レプリカだとか、被験者だとか。
正直なところを言って、ジェイドから伝え聞いた話だとかから全て理解出来たかと言えば、パティにとってその答えはいいえとしか言い様がないことだった。

同じ声、同じ顔、同じ姿。
そう言っている割にはパティの目にアッシュもルークも同じようには見えなくて、たとえば二人が同じ服を着て同じ髪型にしようと、間違えることなんかないと自信を持って言える思った。
詳しい話は何も知らない。
全ての記憶を失ったルークはオールドラントの話をすることが出来ないし、アッシュはアッシュで、自らを語ることをしない。
一緒に過ごして、感じたことと言えば言葉が足りていないな、とそんなことだった。
それは凛々の明星のメンバーにも当てはまることでもあり、オールドラントの人間にも、全員に当てはまることでもある。
パティ自身、言葉にしていないことなど多くあるのだ。
いつかは言わなくてはいけないとも、思ってはいる。
けれどパティが秘めていることと、ナタリアやジェイド達の秘するべきこと。言葉にしていないこととでは、どうにも種類が違うようにも思えた。

黙っていたら、すれ違うだけなんて、そんなことは悲しい。





「…な、何を仰っていますの、パティ。私が怯えているだなんて、そんな…」
「無理に強がらずともよい。怯えることは咎められることでもないし、自然なことなのじゃ。認めることは難しいかもしれない。けれど、今ちょっと話しただけでも、うちはナタリアが自分勝手に人を傷つけるような人間ではないと思った。誰もナタリアを責めたりなどしない。虚勢など、張らずともよいことなのじゃ」



どこをどう解釈したらそんな結論に達するのか本気でユーリだけでなくジェイドやイオンにも分からないことだったが、それでもパティはにこりと笑んでそう言った。
上辺だけのフォローだとか、この場を取り繕う為だけの言葉ではなく、本気でそう思っていて、だからこそ、その言葉はナタリアへと届く。
何をバカなことを、とは口には出さなかったがユーリだけでなくジェイドも思ったことで、しかし余計なことを言うにはそんな雰囲気ではなかった。



「うちは詳しいことをよく知らんが、本来アッシュが居るべき居場所を、ルークが奪っていた。そこは間違いではないかの?」
「え、ええ…7年前にあの人は誘拐され、あの人の居場所に、レプリカが送り込まれたのですわ。そのせいで、あの人は7年も居場所を奪われ、帰ることも出来なかったのです」
「だから両親やその居場所を、奪われ続けていた、と」
「そうですわ。全てはあの、レプリカが悪いのです」
「あの二人は本当にそっくりじゃからのう。アッシュの両親や皆が気付けなかったのも無理はない。ルークもアッシュも同じ存在なのじゃ。全く同じ人が存在するとは凄い話じゃのー、区別など付きようがないのじゃー」
「あの方はあのようなレプリカとは違いますわ!同じではありません!!」



怒鳴りつけるようにそう言ったナタリアも、口に出してからハッと、気付いたようだった。
あんなにあからさまな棒読みで言ったパティの言葉を流すことが出来ず、そしてナタリアの言い分ならばそこは「姿形を同じくしたレプリカが皆を騙していたのです」とでも言いそうなところであったのに、そうでは、なくて。
不自然な言葉選びだった。
ナタリア自身もまた愕然と目を見張っているが、おそらくこれは、暴かれたくないことだったのだろうと、誰の目にも分かることでもあって。



「すまんのう、ナタリア。二人が同一の存在だとは、うちも思ってない。でも、その言葉をうちはナタリアから聞いておきたかった。…うちの目に、アッシュとルークが同じだとは、そんな風には映ったりなどせん。見ていれば、自然と分かることじゃ。それは共に過ごした時間の短いうちでさえ、分かること。違うと、ナタリアはそう言ったのう。あのような、とも。比較できると言うことは、ナタリアの中で二人は別人だと認識していた筈じゃ。うちでも分かることを、一緒に過ごした時間が長いナタリアが気付かなかった筈がないのじゃ。違うかの?」



あ、と思わずと言ったように呟きかけたのは、側で黙って聞いていたイオンの方だった。
ジェイドも驚いたように目を見張っているが、心境的にはユーリもあまり変わらないので、これは黙って成り行きを見守るぐらいしか出来そうにない。
目に見えて狼狽え始めたナタリアのその態度が、もう既に答えだった。

否定を、していない。
その言葉が出て来ないと言うのなら、その時点でパティが指摘したことは、ナタリアの中で根付いてしまっていることだからだ。



「ナタリアはアッシュのことを大切に思っているのは、うちにも分かる。だが、ルークのことが関係すると、途端にルークを否定するのは、ナタリアの中でルークが全て悪くなければ困るからじゃ。アッシュに対して負い目があるのを、そうして誤魔化しておる」
「……っ!!」
「二人が違うと気付いていたのに、言えなかった。7年、ルークと過ごしていて、ナタリアだって本当は気付いていた筈じゃ。でも言えなかった。そのことで、アッシュを傷つけてしまったのでは、と。…両親が認めてしまったことを、ナタリアが言うのは酷なことじゃ。それはナタリアのせいではない。一度きちんと、自分の本当の気持ちと向き合ってみるのじゃ。このままでは、ナタリアは掛け替えのない繋がりを、失ってしまうことになる」
「わた、わたくし…私、は…っ!」
「ナタリアの中に、思い出があるじゃろ?それは本当に、切り捨てていいものかのう?二人と、一緒に居た筈じゃ。二人共を、ナタリアはよく知っている筈じゃ。その中でナタリアは、どんな顔をしていたかのう?もう一度、よく考えてみるのじゃ。その方がいい」



今にも泣き出しそうに顔を歪めたナタリアが、何も言わずに部屋を飛び出して行ってしまったのは、それからすぐのことだった。
「ナタリア!」と叫んだのはイオンとカロルだったが、名を呼ばれたことで足を止める程の余裕は、今のナタリアの中には存在していないのだろう。
思わずはあ、と溜め息をのように吐いてしまったユーリは、パティに対して敵わないな、とそう思った。
エステルと言いジュディスと言い、諸手を上げて降参するしかないような女性ばかりで、これは頭も上がりそうにない。




「…なんつーか、助かった。ありがとな、パティ」
「これぐらいどうってことはないのぞ、ユーリ。すれ違ったままだと悲しいからのう。あとはナタリアが考えることなのじゃ。分かってくれると、うちはそう思う」



にこりと笑んだまま、そうして再び朝食の準備をし始めたパティに、ユーリもまた手を動かすことにした。
自分ではルークのことが絡んだ時点でああは言えないのだから、本当に助かったと、そう思わずにはいられない。
冷静に考えてみればナタリアの発言は矛盾ばかり生じていたのだから、ユーリ自身もそれに気が付けぬ程、頭に血が昇っていたのだろう。
情けない話ではあったが。



「これはこれで一緒に行けないことには変わりはありませんが、どうやら随分と理由は変わったようですねぇ」
「そうですね…おそらく、今のナタリアには時間が必要です。自分自身と向き合うこと。隠しておきたかったことを明らかにすると言うことは、短い間で出来ることではありませんから…」
「図星を指されたことも痛いでしょうね。いやはや、パティには恐れ入りますよ」



わざとらしく肩を竦めて言ったジェイドに、これにはユーリとパティが揃って呆れたのだが、それが通じるような男ではなかった為に早々に諦めることにした。
一体どこの部分を図星だと言うのか疑問はあるが、素直に答えるような人間でもない。



「…作られたばかりのレプリカは歩くことも喋ることも出来ず、内面は赤ん坊と同じなんです。僕の場合は刷り込み技術が施されていましたから当てはまりませんが、産まれたばかりの赤ん坊の心のまま、ルークはファブレ家へ戻されたのでしょう。被験者の知識を刷り込まれた僕は表面上は取り繕うことが出来ましたが、それでも生前の『導師イオン』が親しくしていた人は意図的に離されました。けれど、ルークはそうじゃない」
「あの反応とその話じゃ、あのお姫さんは言えなかったってのがやっぱり正しいみたいだな」
「気付くのが普通…ですからね。記憶喪失にしても、日常的動作全てを失ってしまうなんて、普通は考えられませんから…」



辛そうに話すイオンの言葉に、これはむしろ一番辛いのはアッシュじゃないか?とユーリはそう思った。
誘拐され、強制的に入れ替えられた二人の存在。
親に気付いてもらえなかった、と言うのは心を抉るような事実だと言っても間違いではないのだ。
真っ白な状態で戻ってきた子どもを見て、それを我が子だとどうして思えるのか。
違う、と言ったナタリアはきっと二人のことを知っているから、そう言えた。
けれど、両親はそうではないのなら。

見てもらえなかったのかもしれない。
あの家で、『ルーク・フォン・ファブレ』と言う存在は、きっと独りぼっちだった。





「とにかく、私たちはここへ残りますので。フェローに会いに、あなた方はもう一度ここを通るでしょう?その時に我々も拾って頂けると都合がいいのですが」




にこりと笑んでそう言ったジェイドの言葉に、ユーリも否定する理由の方がなく、必ずもう一度マンタイクを訪れることを約束して、別れることになった。





--------------



思いもよらないところへ飛び火したみたいです…orz
多分この話は途中でアシュナタと言うのかアッシュとナタリアの話挟むっぽいです…どういうことか自分に問い質したい。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -