さて、ルティシアの話はまあここまでにするとして、では邸から居なくなったこの世界のルークはどうしてるんだ?と至極真っ当な疑問から話を切り出したガイ(やっと復活しました)の言葉に、居合わせたメイドや白光騎士団の間に、妙な緊張が走ったのをジェイドは見逃さなかった。が、ジェイドだけでなくルティシアも見逃さなかったのが、いろんな意味で不味かった。
あの公爵ですらも若干雰囲気が変わったことに、彼女の眉がピクリと動く。
この後の話の展開が、まさかあの公爵夫人がコーラル城を急ピッチで整えさせ、別居するまでの事に発展するとは、誰も思っていなかった。



「こっちに居たルークなら大丈夫だろうよ。さっきから有害電波が無事に家に送ったからってご機嫌取り必死なぐらいしてるから」


それは勿論この世界のローレライでなくルティシアの世界のローレライからの話なのだが、有害電波は撒き散らしているのかこちらのアッシュも受信するらしく、複雑そうに顔をしかめていた。
一応神と等しく崇められている存在の筈なんですけどねぇ…とジェイドは思うが、自身の中でローレライを敬う気持ちなど皆無なので、あくまでも思うだけ、だったりする。
多少は気が済んでいたのか、と言うよりはお腹の中の子を考えて足を組んだのを止めたルティシアは、ローレライ=有害電波と言う認識を曲げずに更に言葉を続けた。
機嫌の悪さ第二波がじわりじわりとアッシュでなく今度は公爵に対して向けられつつあることに気付いているのは、果たしてこの場に何人居ることか。


「なあ、家に送ったってその家は一体どこの家のことなんだ?」


これもまあ、無難な質問。
周囲の疑問を的確に拾って口にするガイに何と言えばいいのか若干ジェイドは複雑だったりするのだが、口にすれば話が進まなくなるのは目に見えているので、そこは言わないでおいた。


「マルクトの私たちの家だな」
「マルクト?ダアトやキムラスカには住んで居ないのか?」
「ダアトはシンクが嫌がったしキムラスカは愚弟の干渉が煩わしくて止めた」
「……なるほど」
「ところでせっかくこれだけの人数が集まったんだ。私にとっては4年前の貴殿らになるからな。是非とも沢山話をしたい。時間も時間だしお茶会にでもしないか?愚弟も強制参加だ。ナタリア殿下、愛らしく着飾った従姉の姿を私も見てみたいと思うのだが」


にっこり笑んで言ったルティシアのその言葉に、それは良いですねと夫人も乗ったことにより、嬉しそうにナタリアは一旦城へと戻って行ったが、そこに含まれた他意に気付かぬほど鈍くない自分自身にジェイドは撃沈寸前だった。
ナタリアが居なくなったことで公爵夫人以外の居合わせた全員の顔が堅い。
ダアトから来た面々はイオンが速攻で連れ帰って行った為に、これで完全に人払いがされたようなものだった。


「さて、ここから多少私自身の話を詳しくさせて頂きたいのだが、よろしいだろうか?」


確認を取るルティシアの言葉に、ガイとジェイドは若干マルクトに帰りたい、と思わないこともなかったが、アッシュも居ることだし体の良い生贄が卒倒するまでは大丈夫か、とそんな仕様もない思考回路が働いたが、面には全く出しはしなかった。
公爵の顔色が悪い。
それに反して夫人は超笑顔であるが、怖いとしか誰も思えなかった。


「有害電波のお墨付きがある以上大丈夫だろうが、実はこの子で4人目でな」


いきなり何を言い出すんじゃーい!!と言うツッコミは、お茶がないことで誰も吹き出しはしなかったが、とりあえずガイが頭を抱えて撃沈した。
やはりと言うのか、どうにもこの手の話題がダメらしく、そのうち邸から追い出されるんじゃなかろうかと思ったが、それよりも。


「おまっ、ふざけんなよ!ならどう考えたって結局シンクはとんでもない若さでやらかしてんじゃねーか!!」
「想像力が貧困だな、オカメインコ。実は最初が三つ子でした、パターンだったら問題ないと思うが」
「問題ありまくるんだよ…てめぇがそういう言い方をしたってことは、三つ子じゃないってことだろうが!!」
「それもそうだな。ちなみにもっと言うなら父親はシンクじゃない」
「なお悪いわ!!てめぇふざけんのも大概に…っ!」
「公爵だ」
「……はっ?」
「私はキムラスカ王家の為に公爵との子を宿して生んだ、とそう言ってるんだよ、アッシュ」


しん…っ、と。
一気に凍り付いた空気に、これにはアッシュも血の気が引き誰も何も言える筈がなかった。
ぽんぽん、とルティシアが腹を撫でる。
そしてその視線は、真っ直ぐに公爵へと、向けられていた。


「本当はアクゼリュスへ行く前にルークに子を作らせておく予定だったのだが、十の歳に髭に誘拐されたからな。幽閉されていた私がキムラスカ王家の血を絶やさぬよう、その役目を担った。1人目は公爵、2人目は陛下、3人目はまた公爵だったか…ま、みんな流してしまったか目を開けてくれなかったで、意味は成さなかったがな」
「…そん、な……」
「なに情けない顔をしている、アッシュ。別に誰も恨んじゃいないさ。私の存在は機密事項だったから、相手も限られた。それだけの話だ」
「…………っ」
「向こうの世界で私が初めて外に出た理由は、髭を殺さんと邸に襲撃したティアとの間で擬似超振動を起こしたからでな。訪れたエンゲーブで初めてブウサギを見た。エンゲーブの民の話を聞き、その時知った。ああ、私は家畜同然だったのか、と」


淡々と話すルティシアの言葉に、この話が一体何に繋がるのか察することが出来なければ、きっとジェイドも同情するだけで済んだ話だった。
アクゼリュスで死ぬ聖なる焔の光。
失われる王家の血。
子が必要なのは、何もルティシアの世界だけの話では、なかっただろうに。



「単刀直入に言おう、公爵。あなたはこの世界の『ルーク』に、種馬として雌でも宛て交わなかったか?」
「−−−っ貴様!!父上になんて…」
「よい!庇わずともよいのだ!ルーク!!」
「……父上…?」


呆然としたアッシュをルークと呼び、顔を手で隠すようにした公爵に、ルティシアは鼻で笑ってやろうと思ったのだが、それよりも良い笑顔でいた夫人の笑みが強烈過ぎてやめた。
真っ青な顔をしているのは何も公爵だけの話ではないが、周りを見る余裕の無い彼では、この話がどこへ繋がるかも、把握出来てはいまい。


「……何故、このような話をしようと思った?」


情けないとしか思えない声でそう聞いた公爵に、ルティシアは呆れたように見ることを隠さず、部屋に居合わせたメイドと騎士を見回してから、声色1つ変えずに、答えた。


「あなたが『レプリカルーク』に対する使用人達の態度を、改めていないようだったから、かな」


ニヤリと笑って言ったその言葉に、どういうことだと訝しげに見たのは、アッシュとガイの2人だけだった。
ルティシアは笑みを絶やさない。侮蔑だと、隠そうとも、しない。


「まあ想像でしか無いんだけどな。最初は男だった『ルーク』が女になったと思って余所余所しいのだと思っていたが…大方邸に居たルークが『レプリカ』だと言うことに何の説明もないまま受け入れるだけ受け入れる素振りを見せて、馬鹿馬鹿しい認識だけがされたんだろう。人間擬きの模造品とでも思ったのか?アホらしい。仮にも公爵子息として受け入れたのなら使用人の態度ぐらい改めさせれば良いものの…視線1つで知れたぞ。ああ、あちらの世界のルーク様は人間だなんて、そっちの方が良かったってなぁ!」
「…………っ!」
「だから、思った。公爵は私の知る公爵と変わらないのでは、と。ああ、もっと質が悪いな。こちらの『ルーク』は7歳の子どもと変わらないと言うことだろう?一切の知識も無く、また与えることもせず、本当の家畜だったと言うことか」
「そんなことは…っ!!」
「なら、何もさせてなかったのか?跡取り必要なのに?それともあんたが他に子どもでも作ったか?」


最後の最後は半分冗談だったのだが、明らかにピシッと固まった公爵に、これにはルティシアもきょとんと目を丸くしジェイドも意外そうに見た。が、夫人の顔から笑みは消えていた。
メイドや白光騎士団の人間は指摘されたことに顔面蒼白であるが、公爵に至っては…なるほど、そういうことらしい。



「……あれ?もしかしてこっちでもセシル少将となのか?」



それは決して口に出してはいけないことで、素敵な笑顔を浮かべた夫人に連れて行かれた公爵は、それから三時間経っても戻って来ることはなかった。





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