泣き疲れてそのまま眠ってしまったルークの頭を優しく撫でつつ、シオンは珍しくジェイドの前だと言うのに困ったように笑っていた。
いつまでルークを抱きしめてるんですか、などとは流石に言えやしないが、ルーク自身がジェイドの軍服を掴んで離さないだけだと言うのに、今にもアリエッタがライガにジェイドの頭を丸かじり命令を出しそうで、シンクが頭を押さえている。
泣き腫らした目蓋が少し痛々しかったが、確かに残る涙の痕に、シオンは少しだけ泣きたい気持ちになりながらも、無理して笑った。

決して泣いてくれない、彼だった。
だからこそ、泣いてくれたと言う事実が、何より嬉しくて。



「さすが亀の甲より年の功とでも言うべきでしょうか。四捨五入したら四十は伊達じゃなかったみたいですね」
「ははは、まだ五年あるのでいきなり四十扱いはやめてくれません?」
「ああ、ちょっとルークぐらいの子どもが居るには、二年ばかし足りませんでしたね」
「その計算だと私は二十歳で子持ちになりますが」
「有りと言えばそれも有りでしょう?あ、でも僕らがあなたの子どもなら、ちょうどいいかもしれませんね」
「絶対にご免です」


流石に最後の言葉だけは冗談でも軽く流せなかったのか、全力で拒絶してみせたジェイドに、シンクは若干顔を逸らして遠い目をしていた。
気持ちは分からなくもない。
シオンが自分の子どもだったなら…などと想像も出来ないことをするつもりはないが、兄弟として過ごしていても、笑えない状況にはよくなるのだ。
と言うか、現在もわりとそんな感じだな、とシンクは密かに思っていたりもする。
アリエッタとライガの暴走を止めるだけで精一杯なのだが、純粋に困ったように笑っていたシオンの笑みから、だんだんと黒さを感じて仕方なくなってきたのだ。
ジェイドに寄りかかって眠っているルークの姿を前に、そろそろ我慢ならなくなってきたのだろう。
引ったくるようにルークを抱き寄せるのか、ジェイドに辛辣な 言葉でもぶつけるのかどっちが先になるかシンクには分からなかったが、何にせよ。
嫉妬してんじゃないよ、死霊使いのせいじゃないだろうに。


「…悔しいですね、本当。僕らの方がずっとルークの側に居たのに、貴方に全部持っていかれた気分です。鳶に油揚げをさらわれるような真似をされては黙っていられないのですが、今回はタルタロスの部品一式で手を打ちましょう」
「いやですねぇー、止めなかったのは貴方の方ではないですか?シオン。それにタルタロスの部品一式は無理な話です」
「ああ、別に断って下さっても構いませんよ?事後承諾なんで」


は?と咄嗟に返したジェイドの言葉とその雰囲気に、シンクは即座に顔を背け、アリエッタの両の目を隠すように手で覆ってみせた。
ギリギリセーフかと内心冷や汗ものなのだが、不思議そうに首を傾げている辺り、何とか見ないでくれたらしい。
死霊使いvs魔王のやり取りは、あまり見て欲しくないものだったりするので、アリエッタの為にもシンクは早々に退席させて頂きたかった。
勿論、ルークがここに居る以上、実際にそうするつもりはないのだが。


「……どういうことです?」
「実はシェリダンからアルビオールを借りるにあたって、部品が足りなかったのでタルタロスのものを拝借させて頂いたんですよ。ああ、一応まだ動くことは動きますが、僕としては絶対に乗りたくはありませんね。簡単に粉砕してしまいそうでしたので」
「せめてそういうことは事前に知っておきたかったですね…あなたのことです。アルビオールが必要になることも、部品が足りないことも知っていたのでしょう」


疑問形ではなく、ただ確かめる為だけに放たれたその言葉に、シオンはにっこりと笑ってみせた。
後頭部を狙っていたライガさえも、怯えて後退っている。
止めろ、それ以上後退ったら僕が落ちる!と言えたら、どれだけ良かったことか。


「まさか、僕とてそこまでのことは何も知りませんよ」


あっさりと口にしたシオンの言葉に、どこがだ嘘吐きめ!とシンクは間髪入れずにそう思ったが、黙っておいた。
渋るシェリダンの技術者達に、タルタロスの部品で釣ったのはどこのどいつだよ、とザオ遺跡のパッセージリングを操作した直後訪れたシェリダンでの出来事を思い出しては、シンクの顔から血の気が引くが、気にされることはない。
きっぱりと言い切ったシオンに、ジェイドは引くしか術はなかった。
溜め息を吐きたいのを何とか堪えつつ、ジェイドとそしてシンクは呆れてもみせる。
もう勝手にしてくれ、と半ば投げ遣りになっていたその時。不意に今の今まで黙っていたレイラがシオンの袖を引くように服をくわえたから、シンクはおや?と首を傾げた。
突然のことにこれにはシオンも面食らったようにきょとんと目を丸くしたのだが、レイラにより告げられた言葉に、嫌な笑みを貼り付けていた。


『まずいことになった、シオン。キムラスカが海戦の準備を進めている。戦争を諦めてはいないようだ』


戦場が落ちたのにまだそれを言うとは思ってなかっただけに、その場が一気に凍り付いてしまった。
流石は預言べったり、キムラスカ。


やることが違いますね、マジで。




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