ライナスの指先


 ああ、こいつは嫌な笑い方をする奴だな、と。
 初めて顔を合わせた時に抱いた感想はそんなところで、差し出された手に握手をすることもできないまま嫌悪感を剥き出しにして拒絶した。それが異世界の自分だと言う『ルーク・フォン・ファブレ』との初対面の時のことだった。
 愛想が良いのかにこにこ笑んで周りの人間と話し、ほんの少しだけ無知さを見せたかと思えばそれをきっかけに話を広げて笑い合う。接した相手を不快にさせるような真似は一切せず、如何に相手が気分を良くして話を終えれるかに重点を置いていて、グラニデと言う世界からルミナシアへ訪れて三日もしない内にすぐにギルド中の人気を集め評判もかなり良かった。
 こっちのルークも向こうの『ルーク』を見習えばいいのに、とそんな陰口を言われたことは一度や二度の話ではなくて、けれどあっちの『ルーク』のようになるのは絶対に嫌で、いつか自分もあんな風になるのかとそんな想像はあまりしたいことではないとさえ思う。
 グラニデと言う世界から来たと言う異世界の『ルーク・フォン・ファブレ』に対して、アッシュ以上に相性が悪いと最初に愚痴を溢したことだけは間違いだったとそこは認めようと思った。思うだけにして黙っておけばアンジュの耳に入って小言を言われることもなかっただろうし、アッシュに余計に嫌われずに済んだだろう。二人の『ルーク』に対して似ていないと言ったのはギルドのメンバーのほとんどで、しかしどうやら露骨に悪印象を抱いたのは自分だけだったらしく、人として優れているグラニデのルークに対するやっかみだとそんな認識をされたのは腹立たしくも思ったが、とにもかくにもあの『ルーク』と関わりたくなかったので何も知らない連中の声は全部放って置いた。徹底的に接触しないよう避け始めたことに対してどうして彼のような良い人を避けるのだとお節介な人間から非難する声も確かにあったが、そんなことは今はもうどうだっていい。狭い船の中と言う限られた空間で、俺はひたすら『ルーク』を避け続けるだけだった。
 誰に何を言われようと、話をしてみたいとは、思えそうにない。
 やっかみでそういう行動をするのならギルドの調和を乱すだけだとアンジュに何度だって言われたのだが、その話題が出る度にルークとしては口を尖らせることばかりしかできなかった。何を勝手なことを、と拗ねてしまうのは、誰も自分なんかの言い分を聞こうともしないで周りが勝手に決めつけて、気が付いたら全面的にルークが悪いと言うことになっているせいで。
 俺も少し苦手なんだよな、と困ったように笑って言ったのはガイだけで、それならそれでと然程気にしていなかったのだが、それでも少しずつ自分が孤立していることは分かっていた。
 けれどこればっかりは、どうしても譲れない。
 受け入れることが、できない。
 むしろどうして分からないのだろう、とそんなことさえ思って、気付かない人間の方でさえも避け始めるようになってしまったりしていた。
 やっかみなんて、別に抱いていない。
 愛想を振り撒くだけの、あの笑顔が苦手なだけで…あの笑顔は、国のことをどうしても思い出させるのだ。
 城に居た人間と変わらない。
 顔に笑みを張り付けて、平気で嘘を吐くあの連中と変わらないとほんの少しでもそう思ったら、もう無理だった。
 近寄ったらダメだ、と声がする。
 そしてその声は間違いではないのだろう。
 あの手の表情を浮かべる人間に、碌な奴はいないことはもう十分過ぎるほど学んでいた。
 あいつは、嫌いだ。
 上辺だけを取り繕うあの笑顔は、『ルーク様』としか見ようとしない城の人間と重なって、どうしても好きになれなかった。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -