おはよう
はじめまして、シンク。

おれは、ルチル。
今まで姉弟たちと一緒に居てくれて、ありがとう。



花の綻ぶように笑んで言った4人目の子どもの言葉に、側で聞いていたアリエッタがまず涙を拭って「よろしく」と言い、見守るようにしていたラルゴが「まずは食事にしようか」と提案し、目蓋を腫らしたディストが「し、仕方ありませんからこの私が用意を手伝ってあげましょう!」とそう言っていたのをシンクは碌に動きもしないまま、ただ黙って4人目を見据えていた。
どうして今まで出て来なかったのか、だとか。
4人で交代していたらまだ誰も消えずに済んだんじゃないのか、だとか。
浮かんだ言葉はけれど口に出すにはあまりにも身勝手な想いばかりで、結局は口を噤むことしかできない自分自身がシンクは嫌で嫌で仕方ないのだが、こればっかりはもう仕方ないだろうとも、思う。
思えば当初の目的はアクゼリュス崩壊後、かつての同行者から捨てられ、使用済みとなったレプリカがどうやって処分されるか気になって様子を見に行っただけだと言うのに、どこをどう間違えたのか手を伸ばしてしまってから、どうにもおかしくなった。
アリエッタもラルゴもディストももう一度ルークと話をしてみたいと願っていて、じゃあお前はどうなんだ?と聞かれた時に「僕もあいつには用があるからね」と返せてしまってから、目に見えてシンクは自分はおかしくなってしまったとそんな風に思うしかなくなっていた。

ルークと話がしたい。
そう思えること自体がおかしな話だが、それは別に嘘なんかではない。
だけどきっとそれと同時にレティ達と一緒に居たいとも思っていた。



レプリカとしてでもいいから、きちんと産まれて来てくれたらと思える日が来るなんて、おかしいとしか思えないだろう。



−−−失敗作だと捨てられた、焼却処分をされるあの熱を、知っている癖に。





「……ニコルは?あんたが出て来たってことは、また泣きじゃくってるんでしょ?」



どこか引き攣りそうになった声なんて気のせいだと自分に言い聞かせて、ベッドから起き上がった4人目を、ルチルを見据えたままシンクはそう聞いた。
やっぱり仮面ってのは便利だな、と思いつつ、視線は合わせている癖に情けない表情はきっとしていて、けれど他にどうしようもないだろう。
先ほどまでそのベッドで横たわっていたのは、ルティの筈だったのだ。

惨いことをするなぁ、と苦々しく顔をしかめずには、いられない。
最後の話し相手にルティが選んだのはシンクだった。
最後まで自分を貫いて、笑顔で消えたルティの体は、彼女の時間が終わったからこそ、女性ではなく男性の姿へと、戻っていて。



「ニコルは、ルークの部屋に居るよ。しがみついて泣いてる。でも、今日の夜にはまた交代すると思うよ。おれは、パッセージリングの操作とか、対元同行者用に出て来ただけだからね」
「…どういうこと?今の今まで出て来なかったって言うなら、あんたが一番時間があるんじゃ…」
「おれは11番目だから。事故みたいな形でルークが産まれた時に、そこへ巻き込まれるような形で産まれたから、1番ルークと近くてだからこそ圧倒的に第七音素の量が少ないんだ。大部分が共有してるって言った方がいいかな?その辺はちょっとおれもよく理解してないけど、短い間、よろしく頼むよ、シンク」



……なんだか右から入れたら全力で左へ抜けていくような小難しいことを言われたような気がしたが、その辺りのことは全部ディストに任せることにした。
詳しいことを知ったら、今のあの男ならばこの場に居る人間には話してくれるだろう。
そう思えたことにもううんざりとするしかないのだが、今は自分でも思っているよりずっと、どうやら脳みそは飽和状態らしい。


そうか、ルティは、もういないの、か。





「…これから、よろしく頼むって言いなよ、ルチル。あんた達は自覚が足りなさ過ぎる。消えて喜ぶ人間が居るように見えるなら、一回眼科でも受診するよう、おすすめするけど」




取り繕うみたいにそう言ってやったその言葉に、きょとんと目を丸くしてから嬉しそうにルチルが笑うから、シンクはもうこれ以上何か言える気はしなかった。





130116
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自意識過剰な僕らの窓・13



矛盾だとか何やらがあってもスルーしてくださると…幸いです…orz




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