「あら、ここで私達が彼らを見捨てたら、彼らが野垂れ死ぬって分かってるのに本当に見捨てるつもりなのかしら?リタ」


易々と立ち去るわけにもいかず、居心地悪い思いをしながらも凍り付いたような雰囲気の中で、助け舟を出したのはどうしてかジュディスと呼ばれた女性だった。
リタと呼ばれた少女が不快そうに顔をしかめて、振り返る。
不快そうだと言うなら明確に分かりきっている事実をはっきりと口にも出されてしまったアッシュも同じだったのだが、分からなさそうに首を傾げる少年や桃色頭の少女と違い、リタと言う少女が分かっていてあえて言ったと言うことに、ジェイドは思わず眼鏡を押さえて黙り込んでしまった。
この場に味方が居るか居ないかなんて問いは、今更か。



「…なによ。別にあたしは間違ったこと言ってないでしょ」
「そうね。リタの言うことはごもっともだと私も思うわ。けれどわざと切り捨てようとしたのも、事実よね?」
「それは……」
「義をもって事を成せ。不義には罰を。野垂れ死ぬと分かっていて放置するのは、不義になるのではなくて?」
「……」


助け舟を出してくれたは良いが、微妙な具合に心をへし折ろうとするのではないかと疑ってしまいそうになる女性の言葉に、少女は不満そうに頭を掻いたあと、うんざりと言ったように背を向けて、言った。


「別にあたしはあんた達のギルドとは関係ないし。がきんちょにでも聞けば?」
「えっ、えっ、ぼ、僕?!」
「あんたがギルドの首領なんでしょ?あんたの判断がギルドの判断。あたしは知らないわ」


胸糞悪いとは思うけど、と。
ぼそりと小さく呟いた少女の言葉を、聞き取ってしまったのはジェイドとあの黒髪の青年だけらしかった。
話の流れがこのまま許可でも降りそうな雰囲気だとは思わないこともなかったが…そろそろ限界なアッシュの様子と、首領だと言う年端の行かない少年が黒髪の青年に相談する辺り、ジェイドはこれはダメだと頭が痛くなって来る。
愉快そうにニヤニヤと笑う胡散臭い男に、今にもアッシュが剣を抜きそうだと言うのがまた更に頭を痛ませる原因だと思ったが、そこはジェイドも気付かなかったことにして、黒髪の青年の言葉を待った。
朱色のレプリカを腕に抱いた青年は、こちらを振り向こうとはしない。
首に巻いた包帯の白さが、やけにその存在を造り物のように見せていた。

人形を抱いている、と言っても変わらないのかもしれない。
血の気の失せた肌。

堅く閉ざされた目蓋に、動こうとしないその体に。
見据えるばかりで動けずに居れば、桃色の髪をした少女が下手くそに微笑んだ。


その目蓋は、赤く腫らしていて。






「リタの言う通りだ。カロル、お前が決めろ」
「でも、ユーリ!それだと僕がいいよって言わなかったら、この人達は…リタの言う通りになっちゃうんじゃ…」


弱々しく言った少年の言葉に、青年は少しだけ呆れたように溜め息を吐いて、それからレプリカの頭を撫でていた手をゆっくり、少年へと向けた。
ぽんぽん、と頭を撫でる。

正直、『ギルド』と言うものの首領だと言ってまだまだ幼い少年を示された時、ジェイドは名ばかりの首領を掲げて同行など断られるとばかり思っていた。

年端の行かぬ子どもだ。
責任能力もあるとは思えず、意見も求める必要性を感じなければ、この男たちもそう思っているのだろうと。
良いようにあしらって意見を求める振りをして、結局は事後承諾ばかりで。
そこまで考えて、それから、気付いた。


それは、誰に対する、ことだった。




「んな難しく考えずに、カロルがどうしたいのか考えろ」
「僕が…?」
「直接話を聞いたわけじゃないからよく知らないけど、見捨てたいのか?」
「そんなことは思えない!確かに僕はルークの世界の人だとしか知らないけど、見捨てるなんてそんな…っ」
「なら、カロルはどう受け止めるんだ?依頼としてか、ルークと同じようにするのか。カロルはあいつらにどうして欲しい?俺はお前のその気持ちに従う。ジュディの言う通り、義をもって事を成せ。不義には罰をって言うなら、置いて行くのは不義だろうしな」


頭を撫でつつ、そう言った青年の言葉に、幼い首領は目を輝かせて頷いたあと、一度彼の腕の中で眠るレプリカの頭を撫でて、桃色の少女へと駆け出して行った。
胡散臭い男はさておき、どうやら元々の依頼主はその少女であるらしく、何やら言葉を交わして相談している。
おでんを頬張る金髪の少女と犬がレプリカへと近寄り、目を閉ざしていると分かっていながらも言葉を向けるその意味を、ジェイドはあまり理解出来なかった。
複雑そうな顔をしているアッシュを、茶化すように言葉を向ける男の声は、耳に入れない。
にっこりと笑んだ女性が隣に立つのが、心底嫌だった。
面に出すような真似はしないが、それにしても、これは。



「望むよう向いてる筈なのに、複雑みたいね」


さらりと言った女性の言葉に、ジェイドは一度目を伏せたあと、他には聞こえないような声色で、答えた。



「横っ面でも叩かれた気分ですよ」



勝手に野垂れ死ねとあそこまで意志を向けておいて。
幼い首領にああ言ったことが、少年の成長を促してのことだけだったと言うことに気付けない程、愚かだったらどれだけマシだったものか。




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まあ、そういうことです。
他人の事情より身内の成長を当たり前に取ったローウェル氏。
カロルがいい方向へ成長するよう、促しただけです。
性格残念でも命であることには変わりませんので(苦笑)。



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