とりあえず、状況を整理しましょうか。




「ヴァーツラフの隠し砦に残党が居ると言われ、向かったが姿は無く、急にワルターが襲って来て」
「どこかへ立ち去ったのをセネルさんが追いかけてしまって、慌てて追えばシャーリィさんが『託宣の儀式』を行う、と」
「『託宣の儀式』ってのは昔リッちゃんが死にかけた儀式で、それで慌てて止めなくちゃって祭壇に行ったらガドリアの騎士がいーっぱい居て」
「シャーリィが『メルネス』として目覚め、陸の民を殺すと言う姿勢を見せた彼らからどうにか逃げ延びれば、俺の家の前にステラさんがテルクェスに包まれて浮かんでいた」
「そして街は煌髪人に囲まれて、爪術が使えなくなった…打つ手無し、と言うことですね」



駄目押しとばかりに告げた一言に、とりあえず全員が全員げんなりと溜め息を吐いたのだが、何か解決策が浮かぶこともなく、ますます意気消沈するばかりだった。
病院からセネルを抱えて戻って来たは良いものの、住人には下手に煌髪人を刺激しないようにだとかウィルが一通り指示を出しに行って戻って来た今も起きず、それならばと話し合いをするが、どうにも八方塞がりでお手上げ状態でしかない。
モフモフ族に協力を仰いでジェイは煌髪人の動きを探らせているようだったが、肝心の自分達が一切爪術が使えないことが、相当な痛手ではあった。
さて、どうするべきなのか。



「そもそも、メルネスとは一体何だ?それにどうしていきなり爪術が使えなくなったのか…」



ぽつりと呟くように言ったクロエの言葉に、本来なら誰も答えれる場面ではなかったのだが、しかし水の民がここには1人、居合わせていた。



「メルネスとは私たち水の民を束ねる指導者…滄我の意志を直接聞くことの出来る能力を持つ者のことです。滄我の意志をその身に宿すことの出来る、と言った方が分かりやすいかもしれませんが…」



ソファに横たわらせたセネルに毛布を掛けていたフェニモールが、そう言った。
比較的顔色が良く見えるセネルに安堵しつつも、フェニモール自身はあまり顔色が良くはないのだが、その理由を察することが出来ないほどクロエ達も鈍くはなく、また一番鈍いモーゼスは山賊達の面倒を見に席を外していて良かった、とジェイは思っていたりするのだが、口に出すと誰が怒るか分からないので、割愛。



「フェニモール、滄我とは一体何だ?」
「滄我は、海です」
「海ぃ?」
「はい、滄我はこの世界を被っている海そのもの。私たち水の民を生んでくれた存在でもあります。滄我の意志によって私たち水の民の行動は決定され、その意志を聞くことが出来る存在が、メルネス…シャーリィなんです」



なんだか凄まじい話になってるんだなぁ、と馬鹿面下げて呟いたノーマに、容赦なくウィルの拳がお見舞いされたが、そこは誰も突っ込むことはなくスルーされただけだった。
おいおい、最近君たち酷いんじゃないか?と訴えれるような雰囲気でもなく、悶えているノーマの隣でグリューネがソファで眠っていたが、彼女の場合は誰も突っ込むことが出来ないパターンなので、どうしようもない。



「メルネスと滄我については分かったが…でも何故、いきなり爪術は使えなくなったんだろうか?」



当然浮かんだ次の疑問に、クロエが素直に口に出してみれば、困ったように顔をしかめて、フェニモールは言った。



「それは…その力が元々、本来なら水の民しか持ち得ない滄我の力が源になっているからだと思います」
「これが、滄我の力?」
「はい。何故陸の民がこの力を得ていたかは分かりませんが、シャーリィがメルネスとして目覚めた今、滄我の力を本来あるべき状態に戻したのでは、と」
「これは困りましたね…その話が本当なら、僕たちは二度と爪術を使えなくなったと見ても間違いないですよ。滄我の力を、新たに与えられるとは考えられませんし…」
「滄我ぽんが何したいか分かんないけど、絶対このままじゃヤバそうなんだけどねー…」
「滄我ぽ…?」
「スルーです。フェニモールさん」
「なんだとー!その言い方は酷いんじゃないの?!ジェージェー!」



うがーっ!と喚いたノーマはさておき、知らないこと知らなければならないことが大量にある現状に、ジェイは頭でも抱えたくなったのだが、ふとこの騒ぎでは流石に眠っていられなくなったのか、セネルが僅かに身動いだから上から覗き込んでみたのだけれど、まあベタな展開に繋げるほど、失敗でした。



「大丈夫ですか?セネルさ…」
「−−−シャーリ…ッ!」



ゴツッ!
と、まあ嫌な鈍い音を立てた2人だったが、身に覚えのあり過ぎる展開にウィルは黙って手早く氷嚢を準備し手渡した。
ドンマイ、ジェージェー!そんな時もある!と輝かしい笑顔で言ったノーマはジェイ直々にど突かれていたが、ひとまずセネルが目を覚ましたことを素直に喜ぶことにして、額が腫れていることには目を瞑ることにする。



「大丈夫ですか?お兄さん。どこか痛んだりするところ…ありませんか?」
「フェニモール…ああ、大丈夫だ」



どことなく額を除く、とそんな言葉が付いたような気もしないことはなかったが、どちらかと言えばジェイの方がダメージが大きかったらしく、セネルは強がりではなく素直にそう答えたようだった。
見守っていたクロエ達もほっと息を吐き、さて、と話を戻そうとしたのだが。



「ウィの字!大変じゃ!!」



バタンッ!!どころかついでに花瓶でも割って来たのかガシャンッ!!とそんなけたたましい音とセットで駆け込んで来たモーゼスの姿に、呼ばれたウィルだけでなく八つ当たりでジェイの額にも青筋が浮かんだのだが、転がり込むように現れたモーゼスの告げた言葉に、流石にそれどころではなくなった。




「灯台の入り口が、開いちょるぞ!」




今まで開け方すらも解明されなかった閉ざされた扉が、なぜ。





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