(残酷な未来を奏でたのだと、気付いていませんでしたか。)






目が覚めたら三途の川でした、なんて言うのも冗談じゃないと思うが、砂漠で倒れた筈なのに目が覚めたら見知らぬ天井の木目でした、と言うのもなかなかに嫌なものでした。



「……とりあえず夢ではないみたいだな、と」


全く見覚えのない木目調の天井を一通り見た後、呟くように言ったその言葉は簡単に空に溶けたから、ユーリはついつい溜め息を堪えることも出来なくて、意味を成さないと知りながらもげんなりと溜め息を吐いた。
思っていたよりもずっと静寂さだけがそこにあって、ぼんやりと光る灯りが無ければ輪郭すらも分からぬほどの闇が広がっている辺り、おそらく夜…それも深夜に当たるそんな時間帯なのだろう。
ご丁寧にもルークと2人同じベッドで寝かされていた現状に何だか得体の知れないものに見透かされているような気がして面白くないのだが、少しだけ体を起き上がらせて見回した部屋の中。
エステル、リタ、パティ、ジュディス、カロル、イオン、レイヴン、ジェイド、ラピード…とそこまで見てそうしてもう一度見回して、ようやく気付けた。



「……アッシュとミュウが、居ねぇな」


欠けている色彩に気付いてしまえば一応気にはなるものの、ぎゅっと服を握りしめて眠るルークの手を解くわけにもいかず(そんなことをしたら確実に起きてしまう)(せっかく珍しく眠ってくれているのだから)、出した結論はまあ、1つしか考えられなかったわけで。


「頼んだぞ、ラピード」


小声で言えば、尻尾を振って答えた相棒に小さく笑いつつ、ユーリはルークを横抱きにしながら、そろそろ腰がヤバいのではと思ったが、考えが足りていない自業自得だったりするのは自覚があったので、気にしないことにした。




(その一言が背を押したのだと、本当に気付いていましたか。)




おそらく宿屋だったらしい建物から一歩外へ出て、てっきり暗くて灯りが無ければ何も見えないかと思っていたのだが、予想に反して月明かりで十分歩けるような、そんな夜の村だった。
緩やかな坂道をルークを腕に抱えてユーリは進んでみるのだが、村人も当然こんな深夜では眠っているようで、灯りの点っている家などどこにも見当たりやしない。
耳を打つ漣の音が確かにあるから、気紛れに近寄ってみるかと足を進めて、そうして海に面したテラスの前にまで来て、思わずユーリはギョッと目を見張ってしまった。
アッシュとミュウが居る。
別にそれ自体は空っぽだったベッドから察せたことであるし気にすることではないのだが、緑色の髪と顔を隠す仮面は、もしかしなくとも。


「……んなとこで何してんだよ、お前ら。同僚はやっぱり放って置けないってか?『烈風のシンク』と、『鮮血のアッシュ』さん?」


気配を隠すまでもなく、むしろ嫌悪感を乗せて言ったその言葉に、複雑そうに顔をしかめたアッシュがまず振り返ったのだが、見えたユーリの姿に思わず目を丸くしたあと、額を押さえ天を仰いだ。
失礼な奴だな、とユーリは思いはしないものの、かと言ってアッシュがなぜそんな反応をするのか理由が分かっていなくてますます溝が深まるのだが、お前一回鏡見て来いなどは流石にアッシュの口からは言える筈がない。


「似たような質問を時間差で聞いてくるの、止めてくれない?燃え滓もあんたも、来るなら同時に来てよ。いちいち説明する僕が面倒臭いんだからさ」


誰が誰にお姫様抱っこをされてどんな状況なのかまるっと無視して、なかったことにしてそう言った元同僚の姿に、アッシュは心の中で密かに拍手を送りたい気分だったが、とりあえず下手なことをしないよう思い付くだけのことを全て堪えることにした。
既にツッコミ所が何ヶ所かあるのだが、ここで口にしたら最後、後で何があるのかわかったものではない。


「悪いな、勝手に抜け出した人間に今気付いたばっかりだったんだよ」
「朝まで寝とけば良かったものの…言っとくけど、僕は初対面の人間だからと言って1から説明する気は全くないから」
「ああ、その点なら安心しろよ。確かに俺は初対面だが、あんたを知ってる。『烈風のシンク』って、自己紹介される前に当てただろ?」
「……別にそれならそれで構わないんだけど、頭痛くなりそうな2つ名で呼ぶのは止めてくれない?髭のネーミングセンスの無さが頭に過ぎるから。すっごい不快」


心底厭そうに言った六神将の言葉に、ユーリは意外だと思いはしたものの、面には全く出すこともなく、一応は眠るルークを気遣いつつ、静かに聞いた。


「その髭の命令で、こんな所にまで来てこいつらの邪魔する気なんだろ?」


わざわざ世界を違えてまでご苦労なことだと、不愉快そうにユーリは言ったのだが、何てことのないようにシンクが返したその言葉に、ある存在に対する苛立ちは限界点を突破していた。



「髭の命令なら今頃ちゃんと向こうで聞いてる筈かな。僕はイレギュラーだからね。記憶でしか、ないんだよ」



またこれ以上小難しい話になるのかよと思えば、ユーリとしては頭が痛くなるばかりだった。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -