのだが、何というべきか。
翌日になって氷と雷の2箇所のモニュメントを回った後に、自力で海岸に戻ることも出来ずに倒れたのだから、モーゼスやノーマなんかは、恐ろしくてフェニモールを直視することも出来なかった。






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