たとえ残された時間が短いものだったとしても、私は私を貫いていたかった。
姿形にしてもそう。


私は、私でしかないのだ。

私で、在りたかったんだ。








「……なに泣いてんのさ、ニコル」
「泣いてなんか、いないよっ!シンクのバカぁ!」


言ってる癖に、ぼろぼろ涙をこぼして必死に拭ったりなんかしているのだから、シンクは溜め息を吐きたくなったのをぐっと堪えて、とりあえずどうしたものかと蹲る朱色をぼんやりと眺めた。
第七音素を上手く扱えないから体と心がいつまで経ってもちぐはぐなニコルは、だからこそあのルークと同じ姿なのだけれど、拙い言葉遣いと態度がよりいっそう幼い印象を与える。
アリエッタのお友達だと言うライガが不安そうに寄り添い、そしてチーグルの仔が必死になってその涙を拭っていたが、ぼろぼろこぼれる涙は止まることを知らないようだった。
ぼろぼろと言うよりはむしろぼったぼったと幼子が見た目なんか気にも出来ず鼻水まで垂らして泣いている、と言ったところだろうか。
汚いから拭けとティッシュを渡し、その辺にあったタオルで無理やり顔を拭いてやったら喚かれたが、そんなことは無視をした。
人の部屋に勝手に入って勝手に泣いていた、ニコルが悪い。



「それで、なに?またルティにでもいじめられたわけ?泣きつくならレティにしてよ。どうしたらいいかなんて、僕は分からないんだから」


呆れたようにそう言えば、すぐに喚くなり何なりして否定するとばかり思っていたのだが、シンクの予想に反してニコルは押し黙ったまま、ただひたすら泣きじゃくるばかりだった。
流石にこれにはシンクも驚いて下手な言葉も言えず、どうしたものかと途方に暮れるのだが、やがて消え入りそうな細く小さなニコルの声に、言葉に、何も考えられなかった。


「…レティ、もういない」
「…………は?」
「もう、出て来れない…いないの、あの部屋にも、レティもういないんだよ…!」
「ちょっと、待ってよニコル。どういうこ…」
「レティもういない!もう起きないんだよバカぁっ!」


叫ぶなり、うえぇぇぇぇん!と赤子みたいに更に泣き出したニコルに、シンクは本気でまたどうしたらいいのか、どうするべきなのか、何を考えればいいのか全て、全部が全部わけがわからなくなってしまった。
指先が震える。
らしくないなと思いはしてもどうしても震えは止まらなくて…こういう場面に居合わせると、改めて思う。

どうして、僕らばかりが、こんな目に合わなくちゃいけないんだろう、なんて。




「……寝てるだけ、とかじゃないんだよね?」
「……うん。起きてる時間が、もう無くなっちゃうから、レティ起きない」
「起きてる時間?」
「ルークが寝てるから、みんな外に出られるの。だけど、さいしょから時間決まってたから…ルティもそのうちいなくなっちゃうって…っ、分かってたけど、分かってたけど…うぅ…」
「あー、もう泣くのだけは止めてってば!それで、分かってたってどういうことなのさ」


どうにか頭を撫でつつ、シンクはニコルにそう聞いた。
正直いろいろなことが分かっていないが、今は考えることは出来なくても情報を得ようとだけは思って…まさか聞かなきゃ良かったと後悔するとは、この時は思ってもいなかった。



「時間がないの。さいしょからそういう約束なんだよ」
「……は?」
「みんな外に出られないまま消える筈だったから…ルークが貸してくれるのがさいごのチャンスだった。第七音素?の量はみんないっしょだったから、なくなったら、そこで終わりなの」



もうすぐみんな消えて、ルークが目を覚ますんだ。



そう言ったニコルの言葉に、シンクは何も返せる筈がなかった。

120107
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自意識過剰な僕らの窓・10



ほとんど進展はないですが、ちょこっと入れて起きたい話でした。10話も続いてることに今更びっくりです。




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