鬱陶しいからさっさと消えろ、とまではその少女も言わなかったが、武器を構えた面々に対し「ここにパッセージリングがあるのは見えますよね?」と暗にてめぇら大地支えてる柱の前で戦闘する程アホなわけじゃねぇよな、ぁあ?と示すその言葉に、まさかそのまま武器を構え続けていられるような人間は、流石に居なかった。
この見た目だけ導師守護役、会話の中では言葉遣いこそ丁寧だが、超腹黒い。

戸惑うばかりの一行を横目に、少女はアリエッタのライガの背に乗り、二人揃って出口へ進んで行った。
慌てて追いかけようとする一行に、一度だけ立ち止まり「体の弱い導師を走らせようとしているのは、私の目の錯覚ですよね?」ときちんとアニスにトドメを刺す辺り、容赦ないのが伺えて、被験者である筈のアッシュの顔色はとことん優れない。むしろ未だに意識を飛ばしかけていて、心ここに在らず。
見かねたアニスがトクナガの上にイオンを乗せ、アッシュを小脇に挟んで駆け出していた(ライフボトルがまた必要だな、これは)。
セフィロトから出て、シュレーの丘から少し外れ、魔界に落ちた為に淀んだ障気の空の下。
拓けた本来だったら見晴らしの良い平野の真ん中で、少女はライガから降り、いつの間にかこちらの人数に合わせてアリエッタにライガとフレスベルグを呼ばせたらしく、対峙するように並んでいた。
冷ややか視線。
侮蔑すらも込めているその瞳に、最初に反応したのは、ティアだった。


「ちょっと!あなた達、これは一体どういうことなの?!」


武器を構えて、訴えたティアの言葉に、レティは鼻で笑って、ミュウの耳を力の限り引っ張っていた。
これは相当怒っていることに流石にジェイドとガイ、そしてアニスは気付いたのだが、わかっていない後2名に向ける少女の視線はどこまでも冷たく、ブリザードでも吹き荒れているのではないかと思うぐらい…正直言うなら、本気で怖かった。


「黙りなさいな、ダアトの面汚し。貴女はいつまでそうして偉そうな顔をしているのです?犯罪者である自覚を持ち、身の程を弁えなければ品性の無さを振り撒くだけですよ」
「な…っ!わ、私は犯罪者なんかじゃないわ!馬鹿なことを言わないで!!」
「キムラスカの公爵家にダアトの軍服を着用した上で譜歌を使い侵入。居合わせた公爵子息を誘拐し不敬の連続。これのどこが犯罪者じゃないのです。ああ、それとも他人の家で刃物を振り回しても、あなた達被験者の方々では犯罪ではないのですか?それは知りませんでした。とても素晴らしい常識ですね。私はレプリカですから学んでいませんでした。申し訳ありません」


わざわざ頭まで下げて言ったレティの言葉に、これには言われたティアだけでなく全員が全員、凍り付いたように身動ぎ一つ出来なかった。
今の今までうやむやになってはいたが、改めて考えれば…本来だったなら改めて考える前に気付かなければならないことだったのだが、ティアの行った行為はとてもじゃないが犯罪ではありませんと言えるようなことではなく、イオンの顔色はとてつもなく悪い。
ほとんど失神しているようなものだったアッシュでさえ、気が付いた瞬間聞いてしまった事実に呆然としていた。
もしも、の可能性が被験者にはあるから、同然の反応だったのかも、しれないけれど。


「それで、被験者様方は一体何の用です?ツッコミ所が多過ぎて私では手が負えないのですが…ま、これ以上は必要のない断罪をする気は今のところないので、私を罵りたいのであればどうぞご自分のことは棚に上げて言って下さい。午後からお茶会の予定なので、間に合えばどうでもいいです」


心底相手にするのも面倒臭いとばかりに言ったレティの言葉に、ナタリアがまず癇癪を起こしたように喚こうとしたのだが、その言葉をジェイドが止め、ゆっくりと近付くべく、一歩、前へと踏み出した。
アリエッタの顔が不快そうに歪む。
気持ちはわかるけれど落ち着いて下さい、とレティが視線だけ一度送れば、渋々アリエッタも押し黙ってくれたから、感謝するのと同時に、胸の内で誰かの声が聞こえたけれど、気付かなかったことにして、それで。


「では、一つ聞いても宜しいですか?レティ」


今更な事実だったが、死霊使いに名を呼ばれると相当腹が立つな、とレティは思ったが、それを口には出さなかった。
嫌々視線を向けてやる。
頗る嫌そうな表情をしたレティに露骨にどこぞの似非軍人が喚き立てようとしたが、相手にしなかった。



「あなたのその姿は、一体どういうことなんです?」



体が無いと知ってるだろうに、それを聞くかバカヤロー。




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自意識過剰な僕らの窓・6


話がもう段々と小難しくて破裂しそうです。私の頭が。


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