目映い光に包まれたかと思えば、気が付いたら見たこともない部屋の中に全員居たから、呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
どこだここ?と当然な疑問を抱きつつ部屋を見れば、大きめなベッドが大部分を占めていて、乱雑になにかの本が散らばっている。大きな窓から見えるのは町並みでもなければ聳え立つばかりの塀だけで、何を仕舞うのか知らないが馬鹿でかいクローゼットを背にシンクはとりあえずローレライと呼ばれた犬(らしい。僕には魔物にしか見えなかったが)(と言うか大きさ変わってないか?こいつ)の言葉を待った。
その側でこんな状況にも関わらず、フローリアンが興味津々に目を輝かせて周りをきょろきょろ見ていたが、今は気付かなかったことにしておく。


『すまぬがシンク、リアンをベッドに寝かせてやってはくれないか?この姿の我では、少々無理がある』


まあ犬(仮)の体じゃあ出来ないわな、とそこはシンクも思っていたので、すぐに「わかった」と了承した。
ローレライに寄りかかって目を開けようともせずぐったりしているそいつの体を、とりあえず支えて立ち上がらせる。
思いの外小柄な体に、この分なら横抱きも出来るだろうかと何気なく両腕で支えてみて、驚いた。


「軽い…」


思わず呟いてしまった言葉に、おや?と首を傾げたのは部屋を物色していた同じ顔の二人だけで、ローレライは静かに目を瞑っていた。
聞きたいことは多々あるが、とりあえずシンクは言われた通りにリアンと呼ばれていた少年の体を、ベッドに寝かせる。
多少顔色が悪い気もしたが、すぐに寝息が聞こえたのでほっと息を吐いた。
自分のこの感情が、一体どういうものなのか、わからぬまま。


「それで、これから何を話してくれるんですか?ローレライ。まさかここまで来させといてだんまり、と言うわけじゃあないのでしょ?」


一番得体の知れない同じ顔をした少年が聞けば、ローレライがようやく目を開けて向き合ったから、シンクも視線を外さなかった。
聞きたいことはあんまりにも多くあり過ぎる。
隣に立つ同じ顔のことや、眠っている朱色の髪をした少年のこと。
なぜ?と浮かぶことがあんまりにも多すぎていて、シンクは全て知りたかった。

レプリカの自分がなぜ生きているのか、わからないから。

ジッとローレライを見つめる。
フローリアンだけは視線をあちこちに泳がせていたが、しかし何か言おうとしたらしいローレライは、急に弾かれるように扉の方を見て、焦ったように声を上げた。


『いかん!人がここに来る!』
「え?」
『移動は出来ん!ひとまず三人共そこに隠れてくれ!』
「ちょっとローレラ…」


どういうことだと言い掛けた言葉もそのままに、無理矢理三人揃ってクローゼットに押し込まれたから、なんだこの状況ととりあえず息を潜めることにはした。
いくら馬鹿でかいと言っても三人も中に入れば狭く、クローゼットの中で呻き声を上げそうになるのをどうにか堪える。
フローリアンは楽しそうにしていたが、シンクもそしてもう一人も厭そうに顔をしかめていた。
体勢が苦しい。


「この僕をこんなところに押し込めるとは…全く、いい度胸をしてるじゃないですかローレライ」


ここを出た時には覚えとけよ、と低く言ったそいつに、シンクは自分の顔から血の気が引くのを感じた。
お前黙っとけよ馬鹿!と言いたいことはそれだが、言ったら最後なにをされるかわからないので、言わない。
クローゼットの中で息を潜めてすぐに、ノックの音が聞こえてそうして扉の開く音がした。
コツコツ、と誰かが歩いて近付いて来る。


「おーい、ルーク。夕食の時間だぞ…って、なんだ。寝てるのか」
(『ルーク』?)


聞こえたその若い、おそらくあまり歳は変わらないだろう男の声に、シンクはおや?と首を傾げた。
『ルーク』だなんて、そこに寝てる少年の名前は、『リアン』じゃなかったのだろうか?


「……主君に対し何の敬意もなく呼び捨てですか。使用人の分際でいい度胸ですね」
「(あんたは頼むから黙ってて…!)」


ごもっともなことだとは思いはするものの、とりあえずバレたらどうするんだと声を潜めて、シンクはぼそりと呟いた同じ顔に言った。
聞き耳を立てている現状も不味いが、バレたらきっと大問題だとわかるから、頼むから大人しくしていてくれ!と訴えずにはいられない。
幸い、部屋に入ってきた男は部屋の主が眠っていて起きそうにないとわかるなり、「これは暫く起きそうにないな」と一人呟いてまた出て行ってくれたから、シンクは密かに息を吐いた。
バタン。
扉が閉まる音さえ聞こえれば、ひとまず危機は去ったのだろう。


『すまないな、三人共。もう大丈夫だ。出て来てくれ』


一体どこに隠れていたか知らないが、クローゼットの外からローレライに声を掛けられて、ようやく狭苦しい空間から出ることが出来た。
無理な体勢のせいであちこち痛むが、そこは妥協せざるを得ないのだろう。
肩を回し多少体をほぐしていたところでふと、フローリアンが出て来ていないことに気付きクローゼットを振り返ったのだが、思わず溜め息を吐いてしまった。


「フローリアン…寝てるし」


はぁ、と溜め息を吐いたその先に、すやすやとどこをどうやったらそんな中で寝れるのか、と呆れを通り越してむしろ感心してしまうぐらい、フローリアンは心地良さそうに寝息を立てていた。
がっくりと項垂れるシンクに、ローレライが『寝かせておいてやれ』と言うが、あんなけ気持ち良さそうに眠るやつを起こせる筈がないだろう、ともう諦めている。
話の内容は後で教えてやればいいだろう、と思うことにして、シンクは改めてローレライと、そして自分と同じ顔をしたもう一人と向き合った。
聞きたいことは沢山ある。
けれど、まずは、最初に確かめておきたい。


「あんた…誰?」


少しだけ震えてしまった声でそれでも聞けば、同じ顔をしたそいつは静かに笑った。
意地の悪い笑みだ。
敵意も何も含んでいない分、元の性格が悪いのだろう。
不敵に笑って、そうして言った。


「そういえば君たちには自己紹介がまだだったね。教えてあげるよ。僕の名はイオン」



君たちのオリジナルさ。






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