「あ・り・え・ねぇー!なにアイツら!なんなのアイツら!わかってたけどマジであり得ねぇー!!」
「ちょっとは落ち着きなよルティ。と言うかそろそろニコルに代わらなくてもいいの?あいつ癇癪起こすんじゃない?」
「あ?ああ、大丈夫大丈夫。部屋に帰ったら代わるって最初から言っておいたから」
「…あっそ。でもそんなに時間掛からないから一応すぐ戻れるようにしときなよ?理屈は知らないけど」


言ってやれば、わりとあっさりルティが「ボタン一つで代われるのと大差ないから平気平気」とそんな風に続けたから、何だか頭を抱えたくなるのをぐっと堪えて、シンクは小さく溜め息を吐いた。
うん。わかってたけどこいつの方がいろいろとあり得ない。
言葉遣いはどちらかと言えば少年のようだと言うのに、体つきは女性だから、違和感だらけだった。わざわざ姿まで変えなくてもいいと密かに思っては、それは自分の体を持てている側の勝手な思いだとわかるからこそ、シンクはそこまで言わない。

言える筈がなかったのだ。
焼却処分され掛かった自分と、本当に処分されてしまった、彼女たちと。

今更、痛むこころとやらに気のせいだとも、言えなくて。



「あーあ、わかってたけど俺らの被験者マジで柄の悪い不良じゃん?人相悪いじゃん?あれと顔同じだって考えると、俺って端から見たら女装癖のある野郎にしか見えないのかなぁー」


そうだったらマジでヘコむんだけど、と続くルティの言葉に、うっかり呆れたように溜め息を吐いてしまった。
手元に鏡がないのがこんなにも悔やまれることだとは思ってなかったが、ルティとあの鶏が同じに見える奴が居るのなら、早々に眼科にでも行くよう、お勧めしたい。


「安心しなよ、あんたとあの鶏とじゃ全く違うから。似てないから。言葉遣い残念で男女だけど、黙ってれば普通に女性に見えるよ」
「慰められたのか貶されたのか微妙なフォローだな、シンク。でもレプリカと被験者ってのは変えられねーし、となるとあのオカメインコも女顔ってことにならねぇか?つーことは胸にパンでも詰めて同じ格好すればあいつも女に…」
「絶対有り得ないから。あの鶏が女顔とかないね絶対にない。…大体性別が違うんだから似なくなるのは仕方ないんじゃないの?骨格とかから変わってくるでしょ」


確か、と言い切るには若干自信がなくて、曖昧な言葉をつけて言いはしたのだけれど、その点には納得したのかルティはああなるほど、と言って腰に手を当ててみたり細い指先をいじっていた。…と言うかどういう原理でその姿になれているのか全くわからないのだが、第七音素が異様に感じられる辺り、何かしら適当に干渉して見た目だけでもいじっているのだろう、ぐらいしか、考えられはしない。
初めて見た時は驚いたものだったが、アリエッタはあっさり受け入れていたし別に気にするようなことでもないかと思っていたら、ラルゴが卒倒しかかっていた。
髭にでも報告するのかな、と暢気に思いつつ半ば放置だが、今頃アリエッタにせがまれてパンケーキを作ってるあの巨漢を想像したら、可哀想だからあまり触れないことにする。
何だかんだ言ってあの男はアリエッタに甘いのだ。
アリエッタが気を許している限り、きっとヴァンには黙ったままだろう。


「まあ別に今更文句言ったってどうにもならないんだけどさ、あれが被験者だって思うとマジで頭痛いんだけど。どうせならもっと違う被験者だったら良かったのになー…」
「…そこで被験者として生まれたかったって言わないところが、あんたらしいよ」
「そう?別にレプリカだって被験者だって変わらないでしょーよ、と。楽に生きてける訳でもないし」
「あっそ」
「でもどうせレプリカとして生まれたならイオンみたいに被験者が女顔の方が良かったなー、とか思うわけでさ。女心ってのはなかなか複雑なんだよー、シンクくん」
「あっそ……て、え?」


あまりにもあっさりと言われた言葉に、思わず一回受け流してしまいそうになったのを、シンクは慌てて戻した。
おい、いま何て言ったこのバカ、と。
言ってやりたかった言葉は音にもならず、今頗る間抜け面晒して口をパクパクと金魚みたいにさせてる自信がある。
聞き間違いだったら、どれだけ良かったことか。



「シンクとイオンって、同じレプリカイオンなんでしょ?」


オカメインコのレプリカより絶対マシだし、羨ましー。
と続く言葉はとりあえず流しておいたが、腹が立ったので思いっきり頭をひっ叩いてやった。



どこまで知ってんだよこいつ!





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