前略
ルークは女の子になりました。
誰と結婚するかは未定ですが、もしかしたら好みが一緒であれば緑頭の彼が相手かもしれませんので、花嫁衣装を今から決めても遅くないと思います。
草々


何だかよくよく見たら適当な形式で書かれたルティシアからの手紙に、コーラル城でお留守番していた公爵夫人は考えた。
それなら普段の服装もお腹出してはダメだし、可愛く着飾らなくちゃいけないわねぇ、と。
公爵夫人はメイドを呼んだ。
邸で愛息子…いや、もうこれからは愛娘だろうが、可愛い可愛いあの子どもがレプリカと言う存在だろうと、今までと態度を改めなかった気だての良い若い娘だった。


「あの子は白がとっても似合うから、白を基調とした沢山フリルの付いた格好を用意したいのだけど、あなたはどう思うかしら?」


問われたメイドは使用人の身で答えられないと思ったが、夫人が許してくれたのであっさり答えた。


「でしたら奥様、この部屋も愛らしいものに変えませんと、ルーク様の魅力が半減してしまうと思いますが」


ちなみに夫人は誰かが女の子になっただとか詳細は一切言っていなかったのだが、そこは流石ファブレ家の使用人と言うべきか、上手い具合に解釈したようで、メイドの申し出に夫人は頗る納得してしまった。
ああ、確かにその通りだと。
それはつまりバチカルの邸に帰る気は二度とないと言うことに等しかったのだが、ツッコミ役は誰もいなかった。
ついでにストッパーとなる人間も居なかったので、夫人の趣味にメイドが拍車を掛けるばかりである。
ダアトから帰って来た面々が変わり果てたコーラル城に撃沈するまで、後4日。

これは流石に無いな、とルティシアも血の気が引く程の、可愛らしい乙女趣味丸出しの部屋だった。



* * *



絶叫なんて生易しいものではなかったが、とにかく叫び、喚き、床に頭を打ち付け、拳を叩き付けて撃沈したアッシュを筆頭に、それはそれは居合わせた面々の態度は凄まじかった。
キムラスカ王とユリアシティ代表が硬直したのはレプリカを一掃する手段を無くした云々が過ぎったからだろうが、大爆笑して酸欠状態に陥っているマルクト皇帝は流石である。
導師イオンは素晴らしい笑顔で着々とアリエッタに指示を出しに行った。
それがこのオールドラントのどこかに居るシンクを連れて来いと言うものだと気付いたフリングスは、グランコクマ→コーラル城間をひたすらジェイドと言う用件の為に往復していたからこそ事情を知っていたので、止めもしませんでした。
まさかのここで死ぬパターンは死亡フラグ回避した身では嫌過ぎるので。
ジョゼットと早く式挙げたいです。



「ル、ルティシア…それは、どういうことですか…?」
「どういうことも何もこっちの愚弟と私は完全同位体の被験者とレプリカなんだろう?大爆発なんか起こしてこっちの私が愚弟に存在を喰われるなんて洒落にならないからな。断固拒否させてもらった」
「それは確かに完全同位体であるなら起こり得る現象ですが、一体回避などどうやって…!」
「え?有害電波に責任取らせただけだけど。第七音素の意識集合体とか宣っているんだ。それぐらい出来ないとは言わせないと凄んだらあっさり了承したぞ?まだ男性としての意識が薄かった、と言うのが幸いだったな。公爵家の教育は疑ったが」


一体何をやらかしたんですか父上ーっ!!と床に四つん這いになって頭抱えて撃沈していたアッシュはそう思ったが、それよりも会話の中にいろいろ聞き捨てならないこともあり、そちらを考えねばと思えば思うだけ、まあ混乱して無理な話だった。
腹を抱えて笑うマルクト皇帝に殴りかかりたい。
と言うか障気中和の話はどこへ行ったんだ、と考えれたら凄かったのだが、そればっかりはアッシュだけでなくキムラスカ王以外の頭からは抜けていた。
こちらの公爵はまだマシだったんですねぇ、と呟いたジェイドも例外ではない。
まあ以前ルティシアが言っていた通り、ルークに跡継ぎの役目云々を行わせていたら、男女の性差は多少は理解しているだろうからすんなりと性別を改めることもしなかったろう。…無理やりだとかそれこそルークの意志を無視する方法を取っていなければ、の話だが。


「なんか性別変えただけだと不安かもって年齢も14歳ぐらいに合わせたってさ。有害電波もなかなかやるっちゃあやるな。こっちの旦那に合わせてくれたらしい」
「そんなことが…可能なんですか…」
「あんたがどれだけ頭良かろうと相手は常識一切通じない有害電波だからなぁ…結構喜んでやったらしくて、現在バストのサイズを検討中だ」
「そこまでやるんですか?!」
「ウエストは細いから問題無いが胸がぺったんこは可哀想だしかと言ってデカメロンじゃあ品が無いって言ってこだわってるらしいぞ?ピオニー陛下が」
「死になさいピオニー」
「それは俺じゃないだろう?!ジェイド!」


笑いながら言ってる時点でこちらのピオニーも質の悪さは変わらないのだが、障気中和に関する会議そっちのけで話題がずれにずれまくる現状に、漸く四つん這いで撃沈していたアッシュが立ち直り掛けた、まさにその瞬間のことだった。


「僕のルティの前で馬鹿なこと言うのは止めてくれない?W三十路越え独り身サン」


ギュッとルティシアを後ろから抱きしめて言った緑色の髪をした青年の姿に、今度はまた先程とは違った意味で空気が凍ったのだが、とりあえず下敷きになっているアッシュが死にかけていた。
驚いたように目を見張ったルティシアが、顔だけをどうにか動かして、振り返る。
仮面は着けていなかった。
ニヤリと笑んでいるその姿は、見間違えようもなく。


「シン、ク…?」
「ようやく会えたね、ルティ。たっくあの有害電波は恩を仇にする天才だよ。でもま、五体満足でこっち来れたのは、少しだけ感謝してもいいけど」
「……嘘、なんで…」


呆然と目を見張るルティシアを抱きしめたまま、シンクはそう話していて……正直2人からW三十路越え独り身サン呼ばわりされたジェイドとマルクト皇帝はグッサグッサ刺さる何かがあってその甘い雰囲気は堪ったもんじゃなかったのだ、が。


「勿論、勝手なことやったルティを殴りに来たわけだけど」


あっさりそう言ったシンクの言葉に、周りが「はあ?」とそんな反応をするより早く、まさかルティシアに頭突きを喰らわすとは、流石に誰も思っていませんでした。


「−−−っなにすんだよシンク!!てめぇ本気でやったな?!痛いっつーの!!」
「痛くしたんだから当たり前だろこの馬鹿!!どれだけ人が寿命縮める思いしたか、あんた全然わかってないだろ?!忘れたとは言わせないからね!レムの塔!!」
「あー…ははは、ごめん」
「ごめんじゃないよ馬鹿嫁!!勝手に1人で決めて勝手に障気中和しに行って!そりゃあの馬鹿電波の力で第七音素は足りたけど、超振動使ったあんたはアホ弟が途中参加したけど結局死ぬし!馬鹿な弟程可愛くて仕方ない?言われた弟は初めてそこで今までレプリカだって思ってたあんたが双子の姉だって知って発狂しかけたんだからね!」
「あ、もしかして結構愛されてた?俺」
「愛されてた?じゃないよもう一回頭突きするよ馬鹿!あんたらがブラコンシスコンだろうとそこまで口を出す気は僕もないけど、絶対に許さないんだからね!」
「俺はブラコンじゃないぞ、ダーリン」
「下手に誤魔化そうとするな!」


ゴンッ!と。
これまた鈍い音の2発目が素晴らしく決まった光景に、話の内容からは勿論、とりあえず居合わせた人間は黙っておくことにした。
普通にシンクに下敷きされているアッシュのライフポイントが危険値だったりして不安な気もしないが、壮絶な夫婦喧嘩を前にどうしろと…と、思ったらなんとなく、それまでだったりする。
アリエッタに指示を出しに行ったイオンが早く戻ると良いですね。と一歩どころかがっつり引いた位置でジェイドは思った。
いつの間にルティシアがもたれていたライガは居なくなったんだろう、と疑問に思わないこともなかったが、突っ込んで聞いてアッシュ第二号になるのは嫌だったので、なかったことにした。
戻って来て下さいイオン様。
マシな方向に話が動くとは限りませんが。


「お前…マジで2回もやるか?普通…」
「あんたに合わせて普通にしたらちっとも反省しないじゃないか」
「にしたって頭突きは酷いだろ?!シンク!」
「酷いのはあんただルティ!あんた本当に分かってない!あんた、その子が居なかったらローレライでも助けれなかったんだよ?!」


無理やり向かい合うように座り直させて、ルティシアの肩を掴んで言うシンクの言葉に、誰も何も言える筈がなかった。
つまりそれは、本当なら死んでいたと言うことだろうか。
絶句するしか、なかった。
この話の内容から、分かってしまうことがあるから。

障気中和の犠牲となったのか。
『聖なる焔の光』を名乗っていた、存在が。



「僕が酷いんじゃなくてあんたが酷いんだよ、ルティ。障気を中和するなら、僕も連れて行けって、言ったじゃないか…っ」



そうして再びルティシアをギュッと抱きしめたその姿に、今まさにこちらの世界での障気中和に関して巻き込んでいるキムラスカ王の顔色は、凄まじく悪いままだった。






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