光の柱が立ち上った方角に、何があるかはわかっていたからこそ、セネルは迷わず輝きの泉を目指し、そしてそこから繋がる浜へと駆けた。
少女の名前を心の中で叫ぶ。


どうして、なんで、と。


浮かぶ疑問をそのままに、そうして見えた金の髪に、名前しか、叫べなかった。




「シャーリィッ!!」



叫んだ、その先に。
海水を浴びてぐったりと倒れ込んでいた少女の姿があったからこそ、迷うことなくセネルはその華奢な体を抱き上げた。
こんなところに、こんな格好でどうして、と疑問は浮かべようと思えばいくらでも浮かぶが、今はそんな時ではない。
荒く息を繰り返している少女を抱き抱え、セネルはすぐに輝きの泉に引き返した。

真水の、あるところに。
追い付いたらしいウィルとどうしてかクロエの姿があったが、構わずそっと、少女の体を、水の中へ。



「クーリッジ!何をしてるんだ!!」
「セネル!!」



まあ常人ならば普通に上げるだろうその非難の声を、しかしセネルは言葉も発せず、ただ睨み付けて黙らせた。
何か言いたいだろうけど、一度怯んでしまえば止めに入ることを許さなくさせる。
事実、セネルが放ったのは殺意に近かった。

少女の体に触れたら躊躇いなく、殺すと。

無言のまま睨み付けることで示したセネルにウィルもクロエも何も言えずにいれば、水の中に沈んだ少女の髪が穏やかに光を放ったから、思わず目を見開いていた。



「シャーリィ」



先程までの荒い息ではなく、穏やかに息をする少女に、セネルは優しく声を掛け、額に貼り付いた髪を掻き分ける。
そっと水から体を抱き起こせば、ゆっくりとその目蓋が開き、少女の青い瞳と目が合った。
二、三回少女は瞬きをして、セネルを映す。
緩やかな動作を繰り返していたかと思えば、次の瞬間少女はガバッと自ら起き上がり、そうして一度泣きそうに顔を歪めた後、勢い良くセネルに抱き着いた。



「――お兄ちゃんっ!!」



ぇえ?!!と声を上げたのはウィルとクロエだったが、そんなことは気にしない、聞こえてないと少女は涙を溢しながらセネルに抱き着き何度も何度も呼んだ。
少女の頭を撫でるセネルは普段からは想像出来ない程穏やかに、優しく微笑んでいてそれもまたウィルとクロエを驚かせているのだが、本人は気付いていない。
シャーリィ、と優しく名を、呼ぶだけ。



「お兄ちゃんっ!お兄ちゃんっ!良かった…ずっと、ずっと待ってた!本当に、無事で良かった…!」
「うん、シャーリィ。心配かけてごめんな…」
「ううん、良いの…謝るのは私の方だよ。私のせいであんなことになったのに…私、心配しか出来なかった…」
「シャーリィが謝ることじゃないよ。あれは、俺がああしたくてやったんだ。それに…ステラまで巻き込んでしまって…ごめん、シャーリィ」
「お兄ちゃん…」



小さく呟くように呼んだ少女、シャーリィは何か言いたそうにしていたけれど、とりあえずずっと抱き着いていたことにようやく気付いて、そっと体を離した。
3年もの間、離ればなれになっていたセネルにシャーリィは聞きたいことは沢山あったのだろうけど、それはセネルにとっても同じこと。

どうしてここに?と。

そんな疑問を解消するよりもとりあえず、ようやくセネルはウィルとクロエに向き合える余裕を取り戻し、シャーリィと一緒に輝きの泉から出た。
その様子を見て戸惑うばかりの二人だったが、やがて向き合ったセネルに、ウィルが静かに口を開いた。



「セネル、その子は一体?」
「……俺の妹だよ。名前はシャーリィ。ウィルには言ってあっただろ?離ればなれになった妹が居るって」
「なら彼女が…。そうか、申し遅れたな。俺はウィル・レイナード。こちらの彼女はクロエ・ヴァレンス嬢だ。よろしく」


言って、そう差し出したウィルの手を、シャーリィはセネルの顔と交互に見てから、そっと握り返した。
怯えているようなその姿にウィルは僅かに眉間に皺を寄せるが、見ず知らずの相手には仕方ないだろうと、気にしないことにする。
同じようにクロエもシャーリィと握手をし、そうして再び会話を進めようとした瞬間、突如強い殺気を向けられたからこそ、セネルは素早くシャーリィを庇うように立ち塞がった。
幸いウィルとクロエは爪術士で戦うことが出来るからあまり心配はないが、それにしても憎しみすらも込められたような殺意には、思わず怯んでしまいそうになる。



「薄汚い貴様らの手で、それ以上その方に触れるな」



心底気に喰わないと、怒りすらも露にして突如目の前に現れた青年はそう放った。
帽子を被り髪を隠すようにしているが、僅かに見えるおそらく金色の髪とその背後に立つ存在に、セネルは思わず目を見張る。

あれは、姿は違えど、知っているものだと思った。

彼女もその身に宿していた。
同じものならば、戦う必要などどこにもないと言うのに、青年は、言ってしまう。



「―――死ね」



襲い掛かってくるその存在に、セネルは戦うしか、選択出来なかった。





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