愛されていないの。
彼は、この星に。

彼の、世界に。


愛されていないと、『安心』出来ないの。
息をすることも、出来ないの。


(彼女は言った。人の気持ちは難しいものね、と。続くその言葉が、ただ、苦しかった。)









シュレーの丘のセフィロトを出て空を見上げれば、シオンの言った通り無事に降下出来たらしく、ルグニカの大地と障気の空が広がっていた。
成功したようですね、と言ったジェイドの言葉にティアが安堵の息を漏らすも、他の面々の表情は優れない。
ずっと無言を貫き通してはいるものの、ルークの顔色はあからさまに悪く、超振動を使った影響が体に負担を掛け過ぎていることは、ジェイドにだって痛いぐらいわかることだった。
腕を掴んだままのイオンは離すまいとしがみついていて、アリエッタは抱き潰すのではないかと言うぐらい人形を抱く腕に力を込めており、今にも泣きそうな顔をしている。
けれど、言葉は誰も掛けなかった。
掛けれなかった、と言う方が、正しかったのかもしれないけれど。


「……来た」


障気の影響で紫色の空を見上げていたルークが、不意に小さな声でそう呟いた。
促されるままに全員の視線が空へと向く。
鳥のようなシルエットに、見えたそれに、声を上げたのはガイだった。


「あれはアルビオール…?!シェリダンで開発中の飛晃艇がなんでここに…っ」


驚きのまま言ったガイの言葉に、ジェイドですらもこれには動揺を隠せなかったのだが、次の瞬間空中で宙返り…しかも三回転を決めたアルビオールに、考えずとも全員あれに誰が乗ってるのか、誰のせいでここに向かってるのか一瞬でわかった。

シオンさま、元気そうでなにより、です。

と呟いたアリエッタの言葉が決定的ではあったが、どうしても言わせてもらいたい。
何やってんだ、あの似非導師は。



「ルーク!!」


目の前で着陸したアルビオールからタラップをすっ飛ばして駆け出して来たのは、向かうところ敵無しなのではと思ってしまうぐらい、恐ろしくて敵対だけは絶対にしたくない、似非導師…元、シオンだった。
咄嗟にアリエッタがイオンの手を引くが間に合わず、3人巻き込んでシオンはルークに抱きついて、離さない。
ゲイラルディアが近付くんじゃねーよ、だとか頼み事も満足に出来ないんですか死霊使い、だとか聞こえた気もしたが、2人して全力で聞かなかったことにした。
些か窶れたのではと思うぐらいのアッシュの姿さえも見えれば、容易に何か口を滑らせるわけにもあるまい。


「さて、無事に降下作業も終えたことですし、貴方たちはアルビオールを使ってグランコクマにでも行って下さい。僕たちはまだやることがあるので」


にっこり笑って言ったシオンの言葉に、露骨に顔をしかめたのはアッシュとガイの2人だけだった。
ルークと離れたくないと態度で示すガイと、何を勝手なことを言っているんだと、懲りずにも不満を抱くアッシュ。
ティアはどちらかと言えばアッシュ寄りの思考だろう。不気味な程にまで大人しいアニスが何を思っているかまではジェイドもわからないが、口を挟むべきではないことだけは、わかっていた。


「ケセドニア周辺とルグニカの大地が崩落の危機にあるとのことで協力を願いましたが、無事に降下された今、貴方たちと馴れ合うつもりも必要性も僕らにはない。第一、貴方たちはルークを傷付けた。僕らとしてはそんな人間がルークの視界に入ることすら、許せないことなんですよ。それに大体、被験者が居れば満足なんでしょう?本物の『ルーク・フォン・ファブレ』と共にナタリア殿下でも迎えに行ってヴァン・グランツでも捕まえてみなさい。世界を救う、英雄様御一行としての足ならば、アルビオールで十分でしょう?外郭大地の危険性でも何でも各国に伝え回って戦争でも止めてご覧なさい。被験者なら、それぐらい出来るのでしょう?偽物の僕らよりも」


淡々と放ったシオンの言葉に、不満はあれどアッシュもティアも何も返せなかった。
ガイだけは何か言おうとしたが、目を合わせていたルークが、ゆっくりと首を横に振ってしまえば、想いを口にすることも阻まれる。
容赦ないね、あんた。と口にしたシンクに対してだけ、ようやくシオンは純粋な笑みを見せた。
単にこれ以上ルークに汚いものを見せたくなかっただけかもしれないが、その変化は容易く、アッシュ達から言葉を奪う。


「あなた方が何をするのか知りませんが、ここでまだやることがあると言うのなら、私が残ります」


今まで黙っていたジェイドがそう言った途端、「旦那!」とガイの非難めいた声が上がったが、気にも止めずジェイドはシオンだけを真っ直ぐ見据えた。
すれば嫌そうに顔を歪めたシオンと目が合うが、決して逸らしはしない。
お互いに。


「ジェイド・カーティス大佐が国に報告する場面で居ないだなんて、一体どんな言い訳をするつもりです?」
「それはお構いなく。大地を支えるパッセージリングに関して、重要な問題が見つかった為に私の頭が必要だったと言えばどうにでもなりますよ」
「ガルディオス伯に説明させるつもりでも?家の復興より復讐を取った、ホドの遺児に?」
「うちの陛下は、そこまで愚かではないですよ。あなたと接していたフランツがどうだったかまでは、私も知りませんが」


飄々としてジェイドが言えば、シオンは一度溜め息を吐いたあと、仕方なくイオンをアニス達に託すように、その背を押した。
アッシュの顰めっ面には気が付いてはいるが無視を決め込んで、シオンはゆっくり、ルークの手を取ってアッシュ達に背を向ける。
ガイの手が伸ばされたのは知っていたが、触れることは許さなかった。



「……好きにすればいいです。ただし、許可を出せるのは死霊使いだけですけど。他はさっさと、ナタリア殿下でも迎えに行って差し上げなさい」



問答無用とばかりにそう言い切った。
勝手なことを言っている自覚はあるが、これ以上あの紅を視界に入れることが、耐えきれなかったのだ。


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