生まれた時の記憶は、ありますか?









「−−−正直言って、あんなにもすんなりとルークの側を離れてもらえるとは思っていなかったんですよ?」
「なら、困るぐらい癇癪起こしてやろうか?お望みなら今からでもやってやるっつーの」
「ふふ、今そんなことしたらイオンが大慌てで駆け寄って来てアリエッタ達の制止振り切ってルークが飛び出して来ますよ。そんなことになったらイオンはまず卒倒するでしょうね」
「……イオンって、俺の着替え手伝ってくれた、お前と同じ顔した奴だろ?」
「ええ」
「俺と同じ、レプリカの」
「はい。そして僕の兄弟です」


廊下を歩きながらするには、何だか少し違和感だらけの組み合わせの会話だったが、シオンの少し後ろをキープしたまま、ルカは口を開くことを止めなかった。
レプリカと言う単語をわざわざ言ってやったと言うのに、欠片も動揺しないシオンについつい、眉間に皺を寄せつつも、ルカは不満は、口にしない。
刷り込みをされているとは言え、中途半端な知識しかないルカにとっては、知らないこともわからないことも多過ぎたのだ。
疑問のままにしておくわけには、いかない。
嫌な予感が、ずっとしてるから。



「でも、あんたは被験者なんだろ?レプリカを兄弟って、本気で言ってるのか?」


責めるような聞き方ではなく、純粋に疑問に思ったから、単に聞いただけのことだった。
にっこり微笑んだシオンが、視線を合わせるべく振り返る。
それはルークに向けていたものと、よく似た、笑顔。


「ルカ、あなたは双子と言うものをご存知ですか?」
「…………は?」
「同じ母体から一度の出産で生まれた二人の子ども。双生児、とも言いますが」
「そ、それぐらいなら知ってるっつーの!顔とかそっくりな奴らのこと……あ、」


ムキになって言ってから、そこで気が付いた。
同じ顔をしたもう一人の自分そっくりな、別の人間。
別の人格を持った、存在。


「レプリカは確かに特殊な生まれ方をします。母体を介していなくても、被験者の存在を元にして生まれ、こうして共に生きている。でも年数が違いますからね。双子と言うよりは兄弟でしょう。第一、被験者とレプリカなんてそんな線引き、僕は大嫌いなので」
「…………なら、あいつは?」
「?」
「ルークは、何なんだ?」


聞けば、その瞬間らしくなくシオンが驚いたように大きく目を見張って、足を止めた。
窓から差し込む陽の光に、その緑色の髪が照らされる。
咄嗟に何の言葉も浮かばなかったシオンに、けれどルカは言葉を放つことを、止めなかった。
聞かなくちゃ、いけない。



「シオンが言う通りなら、俺とアッシュは兄弟なんだろ?あいつがどう思うかは知らないけど、そう言える筈だ。でもルークは?あいつは何なんだ?兄弟って呼べるのか?俺は、違うと思う。なあ、シオン。あいつは本当に、『ルーク』なのか?」


思いもよらず聞かれたことに、シオンはこの時ばかりは本当に、柄でもないけれど泣きたくもなって仕方なかった。
元がアッシュとは思えませんよ、とそんな仕様もないことが浮かぶが、言えない。
気付いたルカに、シオンはどうにか笑顔を無理やり貼り付けて見据えようとしたけれど、少し上手くいかなかった。

(みんな貴方みたいに気付いてくれたのなら、本当は、それで。)




「…………お答えしたいですけれど、一体誰がどこで聞き耳立てているかわからないので、頼み事が一段落付きましたら、必ずお答えします」
「頼み事?」
「ええ、ちょっと面倒なんですけどね。報酬が良いんで引き受けたんですよ。ああ、ルカ。あなたにも是非協力して頂きたいのですが、よろしいですか?」


明確な答えをもらえはしなかったけれど、後で必ず教えてもらえるとのことは嘘ではないように感じたから、ルカももうそれ以上は問い詰めなかった。
変わりに提示されたことに、おや?と首を傾げてみる。
「協力って何の?」と聞けば、調子を取り戻したのか、それはそれは綺麗な笑顔を浮かべて、シオンは答えた。



「預言盲信馬鹿王国をぶっ潰す為の、ですよ」



あそこは国民性も嫌いなんですよねー。自分の考えを持てない国など、さっさと滅べばいいのに。

いい笑顔を浮かべてそう言ったシオンに「ならあんたがそこに新しい国を建てたらいいんじゃねーの?」と言えば、愉快そうに笑っていた。
……冗談のつもりだったんだけど、本当に出来そうな気がするのは、気のせいだと信じたい。


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