「別の世界のルーク・フォン・ファブレの双子の弟ぉ〜?」



えー、なにそれー、そんな話ほんとに信じたんですかぁ?ねぇ大佐ぁ〜。
と、まあかろうじて述べても問題がないんじゃないだろうか、ぐらいのアニスの言葉だったが、実際にはこれ以上の罵詈雑言であったことは…後々の展開を含めてジェイドにとっては思い出したくもないことの一つであったが、この時ばかりはそんなことはまさか思いもしなかったことではあった。
ユリアシティで豹変したと言えばいいのやら、いきなり態度が変わったと言うルークも共にタルタロスに乗り込むことになればアニスとナタリアの言葉は相手を傷つけるそれで、しかしその反面、不気味なぐらいアッシュとティアは大人しいのだから、そこは空気を読んでおいた方が良かっただろう。
タルタロスで外郭大地へ戻り、すぐにグランコクマに行くべきだとルークが言ったことに対するアニスの反応は見てられなかったが、ジェイドはリアンの言葉を素直に受け入れて、グランコクマへと進路を進めていた。
正直、死霊使いだとか言われている男にしては珍しく、血の気が引いていたのだ。
いろいろと人として欠けている部分があることは自覚もあるが、それにしたってにこにこ浮かべているその笑顔の下で、腸が煮えくり返っていると察することができるぐらいには、一応鈍いわけでもない。



「すぐに信じることのできない話だとは私も思いますが、嫌でも信じなければならなくなると思いますよ、アニース」
「えぇー、でもそんなの、あのお坊ちゃまが嘘吐いたとしか思えないですよぅ。どーせ、アクゼリュスのこと認めたくないだけですって」
「……その方がまだ、マシだったと思うんですけどね」
「? どうしかしたんですか?大佐ぁ〜」


首を傾げて聞いてきたアニスに、「いえ、なんでもありませんよ」と誤魔化してジェイドは艦橋へと足を踏み入れた。
アニスは一応全員分のお茶を。ジェイドは地図を持ってきたのだが、他のメンバーが待機している艦橋へ入った瞬間、その雰囲気の悪さに苦く笑うしかなく、どうしたものですかねぇ、と途方に暮れるしかない。
ナタリアは怪訝そうにずっとルークを睨み付けているし、考え込むように俯いたガイはルークとはそれなりに近い位置に居るだろうけれど、アッシュはわざと視界から外している。ジェイド達が来たことに笑みを浮かべたのはルークだけで、その他の人間との雰囲気の違いがまた、なんだこの空間は、と洒落にならない雰囲気に拍車を掛けているようでもあった。
一体いつの間にやったのか、ルークは…リアンは髪を高い位置で一つに結っており、ジェイドから地図を受け取った時には花の綻ぶように笑う。
質が悪いな、と密かにジェイドは思ったが、何も言えなかった。
慣れないルークのその笑みに、アニスはこいつ大丈夫か?と口に仕掛けたが、目の奥がちっとも笑っていないことに気が付き、なんとか耐えた。その判断は間違いではない。



「ありがとう、ジェイド。さて、と。どこから説明したらいいかな…」
「…説明も何も、いい加減バカなことを言うのはやめてくださいまし。ルーク、あなたも何か言ってやってください。異世界のあなたの双子の弟だなんて…そんなふざけた話に付き合っている暇は、私たちにはない筈ですわ」


余程不快なのか一度も名前を呼ばずにそう言ったナタリアの言葉に、しかしルークと呼ばれたアッシュは何の返事もせず、酷いことを言われただろうにルークもまた、笑みを崩すことはしなかった。ただ、説明はそっちでしろよな?とばかりに視線をあの場に居合わせた面々に向けている辺りが、鬼ではあるが。



「…異世界の話はともかく、彼が私たちの知る今までのルークでないことは確かですよ、ナタリア。彼はルークが扱えなかった譜術を難なく熟し、ユリアの譜歌まで歌えます。私たちが知るルークは譜術など全く分からなければユリアの譜歌も歌うことなど出来なかった。同一人物である筈がありません」
「でもでも、ユリアの譜歌が歌えたってそれ本物なんですかぁ?ユリアの歌って、その子孫しか歌えないって話じゃあ〜」
「……彼の歌は本物だったわ、アニス。私もまだ意味と象徴を知らないから歌えないけれど、それでも分かるの。あの歌は間違いなく、ユリアの譜歌よ」


どうにかして説明すべくジェイドだけでなくティアでさえも口を開いたのだが、なかなかに信じることのできないことだったからか、いつまで経ってもアニスとナタリアは怪訝そうな視線を向けるばかりだった。
その視線を受けて、困ったようにルークも笑う。
最初からすぐに信じられるとは思っていなかったから、別にいいよ、と。
そうしてにっこり笑んで告げた筈のその言葉に、全く笑っていないように感じたのは…気のせいではないのだろう、かなり残念ながら。


「疑うのも無理がないよ、ジェイド、ティア。すぐに信じられる話でもなければ、2人だって実際に見なきゃ受け入れなかっただろ?信用できないって思ったって仕方ない話なんだ。アニスとナタリアがそう思うのも、仕方がないんだよ」


どこか悲しそうに目を伏せて話すルークの姿に、アニスは凄まじいまでの違和感にぞくりと背中が粟立ち、異様なものを見る目でナタリアはルークを見るしかなかった。
これだけの言葉が出ると言うのに、逃げろと本能が告げているのは、面に出していないだけでかなり怒っていると察することが出来るからで…その怒りを向けている対象が分からないから、疾しいことに心当たりのある面々は大人しくしているしかないのだが、果たしてナタリア達が気付くことになるのは、一体いつになるのだか。



「信じられない話をしている自覚もあるし、事実今ここに起きている事象は本来ならあり得ないことだ。俺もちょっとびっくりしててさ…信じられないってまず思ったし。でも、俺はルークの双子の弟だったし、この体がレプリカだって言うのなら、ここは俺の世界じゃない。それに過去に戻るにしたって状況が違ったしね。みんなに会えたのも、すっごく驚いたよ。違う世界なんだなぁって、まだ漠然としか、分かってないのかもな」
「過去に戻る…?」
「あ、ああ…だってユリアシティでああやってアッシュがルークがレプリカだって話したのなら、きちんと向き合って話したのはあそこが初めてだったんだろ?俺の時も似たようなことあったからさ、なんとなく、そうじゃないかって。…俺の世界では、もう一通り終わった後なんだ。だから、みんなのこともよく知ってる。俺が居た世界とここでどこまで一緒なのか、どこが違うのか分からないけれど、俺は俺の世界のみんなといろいろな話をしたし、いろんなことを知った。…今のみんなにとって、この記憶はあんまりよくないことだって、そんなことも」


静かに話したルークの、リアンの言葉に、その瞬間露骨に顔色を変えたのはアニスだった。僅かながらに動揺を見せたのはガイも同じではあったが、どのみち何かしら思うところのあった人間もそれなりに居て、黙って耳を傾けていたイオンは、血の気が引いている。


「…試しにどのようなことか、聞いても構いませんか?真偽を確かめたいので、私のことをもし知っていたら、話してください」



それはある意味かなり勇気の必要とする申し出だったのだが、真っ直ぐに見据えて言ったジェイドの言葉に、ほんの少しの間だけリアンもきょとんと目を丸くしてしまったけれど、「分かった」とそう言ってすぐに答えた。



「俺の居た世界のジェイドは、本名がジェイド・バルフォアって言ってフォミクリーの第一人者だった。今はもうやめてて、その研究をサフィールが引き継いでたけど、2人で研究してた頃は、フォミクリー技術で…ある人の生体レプリカを作り出すことが、目的だったって。もうそんなことは思ってないって言ってたから、心配してないけどな。ジェイドが初めて作ったレプリカは、妹のネフリーさんが壊してしまった人形だって言ってた。腕が取れてしまった人形を抱えてネフリーさんが泣いてたから、作ったって。でも、ネフリーさんは違うって言った。その意味を、今なら分かるって俺の知ってるジェイドは、そう言ってたよ」
「−−−…っ、」
「………その様子だと、先生の名前は言わなくて良かったんだよな?ジェイド」



語られるその内容に、絶句したジェイドの姿があるからこそ、今の今までどこか信じれなかった人間も、関連性があると言うことに気が付いて黙っているばかりだった人間も、疑うと言うことはもう出来そうになかった。
ジェイド・バルフォアと言う名前にアッシュが何か言いたそうにしていたが、そこから続いた内容に、それどころではないと、言葉を失うしかない。
異世界とは言え、目の前に居るレプリカルークは今この世界よりも未来からの存在だから、現時点のこの関係の中で暴かれたくないと思っているを、知っているのだ。

何が一緒で何が違っていたかなど、誰にも分かりやしない。
『ルーク』と『レプリカルーク』の関係ではなく、『ルーク』と『リアン』と言う双子だと言う違いは現時点で分かっていることだが、他のことまでは、どこまで一緒なのか、この時間軸よりも先の世界から来たリアンでさえも、きっと分かりやしない。

それで、も。
少なくとも、ジェイドは同じだった。
否定も肯定もしてないけれど、こうまで露骨に表情を変えたジェイドの姿を見ることになるのはこの場に居る誰もが滅多にないことだと知っていて、だからこそ、誰からも言葉を、奪っている。


目の前に居る存在は、自分達の知っていたルークではなく、異世界の存在だ。
そう認めるしか、ない。
認めないでいられる筈の方が、ない。



「今この体で何が起きているのかとか、どうして自分がここに居るのかとか、分からないことは沢山あるけれど、この先を知っている俺と言う存在は、きっとこの世界のみんなにとって全部が全部良いことではないと思う。下手をすれば預言より質が悪いのかもしれないし、場合によっては1つの武器になるのかも、しれない。似通った境遇だったとしても、この『ルーク』と俺は違っているし、これからもしかしたら起こるかもしれない、そういう話として受け取って欲しいんだ。決して鵜呑みにはしないで。自分自身で考えて、答えを選んで欲しい。この世界に生きているのは、俺じゃなくてみんなだから」



穏やかに笑んで、そうして告げる彼の言葉を、もう誰も遮ることは出来なかった。





「これからの話をしよう。全てが同じではないけれど、決して無意味ではないと思う…この先の、話を」





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もう少し載せようかと悩みましたが、一旦ここで区切りました。
しんみりしているような、そうじゃないような。
基本は好き勝手やるだろう予定なので…シリアスには途中でなりきれないと思いますでも暗い。





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