「さて、あの愛くるしいルカはルークに任せるとして、あなた達どうしてこんなところに居るんです?僕はさっさと戦争を止めて御覧なさいと言った筈ですが。オカメインコと愉快な仲間達さん?」


寝室から場所を移り、一階にある客間のソファに座って言ったシオンの言葉に、オカメインコと言われたアッシュはびきりと額に青筋を浮かべたが、まあ怒鳴り散らすなどシオン相手に出来る筈がなかった。
話し合いが必要ならばわざわざして上げましょう、と絶賛上から目線なシオンに対し、逆らわない方が身のためだと小声でアッシュ達に教えたのは、シンクだったりもする。
ルークにしがみついて泣きじゃくってるルカの側にイオンとフローリアン、そして被験者ではあるもののアリエッタを残らせ、気兼ねなくシオンは不機嫌さを前面に押し出していた。
8割方勝手に逃げたレイラに対しての怒りだから、八つ当たりでしかなかったりするのだけれど。


「勿論、戦争を止めに来たのですよ。陛下直々の勅命を受けて」


これまた食えない笑みを浮かべて言ったジェイドの言葉に、綺麗な笑みを浮かべてシオンが手にしていたスプーンをへし折っていた。
同族嫌悪か何か知らないが…ああ、それかまだシュレーの丘でのことを引き摺っているのかシオンは相当ジェイドのことが気に食わないらしく、その不機嫌さを目の当たりにしたアニスなんかは、卒倒した方が楽ではないだろうか、とさえ思ってたりする(実際に卒倒なんかしたら、粗大ゴミ扱いされるのはわかってるけど)。


「ならさっさとキムラスカにでも向かえばいいでしょう。わざわざベルケンドに来て、手土産一つも無しに僕らの家にまで来て…ああ、実は戦争起こしたかったりするんです?それはそれは気付きませんでしたよ。すみませんね」
「いやー、手土産一つなかったことにそこまで機嫌を損ねられるとは…こちらの落ち度ですね。申し訳ありません。ですが我々の目的はここに…いえ、あなたにあるのですよ。戦争を、止める為にも」
「……どういうことです」
「『そろそろ盛大にぶちまけても良いんじゃないのか?お膳立ては大体整ったろ』…我がマルクト帝国皇帝、ピオニー陛下からのお言葉です。キムラスカとマルクトの戦争を止める為にも、シオン殿、あなたの力を貸して頂きたい」


軍人としての礼を取って言ったジェイドの言葉に、シオンは頗る嫌そうな顔をしつつも、とりあえず頭だけは上げさせ、ソファに座るよう促した。
様付けをしなかったのは、この場に居合わせた面子を考えた上での、ジェイドなりの配慮だったのだろう。
とは言っても現段階では自分は何の身分もない一般人である『シオン』だったから、軍人であるジェイドに敬意を払われる必要性もないわけで(つーか喧しいのが困惑してるじゃないか)(説明するのも面倒臭いって言うのにバーカ)。

苛立っているからか紅茶に蜂蜜を落とすだけでもカチャリ、音を立ててしまうのだが、どうにか気持ちを抑えて、シオンは少し、考える。
気が気でないのか、甘い物大好きシンクが一切砂糖無しで紅茶を飲んでいたのにからかってやりたかったが、そこは流しておいた。
と言うかそんなにびびっているのは失礼ですね、シンク。


「僕、人を使うのは好きですけど、人に使われるのは好きじゃないんですよね」


むしろ大嫌いなんで乗り気じゃないんですけど。と、続くその言葉にカッと頭に血が昇ったのか、無謀にもティアが非難めいた言葉を上げたが、シオンは笑顔を崩さなかった。
「黙りなさいな襲撃犯」と言われてしまえばすぐに押し黙ったティアに対し、シンクはちゃっかり「ああ、その自覚はあるんだ、一応」と意外そうにしているのだが、シオンが最高に彼女のことを嫌っていたりするのは知っているので、口には出したりしない。
と言うか大体の人間に対しシオンはキツいのだ。
むしろキムラスカとユリアシティの人間は相当嫌っている。アラミス塞いであそこの住民誰も来れなくしてやりましょうか、と本気で言ったその言葉に多大なストレスを感じたのは、わりと記憶に新しかった。


「グランコクマの一等地に邸を設ける、とピオニー陛下のお言葉もありますが」


さらっと言ったジェイドの言葉に、何人かはギョッと目を見張っていたが、シオンはどこまでも自分達に甘いブウサギ皇帝…否、子ども好きだと言っていたフランツを思い浮かべて、全力で横っ面でも叩いてやりたくなったが、呆れたように溜め息を吐いただけで止めておいてやった。
ケテルブルクで会った時に、話題に出したグランコクマの街並みに関して、シンクとイオンが気に入っていると言った話を、覚えていたのだろう。
「ついでにマルクト中の菓子とケテルブルクのスパ無料その他諸々を望み通り付けよう、とそんな言葉もありますよ。」
と、そこまで言われてしまえばシオンも面倒だとは思いつつも悪い気はしなかった。
ダアト、ケセドニア、キムラスカ、それともう一ヶ所樽豚と髭の資金で邸を設けていたが、マルクト領には手出し出来ていなかったのだから。
菓子も頗る魅力的だろう。
お茶会を開く時に困らないのであれば、もっといい。


「…わかりました。引き受けてあげましょう。ただし、もう一つだけ条件に加えてもらえます?」


にっこり笑んで言ったシオンの言葉に、「何をですか?」と聞けたジェイドに密かにシンクとアニスは感心していた。
もしここでマルクトの国庫が火の車になるような条件を出されたらどうするつもりなんだろ、とアニスは思っているのだが、シンクとしては「今ここで髪型をバーコード禿になさい、死霊使い」とかその手のことを言い出すんじゃないかと若干、そんなことを思っていたりするのだが、流石にシオンもここでそんな仕様もないことを言いはしないらしい。
……碌なことでないのは、変わりなかったが。





「ダアトに陛下の幼なじみが居るでしょう?あれを下さい」




言った瞬間、もう一人の幼なじみがらしくなく凍り付いたが、シオンはお構い無しだった。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -