その日僕らは同じ部屋に閉じこもって、小さな窓から大きな空を見上げてた。
扉の外から声が聞こえる。

もう少し、もう少しだから、あとちょっとだけ、待っててね。

小さな子どもがそう言ったのを、部屋の中でみんなが聞いた。
小さな手で必死に扉を開けようとしてくれているのを、みんなが知っていた。
ずっと前からの、冷たい機械の中で生まれてからの、みんなで交わした、一つの約束を。
大きな土が空から落ちて、ぽっかり穴が開いたとき、そこから出れるようにするからね。
そう言った、小さな子どもがみんな大好きだった。
だから、言った。
みんなで言った。

少しでも、『ルーク』が不安に、ならないように。


『うん、待ってるからね』













パチッと目が覚めたのは、多分今がその時だからだと思った。
ゆっくりと上体を起き上がらせる。
手のひらに視線を落として、握って開いて、握って、開いて。
思わず目を輝かせてその様子を見ていたのは、多分いつもみたいに隔たれたあの感覚がなかったからだ。
靴を履いて立ち上がる。
ついつい楽しくなって飛び跳ねてしまいたくなったけど、ここは人のお家だからと我慢した。
窓の外には白い花が咲いてるのが見えるけど、ここの空が汚くてよく見えないのは知っているから、早く上に行きたいな、ととりあえず見えた剣を掴んで扉を探す。
息を吸って吐いたら何だか苦しくなるような空だと思った。

早く蒼い空が見たい。
だって『ルーク』が教えてくれたから。
空はとても綺麗なものなんだと。手を伸ばしたって届かない、四角く区切られた中は、空のほんの少しの一部でしかないのだと。

実際に見てみるといいよ。
空はとっても広くて、あおいから。

穏やかに笑って教えてくれた。
記憶にちゃんと残ってる。
ならやっぱり、最初は空に、会いに行かなくちゃ。



「待ってくださいの!ご主人様を連れて行かないで欲しいですの!」


やっと見つけた扉を開けようとした時に、後ろからいきなり甲高い声と一緒に飛びつかれて思わずびっくりして跳ね除けてしまった。
青い毛並みのチーグルが、それでも必死にしがみついてくる理由はよくわからないけれど、一旦落ち着いてからはひょいっと転がっているのを持ち上げてやる。
チーグルの仔はボロボロ泣いていた。
泣いて泣いて、体中の水分が無くなってしまうんじゃないかと思うぐらい泣いて、か細い声で、そうして言った。


「ミュウを、置いて行かないで欲しいですの…」


消え入りそうな声だった。
その言葉を聞いて、ごめんね、と心の中で呟く。
仕方ないよ、と返って来た気がしたからそのままチーグルの仔を腕に抱いて扉を開けた。

とてもじゃないけど、置いていけるなんて出来ないよ。




--------------



どうせ暇だったし、と言うこともあればアクゼリュスを崩落させた、使用用途を失ったあのレプリカがどんな風に廃棄されるのか気になったと言うことも確かだったので、面倒だと思いつつもユリアシティなどという仕様もない街に足を運んでいた最中のことだった。
自分の時はザレッホ火山の火口に焼却処分だったが、あのレプリカは魔界の海にでも処分されるのだろうか。
あそこは泥の沼みたいなものだから、生き埋めに近いものがあるし、ならば埋め立て処分かと暇つぶしの考えは預言を盲信している、馬鹿な管理者共の思考を追う。
いくら孫娘が居ろうとあんな真っ昼間に公爵家襲撃したアホ女では市長共の思考なんかわからないだろうし、『聖なる焔の光』に詠まれた預言に乗っ取って殺されるだろうな、とは簡単に予測出来ることだった。

(所詮レプリカ相手に、捨てたところで何も思わない、か。)

それでよくあのレプリカを傲慢だって言えるもんだ、と鼻で笑いつつも、これは最悪あのレプリカの乖離の瞬間でも見ることになるのか?とそんなことすらも思っていただけに、だからこそ、シンクは目の前に見える人物に思わずぽかん、と口を開いたまま固まってしまっていた。
幻覚だったりしなければ、間違いなくここはアラミス湧水洞であり、ユリアシティには辿り着いてもいない筈である。
思っていた全ての可能性を打った斬って、レプリカルークはシンクの目の前に現れた。
肩に乗せたチーグルの仔と談笑中でもあり、ユリアシティから別に逃げ延びて来たわけでもない雰囲気に、ペシッとシンクは自身の頬を叩いてみるのだが、夢ではないらしく普通に痛い。
岩場の影すらも利用出来ない状況に舌打ちをして、シンクは仕方なくレプリカルークに対しすぐさま攻撃だけは出来るよう、警戒して近付いた。
きょとんと目を丸くする姿に何だかアホらしく思えてくる。
馬鹿らしい、と吐き捨てれもしそうだと言うのに、しかし妙に心の中がざわついて、シンクは表には一切出さなかったけれど密かに戸惑っていた。


「あんた、チーグルなんか連れてこんなところで何してんのさ」


馬鹿にするような態度で言えば、あのレプリカの性格だ。すぐにムキになって何か言うだろうと思っていたと言うのに、しかしそんなシンクの思惑に反してレプリカは首を傾げただけだった。
やけに子どもみたいな反応に頭が痛くなってくる。
チーグルの仔と顔を見合わせたあと、レプリカが何をするかと思っていれば、シンクの予想などお構いなしに、まるで仕方ないね、とばかりに笑ったから余計にわけがわからなくなった。何だか妙に落ち着かない。
それがどんな違和感を感じているかだとかシンクにはわからなかったが、隣を素通りしようとしたレプリカの手を掴んで、間近で顔を見て、そうしてからようやく、わかった。


「あんた、誰?」


驚くほどすんなりと出たその言葉に、普通だったら何を言ってるんだと馬鹿らしく思えたが、シンクはこれで正しいのだと確信めいた何かがあった。
レプリカはきょとんと目を丸くしている。
それから一度だけチーグルの仔と顔を合わせるその姿にやっぱりシンクは自分の考えが正しいと、知った。


「なんだ、わかっちゃうんだ」



カラカラ、と笑ってそいつはそう言った。
シンクの知らない、そいつの笑顔。
あの『ルーク』ではない、別の小さな子どもの、笑顔。



(レプリカルークは、どこにいったんだ?)



110909
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自意識過剰な僕らの窓


ネタにあったアクゼリュス分岐のシンクとルークの話です。ネタの時よりも更に面倒臭い設定になってますが、お付き合い下さると幸いです…。



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