『偽物』のルーク様を見る目が嫌だった。
嫌だと思ったけれど誰にも何も言えなくて、そうして居場所なんてないんだって改めて突きつけられた気がした。
焦がれるものがたくさん出来た。
言えないものばかりが増えた。
ひとりぼっちなんだって気付いたら、一歩も動けなくなっていた。

ここに居てごめんなさいって。
ねえ、誰に言えばよかったのかなぁ…?




・アルカディアの逃避行・





パチッと。
そんな唐突な目覚めを喰らって、なんだか頗るこれってちょっと理不尽なんじゃねーの?と欠伸をしながらそんなことを思ったのだが、見えた部屋の天井にとりあえず思考回路が停止していた。
あー…はい、うん。
見慣れたっちゃあ見慣れた…わけないな。数回ぐらいしか見たことのない、見覚えがあると言えばある部屋に、しかしながら帰って来た覚えは全く無くて、ひとまずベッドから起き上がってみることにする。
きょろきょろと周りを見て、誰も居なさそうな雰囲気に、とりあえず母屋の方にでも行くか、と結論は出たのだが、ズボンを穿いていた筈なのにスカートに変わっていて、腹が立ったので部屋に放ってあるの適当に着たらウエストが若干キツかった。
嫌がらせかあの有害電波め。




「ああ、ちょうど良かった。悪いんだけどこれ…」
「ル、ルークさま…?」
「? 何か?」



部屋を出たらちょうどメイドが居たから声を掛けたのだけど、まさかそんな愕然と目を見張られるとは思っていなくてついつい首を傾げてしまった。
あ、やべ。
しまった、ドレスじゃないと煩かったっけこの家。
如何せん久しぶりに来たもんだからすっかり忘れてたんだけど、半袖半ズボンじゃないだけまだマシだと思うんだけどなぁ。




「だっ、誰か来てぇーっ!!」



呑気なこと考えていたらまさかそう叫ばれるとは、思ってもいなかった。
メイドの声は高いから頭くらくらする。至近距離だってちょっとは考えろよ。
…そういう問題じゃ、ないか。





* * *






それは外郭大地降下が無事成功して、半月ばかり経った時のことだった。
降下作戦に携わっていた人間も各自、自分の帰る場所へと帰った後、特に何もなく平和に過ごしていたと言うのに、各国上層部へ回った連絡には全員が全員目を見張り、すっ飛んでファブレ邸へ向かったのだが、それにしても俄には信じられないことだろう。
外郭大地降下後、ファブレ家へ戻ったレプリカルークが、自室で引き籠もりがちであったのは邸の人間以外には知らないことであったが、あのマルクト嫌い代表のような公爵ですら、国王のものとは別に自ら文書を書き上げ、血相を変えてセシル少将へ託すほどだった。

白光騎士団の門番は後に言う。
あそこまでファブレが蜂の巣でもつついたかのようになったのは、初めてだった、と。
そして同僚に、疎外感半端なかったとも零した。仕事だから仕方ないです。




「ナタリア!ルークが女性になったって本当なのか?!」



バンッ!!と勢いよく扉こそ開けはしなかったものの、血相を変えて駆け付けて来た仲間達の姿に、ファブレ邸に先に駆け付けていたナタリアは言われた言葉を頭の中で反復して、静かに頷くしかなかった。
聞くだけ聞いたガイが凍り付く。その隣に居たジェイドは何か考え込むようにメガネをいじっていたのだが、卒倒せんばかりの出来事の連続に、静かに佇んでいた執事のラムダスの顔色はかなり悪かった。
まさかとは思っていたが、どうやらドッキリの類ではないらしい。



「わ、私もつい先程ここへ駆け付けたばかりでして…ルークはこの先の応接室に居るとのことですわ。ただ…」
「ただ?!」
「何も仰って下さらないようなのです。ずっと黙って…ああ、一体なぜルークが…っ!」



誰一人として事情を把握出来ていないから仕方のないことなのだが、とにかく大半の人間が落ち着いて考えることが出来ておらず、嘆くナタリアに「とにかくルークと会いましょう」とジェイドが言った。
ルークはレプリカだ。
何か異常があっての事態ならば早々に検査が必要だからと、言ったその場にもし被験者が居れば…とそんな思考も過ぎったのだが、あの猪突猛進っぷりならばそのうち来るかと気にしないことにする。



「ルーク!」



遠慮容赦なく扉を開けて中へ入ったナタリアに、若干礼儀云々がジェイドの頭に過ぎったが、まあ幼馴染みが今日からいきなり女になりました、と言う事実に冷静でいられる筈もなく、また周りも常識云々考えれるほど余裕のある人間もいなかったので、気にせず中へ入ってみて、そして足を止めるしかなかった。

あまりの驚きに、呆然と立ち尽くした、と言ってもいい。
今頃ダアトから慌ててアニスとイオンと共にノエルの操縦するアルビオールで向かっているティアが見たら卒倒するな、ともジェイドは思った。
毛先に従って金へと変わる、グラデーションの掛かった朱金の髪に、豊満な、とは言えないものの確かにある胸。
腕を組み、足を組み、ふてぶてしいとも言えるような…と言うかかなり機嫌悪そうに座っているその姿は…出会ったばかりのルークを女性にしたような、まさにその姿であって。



「ル、ルーク…?」



恐々と名を呼んだガイに、しかしルークは口を開くことなく、頬杖をついて側に居たメイドに髪を結わせているままだった。
やり難そうにしているメイドがいっそ哀れでもあるが、どうやら公爵夫妻とも一切口を利いていないらしく、公爵に至っては凄まじく顔をしかめている。
と言うよりも部屋の雰囲気が易々と話しかけんじゃねぇ、と言われずとも分かる部分もあって、これはどうしたものかとジェイドも途方に暮れそうになったのだが、ここはとりあえず慌ただしく近付いて来る短気な被験者に任せようとしたのだ、が。



「スプラッシュ」



えぇ?!と思った時には駆け付けて来たアッシュの足元に譜陣が広がり、慌てて避けた面々は無事として、喰らった当人は頭から凄まじい勢いで水をかぶる羽目になっていた。
濡れ鼠アッシュ。
それでも呆然としている公爵夫妻よりは我に返るのが早かったようで、お構い無しにルークに詰め寄るその短気さは、一体どちらの血を引いたのだろうとジェイドは現実逃避をすることにした。



「てめぇっ…この屑が!いきなり何しやがっ!」



胸ぐらにアッシュが掴み掛かろうとしたその瞬間、一体どこから取り出したのか指揮棒で容赦なくルークはアッシュをど突いていた。
ぽかーん、と間抜け面を晒しているのはジェイド以外ほとんどだったりするのだが、ここで周りの空気を読んで冷静さを取り戻せれるほど、アッシュは人間が出来ていないわけで。



「ウィンドカッター」



呟くように術名を言うだけで発動することに誰か突っ込めよ、とジェイドが思ったかどうかはさておき。
風の刃を諸に喰らったアッシュの神託の盾の法衣はバラッバラに裂けた。
調節が鬼だと思うのだが、丸裸でないだけマシかと思う反面、さて、彼女は一体誰なんでしょうねぇ、と軽口叩く余裕がジェイドになければナタリアだって誰にだってなかった。



「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが…お前は一体いつまで神託の盾の一員で居るつもりなんだ?この愚弟が。見苦しいし何より鬱陶しい。さっさと邸に戻って帝王学を1からやり直しなさいな?愚かなルーク」



鼻で笑って告げた女性の言葉に、今の今まで短気さ爆発させていたあのアッシュですら、凍り付いていた。
足を組み替えて女性は笑う。
目が全く笑っていないのは、誰の気のせいでもないです。




「さて、大体の面子も揃ったことだし、そろそろ説明でもしようか?ま、と言っても今回のことはこちらの責任がほとんどだから、きっちりその辺のことは有害電波に任せることしか出来ないがな。とりあえず自己紹介でもしようか?そちらが聞きたいことは、可能な限り答えるつもりだが。死霊使い、どうする?」



ここで濡れ鼠且つ神託の盾の法衣ズタズタなアッシュ放置でジェイドに話を振る辺り、この女性の性格の悪さが伺えたが、周りは一様に呆然としているばかりだったので自然な流れと言えば自然な流れではあった。
溜め息を吐きたいのをぐっと堪える。
こういう時ばかりは、表面上は取り繕える自分自身にがっかりだ。



「では、簡単な自己紹介をお願いしてもよろしいですか?」



にっこり笑んで言えたジェイドに、女性はにっこりと言うよりもニヤリと笑って、答えてみせた。




「私の名はルティシア。ある事情があって現在は家名は無いが、ルーク・フォン・ファブレの双子の姉だ。ローレライの手違いでこちらのルークと入れ替わってしまったからこの世界では当てはまらないけどな。苦情は全て、有害電波の方へどうぞ」




どうぞじゃねーよとツッコミが入る前に、とりあえず絶叫が響き渡ったが、仕様がなかった。





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…やってまいました。
シンルク子の話です。
ひたすらシンクに夢見ることにします。
女体化、妊娠話、その他諸々捏造多発が許せないor苦手な方はご注意下さいませ…!


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