いつだって、手が届かなくなってから、気付くんだ。


(でも、一体何、を?)





「ルーク!無事か?!」
「…ユー、リ」


巨大な魔物に止めを刺した青年が、どこか慌てたようにレプリカに声を掛け、その体を抱きしめたことをジェイドもアッシュも先程の戦闘のことが上手く受け止められなくて、呆然と見送ってからハッと気が付いた。
どうやらもう他に魔物は居ないらしく、続々と集まって来るレプリカの『仲間』だと言う人間を改めて見れば…何だかよくもここまでと思う程年齢層はバラバラで、何の集まりなんだかとジェイドは考えていたのだが、苛立ちを露わにしているアッシュをとりあえず押さえておく。
怪我はないか?足痛めたりしてないか?疲れたよな、もう大丈夫だからあと少し頑張ろうな。
高がレプリカ相手になぜああも声を掛けれるのかと思うが、しかし気遣い方は自分達が導師へと向けるものにも似ていて、ひとまずは成り行きを黙って見守っていることにする。
ガサリと音を立てて茂みから出て来たのは、先程見た少年と三つ編みの少女、そして茶色の髪を短く切り揃えた少女の姿だった。
ルゥクゥウウウ!!と満面の笑みを浮かべて、三つ編みの少女がレプリカへ抱きつく。
簡単に身体がふらついていたが、黒髪の青年が支えていたおかげで、無様に転ぶと言う羽目にはならなかった。


「だから止めとこって言ったじゃない!ユーリ!ケーブ・モックで見た魔物に挑むの、今はまだ無茶だって!」
「ルーク!!あんたなに勝手にあたし抜きで魔術使ってるのよ!まだエアルの動きもきちんと把握してないんだから危ないでしょ?!暴走させたら本当に危ないんだから!怪我でもしたらどうするのよ!!」


怒鳴りながら近付いて来た少年と少女は、しかしこちらに気付くとまた…特に少女の方は一気に怪訝そうに顔をしかめた。
レプリカを支えていた青年も、先程から殺気すら纏って睨み付けているのだが、ジェイドの方はさてどうしようかと考えれるぐらいには、年を重ねた分だけそこまで動揺はしない。
目の見えないレプリカ自身は気が付くことは出来ないが、被験者であるアッシュが居るからこそ、レプリカとの繋がりは明らかなのだ。
罪を犯したレプリカを回収する為にも、何かしら事情を話さなければと思うのだが、魔物の出る森の中でそんなことをしている場合でもないだろう。


「…あんたら、何者だ」


睨み付けながらも聞いた青年の言葉に、何故かその腕の中に居たレプリカがびくりと肩を跳ねさせたのだが、構いもせずにとりあえず自己紹介と言うより、身分を提示してどちらが上かをはっきりさせるべきかとジェイドは口を開こうとした、が。



「ジェイドさん、ですの…?」


聞こえた甲高いその声に、その場に居た全員の視線が、小さな水色の毛並みをした魔物へと向いたのだが、その小さな体を抱き上げている青い髪をした…やたら露出の多い服装をした女性の姿に、ジェイドはともかくアッシュは完全に顔を引き攣らせていた。と言うか、その現れた姿にはその場に居合わせた全員が全員、凍り付いていた。
元の服装を知らないから余計にアッシュは硬直したのだが…元の服装を知っている仲間側からしても、これには固まるしかない。

上着も無ければ腰布も無く、まるでビキニのような格好で戻って来るとは、一体誰が思ったものか。




「なんて格好してんのよあんたはあぁーっ!!?」
「あら、どうかしたの?リタ」
「どうかしたのじゃないわよ!!あんた!その格好…っ」
「ああ、ちょっと魔物の体液で汚れてしまったから仕方無く脱いだの。カロル、マントあったわよね?貸してくれる?」
「呑気に言ってる前にさっさと着なさいよ!!あんたには恥じらいってものないの?!」
「あら、恥じらわないといけない体してるかしら、私」
「羨ましいです…ジュディス」
「うちもジュディ姐みたいになりたいのぉ…」
「やかましい!いいからさっさと着なさいよバカ!!」


とんでもない格好で登場した女性のせいと言うのか、女性のおかげで、その場に居合わせた女性陣はひとまず茂みに隠れるように居なくなったからこそ、残されたレプリカを腕に抱きしめる青年と得体の知れぬ男性、そしてジェイドと…若干立ち直れていない部分もあるがアッシュ達は水色の毛並みをした魔物を真ん中に、厭な雰囲気が流れていた。
しゅん、と耳を垂れた魔物に、知ったチーグルの仔の言葉を聞いてから、青年は殺気を向けるのを止めないし、レプリカを離そうとはしない。
彼らが一体何を知っているのか聞いているのか知らないが、これは面倒なことになったとジェイドは表情には欠片も出さなかったが、内心では舌打ちでもしたい気分ではあった。


「気持ちはわかるけど青年、まずは抑えて抑えて。ルーくん、それどころじゃないっしょ?」


軽い口調ではあるものの、男がそう言えば、青年は露骨に顔をしかめたが、すぐに殺気を向けることも止めて、レプリカを抱き上げた。
怯えてるのか何か知らないが、びくつくレプリカにまるで壊れ物でも扱うかのように触れるその姿はとてもじゃないが理解出来るようなことでも無く、黙ってはいるもののジェイドは冷えた視線を向けたまま、青年達を眺めていた。

廃棄処分しなければならない道具だろう、それは。
ああ、しかし彼らは、それが罪を贖うこともせず逃げ出したことを、知っていないのか。



「とりあえずダングレストに行こう。話は全部それからってことで」


軽い調子で言い切った男の言葉に、それが聞いたことのない地名だったとしても、それを追求出来るような隙は、どこにもなかったのだ。






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