船長室にあった日誌を勝手に読み、鏡の中から現れた彷徨う骸の凶戦士(スペクタクルズを使ったカロルが半泣きになりながら敵の名称を知るんじゃなかったと喚いていた)をどうにか退け、よくわからない赤い小箱を入手し船を出たのはいいものの、幽霊船から離れれた途端に満天の星空が広がっていて、カウフマンには怒られたよりもすっかり呆れられてしまった。
ここから2日か3日掛けてノードポリカに向かうらしいが、やっと直った駆動魔導器に喜んで操縦しているパティだけがはしゃいでいるだけで、戻った面々は同じ様にぐったりと疲れ切っている…表面上は。
これは絶対ルークが目覚めたら普通に元気なんだろうな、と考えつつ、船に戻り、幽霊船アーセルム号が見えなくなった辺りで意識を取り戻したルークに、何があったのか説明すると同時に熱がないかとかどこか悪くしていないか確かめる、と言う面目で小柄な体を抱き締めてじゃれていれば、思いっきりリタに頭を叩かれたから、ユーリは渋々離れることにした。

ローレライの馬鹿げた話は、聞かせていない。



口にしないと言うことを、ユーリは独断で決めたわけではなく、考えるよりも先にレイヴンが、止めたのだ。
そしてルークだけでなくジェイドにも、話さない。
もし万が一この先ルークの同行者と行動を共にする機会があったとしても、ローレライのことだけは話すべきではないと言ったレイヴンに、気に掛かるところはあれど、ユーリも反対はしなかった。


「熱も無いしエステルが勘違いして治癒術掛けたお陰で擦り傷すらも無いし、特に何の心配もなさそうね。船酔いさえしなきゃ、大丈夫なんじゃない?」
「良かったです、ルーク!私、分かります?ペタペタ触ります?」
「エステル…それ、あんたがルークに触ってもらいたいだけでしょ…」
「だってリタ。ルークにペタペタ触ってもらった方が、きちんと私だって分かってもらえるんですよ?私、ルークにもっと私を知ってもらいたいんです。ペタペタします?」
「あ、そんなのズルいやい!エステル!僕だってルークにもっと僕のこと知ってもらいたいよ!ペタペタしてルーク!」
「そんな、カロル…!私が先です!」


ぎゃあぎゃあと船倉で騒ぎ始めたエステル達に、簡易ベッドに腰を掛けたまま呆然としているルークの隣にちゃっかり座りつつ、ユーリはさてどうするかと(話が盛大にズレていることは無視して)ルークの手を握ったりもして考えていたのだが、ふとこの場になぜかあの水色の毛並みの魔物の仔が居なかったから、密かに首を傾げていた。
ルークの足元には、ラピード。
常に誰かが側に居ると言うこと。1人ではないと言うことを示さなければ、迷わず全てを断ち切って本当に独りになってしまいそうだから、必ず誰かしらはルークの側を、離れない。
そうして必要以上に甘やかそうとエステルが突拍子の無いことを言い出すのは常のことで、今回もルークにペタペタ触って欲しいだとか聞き様によってはとんでもないことを口にしているのだが、ここで乗るのが流石お子様達と言うべきか。
初めて会ったその時に、目の見えないルークに顔をペタペタ触ってもらって、自分を知ってもらおうとエステルがしたのはよく知っているが、完全に戸惑っているルークにお構い無しなのは、流石にどうかとも、思う。
どうしたらいいのか分からない、とばかりに慌てているルークは…まあ何というべきか。ユーリの目には確かに可愛らしいと映ったのだから、親バカもここまで来ると末期であった。
向けている感情が親バカのそれからかけ離れていることは、棚に上げるが。



「選り取り見取りだな、ルーク。誰にするんだ?」
「そ、そんな…言われても、俺…」
「気に食わなかったらチェンジで」
「ユ、ユーリ!」
「ん?俺指名?」
「−−−っ!!」
「それじゃ、ペタペタします?」


ちょっとだけ(だいぶ)からかう様に言って繋いでいた手を頬へと導けば、耳まで真っ赤にしてルークが俯いてしまったから、やり過ぎたかと思うより早く気付いたリタに本の角で殴られてしまった。
思った以上に案外痛い一撃に、それでもルークの手を離さなかったユーリに、カロルが複雑そうな顔をしていたが、そこは空気を読んで全力でなかったことにする。


「あんたが言うと犯罪臭い!禁止!」


怒鳴って言ったリタのその台詞に、それはいくらなんでも酷い言い掛かりだとユーリも訴えようとしたのだが、それより早く、横切る影があってしまった。



「おっさんペタペタしてもらうよりペタペタしたい派だわ〜。と言うわけでルーくん、おっさん慰めてぇ〜」
「ふぇっ?!レ、レイヴン?」



とんでもないことを言ってユーリの居る位置とは反対側の、空いていたルークの隣から抱き締めたレイヴンに、とりあえず空気は凍った挙げ句すぐに爆発した。
後頭部に決まったリタの本に加え正面から顔面…と言うか鼻にユーリのストレート。もう一つオマケにエステルがピコハン(しかも確実に気絶させれる大きさ)を食らわした辺りで、ようやくユーリもはたと気付いた。

パティは船の操縦。
ジェイドはカウフマンと何やら話し込んでいるから甲板に居るとして、どっかの馬鹿な神サンのせいでやけに大人しいアッシュも甲板だとは分かるが、それよりも。



(…ジュディの奴、どこ行ったんだ?)



いつもなら率先してルークを構い倒す彼女の姿が見えないことに、ユーリはそういえばあのチーグルの仔を連れて行ってなかったか?と思ったが、まあ今更だった。




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