しがみついてさんざん泣きじゃくったあと、そのまま眠ってしまったルカを隣に寝かせ、その長い朱色の髪を優しくルークは撫でていた。
服の端を離すまいとギュッと握って眠る姿はあどけなく、今までずっと寂しい思いを、辛かったりしたんだろう、と思えば思うだけ「なぜ」だの「どうして」だの言葉は浮かぶが、それ以上はあえて、考えない。
広々としたベッドの足元の方に何でかフローリアンまで丸まって眠っていたが、モースの金で購入したらしいベッドは3人乗ってもまだまだ余裕だった。
食べ終えたシャーベットの器を片付けに行ったアリエッタが戻って来た時に一緒になって寝そうだが、とりあえず今は、ようやく戻って来た、黒い毛並みをした存在へ、と。


「シオンに会いに行かなくて大丈夫なのか?レイラ。めちゃくちゃ怒ってたけど」
『…………くぅん』
「俺に犬の真似されても。謝り難いなら着いて行こうか?一緒にごめんなさいするから」
『…………わん』


何だか第七音素意識集合体だのローレライだの一応敬われる存在である筈なのに、威厳も何もあったもんじゃない情けない姿だった。
神をも怖がらせるシオンにツッコミ所は山程あるが、日々犬そのものとしての振る舞いが板に付いてどーすんだ、とレイラ自身にもツッコミ所が山程ある。
そして完全にルークの態度が小さな子どもを相手にする面倒見のいいお兄ちゃんのような…と過ぎった思考には全力でレイラもなかったことにし、改めてベッドに居るルークと向き合った。とは言ってもベッドに上がるつもりはないから、ルークを見上げる形になるのだけれど。


「それにしても今までなにやってたんだ?レイラ」


ルカの髪を撫でつつルークが聞けば、レイラは少しだけ考えたようだけれど、すぐに答えた。


『ルカの音素を少し安定させていた。少々見過ごすには不安定だったからな…音素振動数をこの子に合わせていた為に、時間が掛かってしまったのだ』
「音素振動数?普通に第七音素を供給するだけじゃダメなのか?俺だと、そんなことしないだろ?」
『リアンと我は音素振動数が等しいからな。それは勿論アッシュもそうだが、我ら3人は完全同位体とも言える。だが、ルカは『ルーク』のレプリカとは言え振動数が違うのだ。超振動も使えぬだろう』
「…だからあんな目に、か…」


『聖なる焔の光』の代わりとしてならば絶対に超振動の力が扱えないと意味がないから、だからあんな言われようだったのかと察してしまった分、ルークは思わず苦々しく顔をしかめてしまった。
理不尽だと、そう思う。
いくら見た目が同じだからと言って、レプリカと被験者は別々の人間だ。

許せないことだと思う。
かけがえのない、命だと言うのに。


ルカの扱いに対してそう言った思考が働くことが出来るルークに、レイラがどう思ったか、知らないまま。



『だが、ルカが我らと、レプリカ情報を抜かれたアッシュと完全同位体でなかったのは幸いだった』
「なんで?」
『ルカがアッシュと完全同位体だった場合、二人の間に、大爆発と言う現象が起こる可能性が生まれるからだ』
「大爆発…?」
『ああ、完全同位体の被験者とレプリカの間に起こる特殊なコンタミネーション現象のことだ。被験者の音素が一度乖離され、レプリカの体で蘇る。レプリカは記憶のみを残して消え、その体で被験者が生きる。そういう現象だ』
「!」


あっさりと言われるにしては、あんまりな事実に、ルークは思わずルカの頭を撫でる手を止めてしまい、服を掴まれていることを忘れて、咄嗟にレイラの側へ寄ろうとしてしまった。
くいっと引かれるその感覚にハッと気付いて、そこから、動けない。
震える唇を、一度ギュッと噛んで耐えた。
他にどうすることも、出来なかったから。



「…ルカは、違うんだよ、な?」


恐る恐る聞いたその言葉に、しっかりとレイラが頷いたのがわかったから、ルークは少しだけ息を吐いたけれど、それと同時にもう一つ、疑問が出来た。
そんなことを言ったら、だって彼らも。


「……シオン達、は?」


震える声で、けれど目を逸らすことはせず、ルークは確かに、そう聞いた。
こんな自分の側に居てくれる、大切な彼らのことを。
被験者とレプリカと言う関係でそんな風に失うなんて、絶対に、耐えられなくて。


『あの者達も問題はない。少々フローリアンがシオンと近くはあったが、我の力が及ぶ範囲であったので振動数は調整しておいた。大丈夫だ』
「ほんと?」
『ああ、本当だ』
「そっか…良かった…」


今度こそ安心してほっと息を吐いたルークを前に、レイラはと言うかシオンと同じ音素振動数になれる存在なんて一生出ないだろ、と密かにそう思っていた。レプリカがどうのと言う問題じゃなく、何だか呪いでも掛かりそうな気が…若干しないでもない。
神と称される自分の想像を遥かに超えたことをやってのける、それがシオンだった。


『それに、シオンは…』


呟くように言ったレイラの言葉に、ルークは「シオンがどうかしたのか?」と聞こうとしたのだが、ちょうどその時にコンコン、とノックが響いたから、待たせるのも悪い気がしてレイラに軽く頭を下げたあと「どうぞ」と声を掛けた。
今この邸にはシオン達だけでなくジェイドやガイ、そして…アッシュも居るから、誰がその扉の前に居るか判断が出来ないが、即行でレイラが逃げなかった辺り、シオンかシンクではないのだろう。
ゆっくりと扉が開けられるのをぼんやりと眺めながらそんなことをルークは考えていたのだが、どこか恐る恐る入って来たその少女の姿に、一度だけきょとんと目を丸くしたあと、すぐにほわり、微笑んだ。





「−−−アニス」




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