とりあえず真っ白に燃え尽きたらしいアッシュを公爵夫人はメイドに着替えさせ、戻ってもう一度今度は全員が椅子に座って顔を合わせたのだが、聞けば聞くほど法螺話だと否定も出来ず、公爵の顔色が土気色になってしまいました。


「つまりあなたは、ある事情があってローレライと共に音譜帯に居たところ、後にローレライの力とそちらの世界のルークの働きによって地上に戻れるようになったと言うのに、いざ実行したらローレライのせいで手違いを起こしこちらのルークと入れ替わってしまった、と」
「まあそういうことだな。今回のことは私も驚いているんだよ?家に帰れると聞いたら全く違う世界。ぬか喜びも大概にしろあの有害電波め、と何度罵ったことか」
「それはそれは…お気の毒ですとしか私からは言えませんが」
「元はと言えばこちらに非があるからな。その言葉だけで十分有り難いよ。私としても一刻も早く元の世界に帰りたいところだからな。貴殿らの知る『ルーク』と入れ替われるよう、有害電波と掛け合ってみよう」


すらすらすら、と話をするルーク…否、ルティシアの言葉に、とりあえず容量オーバーを引き起こしてついて行けていない人物が2名程居たのだが、ジェイドはお構いなしで話を進めることにした。
異世界、平行世界、パラレルワールド。
そのどれを当てはめて良いのかいまいち微妙なところではあるが、自分達の知る『ルーク』とこの女性が入れ替わっていることは確かなので、とにかく話を聞くに限る。
撃沈寸前のアッシュは目の前に居る『ルーク』が別世界での自分の双子の姉と言う事実に頭がパンクしたらしく、妙に大人しかったが何とも言えなかった。
大前提として全員が全員冷静じゃないよ、と言うのががっつり関わっているからで。


「ルティシアはそちらでアッシュのお姉さんだと言うことですが、何故家名は無いんですの?貴女もファブレ家の一員なのでしょう?」


いろいろぐちゃぐちゃになっていたりするのだが、どうにかそうやって聞いたナタリアに、ルティシアはゆったりと足を組んだまま丁寧に答えた。


「気分の良い話ではないが、それでも構わないだろうか?ナタリア殿下」
「…構いませんわ」
「ではお答えしよう。私は元々預言に詠まれていない存在なんだ」
「預言に詠まれていない…?」
「そう、キムラスカに男女の双子が生まれると預言に詠まれてはいなくてな。これはこちらの話だが、早い話私は生まれたこと自体をなかったことにされていてね。地下の座敷牢に監禁されていた。母はこのことは知らない。陛下と公爵の命だ」


グサッ!と。
凄まじい勢いで公爵の心に何か突き刺さったような気がナタリア以外の面々はしていたが、言っている当人はお構いなしだった。
夫人の笑顔が怖いです。
壮絶な夫婦喧嘩をこちらの2人にさせてどうするつもりなのだろうか。


「それにしてもよく分からないな…こちらの世界で愚弟はルークではなくアッシュと名乗っているのだろう?ま、私の世界でも途中まではそうだったし、私自身が『ルーク』と名乗ってはいたのだが…」
「どうしました?ルティシア」
「こちらの世界での私の立ち位置が分からん。有害電波が言うには『ルーク』同士を間違えて入れ替えてしまった、と喧しく訴えているのだからこちらの『ルーク』もそこのアホの姉か?それにしては、貴殿らの動揺は見ていられないほどだが」


言ったルティシアの言葉に、嫌な沈黙が流れたのだが、誰もがどう答えて良いのか分からず、視線はジェイドに集中した。
正直に言うならば冷静でいられる人間など誰も居合わせていないし、あまり上手く状況判断も出来ちゃいないのだが(事態の把握も済んでいないし)、本来一番説明し易いポジションは頭パンクしているアッシュだから、まあ無理な話か。


「こちらの世界の『ルーク』はそちらに居るアッシュのレプリカなんですよ」


この言葉は意外だったのか、ルティシアは一度だけきょとんと目を丸くしたが、すぐにああ、と納得したように呟いた。
思っている以上に賢く聡い女性だと言う印象は、どうやら正しいものであったらしい。


「なるほど、そこの愚弟のレプリカと言うことは性別からして私とは違うから、貴殿らはそんなに動揺しているのだな?面白い…それにしてもレプリカとは意外だったな」
「意外とは?」
「ああ、こちらの世界には第七音素が少なくてな。存在しているレプリカはイオンとシンクしか居ないのだよ。レプリカルークは愚弟がダアトへ浚われた時点では生まれることが出来なかったのさ」
「……まさか」
「察しが良いな、死霊使い。私が『ルーク』として名乗っていたのはこちらで言うレプリカルークの役目を私が担っていたからさ。それにしても馬鹿な弟の思考回路には辟易したがな。確かに私は女性らしくない。だが喉元隠しておもちゃみたいな変声器着けて、サラシで胸押さえつけていて何故それで自分のレプリカだと勘違い出来る?アクゼリュスが落ちるまで私の性別すら気付かなかったんだぞ?髭と言いあの馬鹿メロンと言いダアトの人間の目は節穴かっつーの!」


ガンッ!と机をぶん殴ったルティシアの言葉に、これには流石に愚弟呼ばわりされて苛立っていたアッシュも何も言えなくなっていた。
女性らしくないとルティシアは言ったが、サラシの有無を除いたところでどこをどう見ても女性にしか見えない彼女に対し、とんだ無礼を働いたとちょっとどころか結構がっつり頭が痛くなる。
とりあえず話を整理すると、ルティシアと名乗る彼女は異世界の人間で、レプリカルークが異世界では己の姉であるらしい、と認識した瞬間どこぞの馬鹿電波が『うん、そーだよ!』と脳天気なことをほざいたような気がして、うっかり机に撃沈しかけた。
ちなみにアッシュに限った電波ではなかったらしく、聞こえていたらしいルティシアの顔が引き攣っていた。



「ルーク!無事ですか?!」
「ルーク!!」


嫌な沈黙が再び流れた中、そんな空気を払拭するかのように遅れてダアト組みが…………結構不味いタイミングで到着したのだが、周りの予想に反して、ルティシアは先ほどまでとは全く違うように、穏やかに笑んでいた。
駆けつけて来たらしいイオンに笑んで、ティアとアニスを軽く無視したことに何とも言えない空気となるのだが、わざわざもう一度説明する気はないらしく、ちょいちょい、とイオンを手招きして呼ぶ姿を、止める人間は残念ながら居合わせていなかった。


「貴女は、一体……?」


流石に目の前に居る女性がルークでないのはどれだけ混乱していても分かるのか、そう言ったイオンの言葉にルティシアは穏やかに笑って言った。


「はじめまして、導師イオン。私は別世界から来たルークの双子の姉、ルティシアと言います」



……後になって、冷静に考えれるだけの余裕を持てた時に振り返ってみて、改めて考えた時に彼女が頑なに『ルークの双子の姉』だと言うことに、そこに至るまでどれだけ時間が掛かったのだろう、と思ったら当て付けとは口が裂けても言えない言葉だった。
導師イオンの手を取って、そっと己の腹へと当てる。
その仕草に早く気付いておくべきだとジェイドは今更思った。
公爵夫人は気付いていたのかもしれない。
穏やかに見守るその瞳は、あたたかさしか、宿していないのだから。



「こっちの世界の叔父さんですよー、シアン」



本日何度目かの絶叫に、とりあえず何人かが卒倒したが、ルティシアはお構いなしだった。





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