何気なく口にしたエステルの言葉に、はぁ?とそんな声を上げたのはアッシュだけの話ではなかった。
なに馬鹿なこと言ってんの?と思うだけでなく口にしたのはリタであったし、アッシュとジェイドに至っては『テルカ・リュミレース』と言う世界について魔導器やら何やら一通り話を伺った後であるからこそ、ちょっと本当に理解が出来やしない。
戸惑いがちになりながらもルークとアッシュ達とを比べてみていたカロルとパティは首を傾げており、「使えるんじゃないの?」と逆に不思議そうに見つめて来るのだから、アッシュ達の方が困ってしまった。
とりあえず答えとしては『使えない』のだが、レプリカは『使える』と言うのは、果たしてどういうことなのか。



「私たちの世界では音素と言うエネルギーがこちらで言うエアルのようなものでして、音素から術技に変換は出来ますがエアルからでは出来ません。こちらの世界に音素は存在していませんし」


説明しながら、ジェイドは昨夜密かにコンタミネーション現象で取り込んだ槍を具現化させ、その耐久性を確かめた時のあの衝撃を思い出し、ついつい、溜め息を吐いてしまった。
最初は全く気付いていなかったのだが、改めて具現化させ目の当たりにした時、この世界ではオールドラントの理が通用しないのだと痛感し、途方に暮れたのはいっそ恥でしかない。
木刀の方がまだマシだと思われる耐久性に、床を軽く突いただけで木っ端に砕けた槍など何の役に立つのだろうか。
しかも何の嫌がらせなのか、完全に具現化出来ていないせいで振ったら砕ける槍は何度でもコンタミネーション現象で出し入れ出来るのだから、質が悪かった。


「そうなんです?ルークが術を使えるので、てっきり魔導器が無くても大丈夫だとばかり…」
「彼はきっと特別なのでしょう。私たちとは多少異なりますから」


レプリカと被験者は違うのだと。そう言った意味合いで言ったのなら即座にリタがファイアボールでもぶちかましていたところが、あくまで事実としてジェイドが述べたからこそ、殺意すらも込められた視線で睨み付けられただけに終わった。
よく分かっていなさそうにエステルとカロルとパティは首を傾げているが、残念ながら助け舟を出す人間は居らず、ユーリに至ってはルークを抱きかかえて進むだけで、一切無視。



「それならアッシュとジェイドは、魔導器さえあれば術技は使えるんです?」


純粋に疑問に思ったからこそ聞いたエステルの言葉に、ジェイドは少しだけ考えたあと、静かに答えた。


「エアルから術技への変換がどこまで異なっているか分かりませんが、もしかしたら使えるかもしれませんね。私も自分の世界では軍人でしたので、武醒魔導器を扱えれるのなら、足手まといにはならない程には戦えるのですが…」
「術技は使えなくとも剣ぐらいなら使える。あの屑…レプリカがカモフラージュ用にも持っていないのを見ると、武醒魔導器とやらは数が少ないんだろ?」


異世界から来ただとかこの世界の理を外れて術技を使える者が居るのなら、下手な混乱を招くよりもそれを隠そうとする筈だ、と。
アッシュにしては無難な推測を述べて言ったのだが、いかんせんルークを「屑」と言った且つレプリカ呼びしたのは、不味かった。
それを当たり前だと受け止めていたのが常だったから、ジェイドも気付くのが遅れたのだが、腕に抱きかかえて歩いていたユーリにも聞こえていたらしく、冗談じゃないがこれはちょっと、笑えない。
悲しげに瞳を揺らしたエステルに戸惑う暇があるのなら前言撤回でもした方がいいんじゃないかとジェイドは思ったが、まさか口に出来る筈がなかった。



「がきんちょ、あの眼鏡に魔導器貸してやって」


今からでもダングレストに帰る?とでも言うかと思っていたが、想像に反して冷静にそう言ったリタの言葉に、怪訝に思えどジェイドはカロルから魔導器(カバンのバックルが、だろうか?この場合は)(似合わないとそんな言葉は聞こえた気もするが、そこは気にしない)を受け取り、ついつい癖で注意深く観察してしまった。
足を止めて、どこか差し障りのない場所を、と思うが周りは鬱蒼と生い茂る森ばかりだったので−−−火炎系でなければ良いかとロックブレイクでも唱えようとしたのだ、が。


「これは…っ!」


狂乱せし地霊の宴よ、とまで詠唱していたと言うのに、まさかイラプションになるとは、誰が思ったものか。



「うわわわわぁあ!!山火事!山火事になるー!」
「なにやってんのよあんた!!馬鹿じゃないの?!」


これには流石にやらせた当人であるリタも慌て、見守っていたジュディス達も思わず目を見張っていた。
すぐさま「スプラッシュ!」と無難な魔術をリタが唱えたことにより鎮火したが、側に居たアッシュも思わず唖然としているのは、誰も責められはしないだろう。



「眼鏡…お前、それは不味いだろ…」


八つ当たりでもしたと捉えたらしいアッシュの言葉に、ジェイドは失礼な、と睨み付けようとしたのだが、割と本気でレイヴンとユーリが引いていたのが見えたので、流石に多少なりともへこんでしまった。


「言っておきますが私はロックブレイクを唱えようとしたんですよ?それがまさか、発動寸前で術式が変わるとは思いもしなかったので」


言いながら、ジェイドは今度はスプラッシュを唱えたのだが、やはり発動寸前で術式は変化し、実際に発動したのはアイシクルレインだったので、思わず溜め息を吐いてしまった。
確証のないことは口にはしたくないのだが、どうにも嫌な予感がしてならない。
考え込むよりもとりあえず次はアッシュに回せとリタに言われた為、ジェイドはカロルの魔導器(と言うのか巨大カバン)をアッシュへと手渡した。


「エクスプロードだけはやめて下さいね」
「貴様にだけは言われたくねぇ」


それを言われたら何も言えないのだが、とりあえずジェイドはここは押し黙ることにし、アッシュが展開する術式を見逃さぬよう見据えていたのだが、詠唱に入った瞬間、有り得ないほど広範囲に展開された譜陣に、全員が全員、驚きを隠せなかった。


「なっ…?!」


このまま発動させたのなら間違いなく全員が巻き込まれるだろう巨大な譜陣に、咄嗟にユーリとジュディスはどうにかルークだけでも範囲外へ連れ出そうとしたのだが、しかし、はたと気付いた。
譜陣が一際強い光を放つ。
それは誰の目にも明らかだったのだが、そうして光って消えた譜陣の意味するところは、どこをどう見ても、これは。



「…どっちが屑なんだか、これじゃあ」


呟いたリタの言葉に、アッシュは何も言い返すことが出来なかった。

魔導器使って術唱えれない人、初めて見た…。

と、呟いたカロルの言葉が、まあ、全てだったのだから。




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