優しいだけのお話を、あなたに聞かせて上げたいんです。






「いやぁ〜、なかなかに大人気ないんじゃないの?青年」
「おっさんには言われたくねぇわ。マジで」
「はっきりと言わなくたっていいんじゃない?!おっさん泣くよ?泣いちゃうよ?」
「ジュディに追い出されたいって言うなら泣けよ」
「周り海しかないのにそれはないっしょ?!」
「どうだか。ジュディなら笑ってやりそうじゃないか?」
「うわぁ…洒落になんないからそれだけはやめて欲しいわ〜」


へらへらと笑いながら言ったレイヴンの言葉に、ユーリは呆れたように溜め息を吐いたものの、目を合わせようとはしなかった。
簡易なベッドに横たわる朱色の髪を撫でて、ぱっと見だけは穏やかに眠っているように見えるその寝顔を見つめて、動こうとはしない。
子どもの傍らには水色の毛並みをした魔物の仔が寄り添って眠っているのだが、そちらには目もくれないユーリの姿を横目に、レイヴンは椅子に座り、行儀悪く机に足を乗せてバランスを取って遊んでいたのだが、急に船が揺れた瞬間、思いっきりひっくり返って派手な音を響き渡らせてしまった。
これには流石にユーリも振り返ったのだが、額に青筋すら浮かべて睨み付けなくても良いのでは、とレイヴンは思うも、自業自得なのでどうしようもない。



「……なにやってんだよ、おっさん」
「ちょっと酷くない?!大丈夫か?ぐらい聞いてよ頼むからさあ!」
「大丈夫かー」
「……青年ってそういうとこ、だいぶ酷いわよね」
「ルークが寝てるのに、騒がしくしたおっさんが悪い」


いっそ清々しいまでに言い切ったユーリの言葉に、レイヴンは一度きょとんと目を丸くしたあと、声を上げて笑いたくなったのをぐっと堪えて、口元をどうにか手で隠した。
どうにもこの青年は、拾った子どもを手元に、自分自身の奥深くにまで立ち入ることの出来るような位置に置いてしまっているような気がしていたが、あの異世界から来たらしい2人が合流してから、余計に拍車が掛かっているような気がしてならない。
今はまだ魔導器が使えなかった自身の無能さに被験者だとか言う子どもは打ち拉がれていて幾分か大人しいが、あの眼鏡の男の嫌みさはどうしても取れず、今だって甲板に放置した2人から引き離すように、船倉へ連れて来たわけだ。
カウフマンにどんな言い訳をするつもりか知らないが、凛々の明星の首領は居るから大丈夫だとジュディスに丸投げしたと言うのも、よくよく考えずともユーリらしくないだろう。
そこまで考えて、なに分かったつもりでいるのだろう、とレイヴンは思わず自嘲気味に笑ってやりたくなった。
毒されつつあるとでも言うのだとか。
あの、朱色の子どもに。


仲間面なんて、ねぇ。




「ルーくん、ちゃんと眠れてるの?」
「……魘されてるわけでもないから、眠れてるとは思う」
「なーんか微妙な感じの言い方だけど、問題でもあるわけ?」
「問題ならその辺にゴロゴロ転がってんだろ。誰が向こうの連中と顔合わせる羽目になると思ったもんか」
「そのうち全員大集合!とかになっちゃったり…」
「おっさん、ジュディ呼ぶか」
「うそうそ冗談!!冗談だって!頼むからそんな目で見ないで青年!ルーくんが見たら泣くよ?!」
「そんな間抜けなことはしねぇ」


はっきりと言い切ったユーリに、これにはレイヴンも呆れてしまったのだが、口に出すような無謀な真似も出来る筈がなく、大人しく椅子を戻して今度は机に足を乗せることもなく座った。上体を突っ伏しているからかなり行儀も悪いし腰にも優しくない姿勢だが、背筋正して座れる筈もないので、崩した態度は改めはしない。


「ダングレストかトリム港でもっときちんと休ませて上げられたら良かったんだけどねぇ…嬢ちゃんの治癒術様々、か。相変わらずルーくんに関してもさっぱりだけど、普通の人間よりも倍以上の効果を得られるのは、結果的には万々歳ってところかね」


じゃなきゃもうとっくに死んでいると。
口には出さずともそう言ったレイヴンに、ユーリは一度だけ睨み付けようとしたが、ベッドに横たわる子どもがギュッと服の袖を握り締めたから、やめておいた。
まだ眠ってはいるからおそらく無意識の内に縋れる何かを探したのだろうけど、ここで間違っても鋭く誰かを睨み付けていたりなんかしたらダングレストでの二の舞になり兼ねないので、酷く愛しむような触れ方しか、ユーリはしない。


(その手はもう、赤く染まっていると言うのに。)


そんな風に考えて、レイヴンは今度は漏れた笑みを隠しはしなかった。
それを言ったら、自分とて同じだろう、と。
むしろそれよりも質が悪い。
ユーリのような触れ方は、レイヴンにも、ましてや『シュヴァーン』や『ダミュロン』なんかでは余計に、出来ないことなのだから。


「……おっさん?」


急に黙ったことに対し、怪訝そうに顔をしかめてユーリが呼んだから、レイヴンはハッと我に返って誤魔化すべく言葉を紡ごうとしたのだ、が。



「た、た、た、た大変だー!大変なんだよユーリ!レイヴン!ゆ、ゆゆゆ幽霊船が!!」


慌てて駆けて来て叫んだカロルの言葉に、とりあえず話の内容は全て吹っ飛んでしまいました。




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複雑なおっさんと最早ルーク至上主義が固定となりつつあるユーリ。
ED後もしくはザウデ後なら全員がルーク至上主義もありだったんですが…おっさんは相変わらずおっさんのようです。



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