流石は預言大好き、愚王が治めるキムラスカ。
やることなすこと、本当普通なら考えられませんねー。

と、にこやかに笑んで言ったシオンが持っていた音叉が、どういう仕組みかねじ曲がったから流石のシンクでも何も言えなかった。
注釈を付けるならばそれは鉄製です、とでも言うところだろうか…いや、現実を直視した方が確実に立ち直れない気もするので、シンクはそこまで深く考えないことにする。
マルクト皇帝とさっさと話して打開策でも練って来い、と問答無用にジェイドをアリエッタのお友達の上に乗せ追い払ってから、シオンはとりあえずフローリアンを迎えに行きますか、とケセドニアの近くにある邸(2ヶ所目)にキムラスカなんて知ったことか、と笑みを貼り付けたまま向かったのだ、が。


「シオン!ルークがっ、ルークが力使って倒れたってほんと?!」


泣きながら邸から飛び出して訴えたフローリアンの言葉に、レイラは逃げ、ルークを抱き抱えていたシンクは仮面の下で驚き目を見張り、アリエッタは青ざめた。
テオルの森のことですね。テオルの森のことですよね?!と、事情を唯一把握している分、アリエッタは卒倒してしまいたいとすら、思っている。
手にしていた音叉(2本目)が粉々に砕け(どういう理屈だとか言わない)(殺されるから)、それでもにこやかな笑みを…たとえ額に青筋すら浮かべていてもにこやかに笑んだ似非導師、シオンは逃げたレイラを(どういう理屈か)その細腕で(尻尾を)掴み上げ、最終的に片手で頭を掴み押さえ込んだ。
凄まじく相手に恐怖しか与えない、いい笑顔である。


これでなんでルークは起きないんだろうね、と腕に抱えたままシンクがそう呟いた。
いつもならここで返って来る声があるのだが、青ざめたままのアリエッタは僅かに首を振るばかりで、何も言えなかった。


「さて、どういうことか説明してくれるんでしょうね?レ・イ・ラ?」


あのチクリ魔三姉妹め!と思ったかどうかはさておき、フローリアンの側に居ただろうシルフを恨みつつあるレイラに、それでいいのか意識集合体、とシンクは思ったが、まあ、言えるわけがなかった。













「さて、潜入★ベルケンド第一音機関研究所の時間でーす。目的地は馬鹿国キムラスカでもまともな思考回路の人間は居るんだぜ!なジョゼット・セシル少将に次ぐ常識人、シュウ医師が引きこもっている医務室です。ぱぱっと瞬間移動でも出来れば早い話だったのですが、肝心の駄犬がここで力を使うと計測器に引っ掛かると言うことで、自力で中へ入らなくてはならないと言う七面倒臭いことをわざわざやらされる羽目となりました。馬鹿犬は後で丸坊主ですね。ベルケンドに良い剃刀でも売っていると助かるのですが、それはともかく、早速突撃してみましょー…」
「馬鹿はあんただろうが!何やってんの何やろうとしてんの何なの馬鹿なの潜入★じゃないよ!★とか何だよ!何がしたいんだよ!」
「嫌ですねぇ、シンク。健康診断に決まってるじゃないですか。僕はレポーターです。アリエッタとセットで」
「意味わかんないから!あー!もう!付き合いきれるかこの馬鹿!大馬鹿!」


もうマジでわけわかんないよバカヤロー!と嘆くシンクにそこまで構いもせずに、爆弾発言をかましたシオンと言えば、にこやかに微笑んだまま、堂々と『導師イオン』の姿を晒して、ベルケンドの道具屋で適当にグミを買い、食材屋でリンゴとイチゴを買っていた。
お構い無しに食べているその姿にシンクは最早泣き出したくもなって来るのだが、フードを被って顔を半分覆う程ガーゼを貼って隠しているフローリアンと、導師守護役の服を着たままのアリエッタは、シオンに与えられたグミを嬉しそうに食べている辺り…味方がいない。
唯一ルークだけが気遣うようにぽんぽん、と肩を叩いてくれはしているが…余計に惨めだと感じたのは別にシンクの気のせいなんかではなく、事実だった。
キムラスカがマルクトと戦争をしようとしている真っ最中だと言うのに…なんだろ、これ。何なんだろね、これ。
と、シンクは現実逃避しかかっているが、そこを見過ごしてくれる程、シオンは優しくなんかない。
フードを被って顔を隠しているルークににっこりと笑い、さり気なくシンクとの距離を開けさせたのは、まさしく鬼に違いなかった。


「ベルケンドに居るのは学者ばかりですからね。シェリダンに行くよりは危険は少ない筈ですよ。開戦の準備に向けて忙しいでしょうし」
「それにしたって無茶苦茶だろ?!こいつ連れて来るのがどんなに危険か、あんただって知ってる筈だ!」
「仕方ないじゃないですか。だって、魔界に沈んだケセドニアの医師に頼むにはちょっと無理でしょうし。ルークの健康診断はしてもらわないと…不安なんですよ。危険を犯してでも、僕はルークを診てもらいたい」


はっきりとそう言ったシオンの言葉に、ルークが小さく名を呼んだのが、シンクの耳にも確かに聞こえた。
そっと伸ばされた手が、優しくシオンの髪を、撫でる。
アクゼリュスが崩落してからの、硝子玉のような瞳はもう、そこにはなかった。
意志の籠もった、翡翠の瞳が、確かにある。


「そんなに心配しなくても平気だよ、シオン。大丈夫だって」
「ルークの言う大丈夫程信用出来ないものはないんですよ。絶対に、シュウ医師に診てもらいますから。こればっかりは譲れません」
「……ごめん、シオン」
「こういう時はありがとうでしょう、ルーク」
「うん、ありがとう」


ふわり、笑って言ったルークの姿に、リンゴを食べるのに夢中になっていたアリエッタとフローリアンが、両サイドから抱き付いていた。
むぅ、とシオンが唇を一瞬だけ尖らせたが、すぐに胡散臭い笑みを貼り付ける。
ヤキモチを焼くには、流石に大人気ないと思ったらしい。



「ところでなんであんたは、そのシュウって医師にそこまでこだわるわけ?」


浮かんだ当然の疑問をシンクが聞けば、シオンは胡散臭い笑みを浮かべたまま、答えた。


「シュウ医師は世界最高レベルの医師の一人ですよ?信用は出来ます。キムラスカでは数少ない常識人と聞きますし」
「……だからって、どうやってそのシュウ医師に会うつもりなのさ」


いくら『導師イオン』と言っても、それは難しいだろ?と聞くシンクに、それはそれは綺麗な笑みをシオンは浮かべた。
これは頗る嫌な予感しかしなくて、シンクは顔を引き攣らせたのだ、が。


「ベルケンドの知事を脅せば済む話ですよ」


言うなり、さっさとベルケンドの知事邸に向かって行ったシオンに、シンクは悲鳴を上げそうになったのを何とか堪え、血の気が一気に引いたのを感じながらも、アリエッタとフローリアンに宿屋に居るよう釘を差して慌ててシオンを追いかけに行った。
取り残された3人は少しの間呆然としていたのだが、とりあえず宿に行こうか、と足を進める。フードで顔を隠しているとは言え、ここであまり目立ち過ぎるのはよくないと…まあ、『導師イオン』がこんなところに居る時点で苦く笑うことしか出来なかったのだが、別に大丈夫だろ、と思ってたのが、間違いだった。



「失礼します。神託の盾騎士団第三師団師団長、アリエッタ響手ですね?」



ここに来てそう呼び止められるとは、流石に思っていなかったのに。


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