焔のような光がユーリ達の目の前に現れるほんの少しだけ前の話。
カウフマンがどうしたものかと頭を抱え、パティとジェイドがフィエルティア号をいじり、はらはらと心配そうに幽霊船を見るエステルの隣でジュディスが愉しそうに眺めていたまさにその瞬間、高く聳えるマストが凄まじい音と共にぼっきり、折れてしまった。
悲鳴を上げかけたリタが自分自信の手で咄嗟に口を塞ぎ、まさかそうなるとは思っていなかっただけに、これには全員が全員、呆然と折れたマストを見つめるしかない。
ユーリ達が心配だと訴えたエステルに、先程から乗り込みたくて仕方なかったらしいジュディスが乗るのも自然な流れで、カウフマンとやり取りしているのを横目に、アッシュはただ黙ってジッと幽霊船を見据えた。
覚えのある『音』が、聞こえたような気がしたのは、気のせいかどうか。


「…ローレライ?」


まさかと思って口にした名だったが、完全に否定出来る術もまた、存在してはいないのだけれど。



















「用があるってならさっさと言って失せろ、有害電波。後生大事に守ってた女に頼まれた世界とやらを、放って置くわけにはいかないんじゃねーの?」


とんでもないことをあっさりと口にしている自覚がユーリにもあったが、突然現れたその焔のような光を前に、どうしても堪えることが出来なかった。
レイヴンとカロルだけでなく背に庇ったルークまでもが戸惑っているのは分かるが、ルークがこんな状態となってしまった理由であるアクゼリュス。その引き金になった本当の意味での原因はあんな船の上で無理やりルークの力を引き出そうとしたローレライのせいだとユーリは思っていたりもするので、無責任過ぎるこの意識集合体とやらには、どうしても苛立ちを隠せやしない。
人の形のようにも見えるまでに集まっていた光は、しかしそんなユーリの言葉も聞かないのか、ゆっくりと意志を持ってルークへと集い始め、3人が驚き目を見張った時には光に触れたルークの体がふっと傾いたから、ユーリは慌ててその体を支え、レイヴンの放った矢が空を裂いた。


「てめぇ…っ、ルークになにしやがった!!」


叫ぶように言ったユーリの言葉に、もういっそ吹き飛ばすかと術を唱えようとしたレイヴンも気を失ったルークを心配そうに見ていたカロルも同意するように光を睨んでいたのだが、やがてその光がきちんとした『人間』の形を取ったから、思わずギョッと目を見開いていた。
凝縮した光は人間の形を取り、一つの個と変化する。

緋色の髪に翠の、瞳。
小さな子どもの姿をしたそいつに、元となっただろう人物が分かるからこそユーリは釈然としなかったのだが、穏やかに笑んだ子どもが、「ごめんね」と言ってから話し掛けて来たものだから、拍子抜けしたと言うのが、正直なところだったのだが。



「眠ってもらったんだ。これから君たちに聞いてもらうこと、聞いて欲しいこと。それをルークに聞かせるのは、あんまりにも酷いことだから」


変声期前の、幼い声が響いていた。
床に着く程までに長い緋色の髪が擦っているのだけれど、現実のものではないとでも言うのか、穢れることもなく、白い裸足がそのまま、近付いて来る。


「ちょい待ち。なーんか青年は知ってるみたいだけど、おっさんにはあんたが何者なのかとかさっぱりなんだわ。説明してくんない?」


言いながら、弓を構えるレイヴンに、緋色の子どもは穏やかに笑んで頷いた。
側に立つとカロルと変わらないかそれよりも低い身長に、ユーリは腕にルークを抱き寄せたまま、怪訝そうに睨むのを止められない。
意図が、全く読めない、から。


「僕は、ローレライ。7番目の音素。ルーク達をこの世界に送った、一番はじめに解放された、オールドラントに存在する第七音素意識集合体」
「解放された…?なに、あんたどっかに閉じ込められたわけ?その言い方じゃ人じゃないっぽいのに?」
「音素だから、ずっと一人で閉じ込められていた。世界の理に組み込まれてた僕を、解放してくれたのはもう一人の僕たち−−−アッシュとルーク」
「……は?」


わけがわからない、とばかりに眉を顰めたのはユーリだけでなくレイヴンもで、既に許容オーバーなのかカロルは呆然と目を丸くするばかりだった。
動きを停止したカロルを気遣ってやらないと、とユーリは思ったことには思ったのだが、残念ながらそこまで余裕も、なくて。


「ずっと繰り返してるんだ。アッシュとルークが、幸せになるように。はじめて解放してくれた時から、もう何度も。でも、ダメだった。何度繰り返しても、アッシュもルークも、2人が生きる未来がない。だから、送ったんだ。オールドラントでダメなら、もしかしたらって。それぐらいしか方法も思い付かなかったから。賭けかもしれなかったけど、それしかなかったんだよ。テルカ・リュミレースにって」


同じ時をずっと繰り返し繰り返し、たった1つの目的の為だけに何度も続けている、と。
そう言ったローレライの言葉に、とりあえず3人揃って固まってしまった。
とんでもない話だと思うが、作り話ではないと思ってしまうのがまた何とも言えなくて、どうしたものかと黙り込んでいれば、どうにか折り合いを付けたらしいレイヴンが、とりあえず。



「じゃ、なに?あんた3周目、とかそんな感じなの?」


おいおっさん、なんつーこと言ってんだよ。とユーリは突っ込もうとしたのだが、その前に緋色の子どもの方が、笑って言った。



「もう7周目だよ。こうして、時を繰り返すのは」



物の見事に凍り付いたその言葉に、冗談だろう?とは流石に誰も言えなかった。




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