「ああ、どうやら無事に出来たようですね。ゲイラルディアに馴れ馴れしくされているような抹殺したい予感がしますが、まあいいでしょう」
「……言っとくけど僕はもう突っ込まないから。あんまりに酷いことは聞かなかったことにするからね」
「そんな…っ!シンク、あなたまさかゲイラルディアと親しいお友達なんですか?!」
「わざとらしく言うのも大概にしなよシオン!んなわけあるか!第一流石にゲイラルディアは可哀想だから!あの使用人に対してなんでそんなに風当たり厳しいのさあんた!」
「ああ、ようやくツッコミ入れてくれましたね、シンク。やっぱりそうしてくれないとせっかくのボケが死にます」
「あんたのせっかくのボケは致死性持ってるから嫌だ…。それよりシュレーの丘のパッセージリングが起動したんでしょ。ならこっちも早くしなきゃ」
「それもそうですね。ではアッシュ、よろしくお願いしますよー」


にこやかに微笑みながら、何だかいろいろと聞き捨てならないことを言ったシオンの言葉に、けれど流石にここで問い詰める程アッシュも命知らずではなかった。
加えてこの状況下でユリア式封咒はどうするんだ、などと聞けない。絶対に聞けやしない。
けれどさあ、事前に説明した通り超振動でどうぞ、などと手招きされあまつさえさっさとやれやボケ。などと無言のプレッシャーを掛けられたところで、アッシュはユリアの子孫でもないのだから操作盤が起動する筈もなかった。
年下の、導師の兄弟だかレプリカだか知らないが、それでも年下の子どもと接している筈だというのに、このプレッシャーは死霊使いだとかヴァンと対峙する時とどう違うのか、アッシュは冷や汗をだらだら流しながら考えたか、答えなんてわかる筈もなく、誰か教えてくれ。切実に。


「あ、ちょっと待ってよシオン。ユリア式封咒は?操作盤起動してないよね」


救世主とも取れるシンクの言葉に、腹黒い笑みを浮かべていたシオンは素で忘れていたのか、ああそうでしたね、と言って操作盤の前に立った。
顔面蒼白でアニスが遠巻きに見ていたり、若干アッシュも引いていたりするのだが、気にもせず手にしていた音叉を構える。
そし、て。


「もしもーし、パッセージリング同士が繋がっているのなら、地殻にいるあなたにも聞こえてますよね?いくら駄犬でもわかっているでしょう?今から合図送るんで、聞こえたら即座に操作盤を起動させなさい。いいです?出来ないとは言わせませんよ。言ったら地殻に居た方がまだマシだと思う仕打ちを、たっぷりして差し上げますね」


にっこーり笑って言ったシオンの言葉に、こればっかりは他の3人も揃いに揃って顔から血の気が一気に引いた。
え、ちょっとシオンさん…?なんて妙な言葉遣いでシンクが呼び掛けたのだが、気にもせずシオンは音叉を振り上げて、それから。


「あああああ!!馬鹿!あんた何やっ、」


シンクが叫ぶように言った制止 の言葉も打った斬って、音叉で叩き付けられた操作盤が、カァンッ!と甲高い音を立てた後に、ゆっくりと開きました。
……おい、それはない。


「さあ、操作盤も起動したみたいですし、あとはアッシュ。説明した通りお願いしますね」


それはそれは綺麗な笑みを浮かべて言ったシオンに、アッシュも何も言えずただただ超振動を使うしか、なかった。




「『ツリー上昇。速度三倍。固定』…流石は自分の生え際省みず素晴らしいデコっぱち具合を披露するも被験者ってところですね。セフィロト同士も繋げれてますし、あとはこれで無事に降下するかどうか、と言ったところでしょうか」


超振動の制御に集中して行っていることをわかりつつも、あえて操作盤の前に立つアッシュの背に投げかけたシオンの言葉に、最早なにかを返せる人間など誰もいなかった。
おそらく苛立ちも積もりに積もっているだろうに、堪えて何の反応もしないアッシュに、強制的に側に立たされているアニスの顔色は頗る優れない。
アッシュのすぐ後ろで、時折シンクが何かを言っていたが、シオンは少し離れたところでアニスと一緒に立ってにこやかな笑みを浮かべていた。
その笑みが怖いんだよあんたはさ!なんてシンクの心の叫びが聞こえないこともないが、まさかシオンがまともに取り合うわけもなく。


「さて、神託の盾騎士団導師守護役所属、アニス・タトリン奏長」
「は、はい…!」
「大詠師モースにはどう報告するつもりですか?スパイ活動も満足に出来ていない、能無しの導師守護役さん?」
「−−−っ!!」


にっこり、笑って言ったシオンの言葉に、アニスは咄嗟に返事をしたことよりもその内容に一切の躊躇い無しに、横っ面でも叩かれた気分だった。
カタカタと体を震わせ、後退ろうとする少女の、あまりにもお粗末な軍人である少女の姿を、シオンは笑みを絶やさぬまま、しっかりと見据えてやる。
この話をする為でなくては、誰が好き好んでアリエッタでなく能無しを導師守護役として連れるものか。


「別に僕としてはあのままグランコクマへ行ってもらって引き渡しでも良かったんですよ?連座制でタトリン夫妻がどうなろうと、僕の心は欠片も痛みませんので」


あっさりと言ってやれば面白いぐらい震え出したアニスに、シオンは密かに「なんだ、何の反論も無様に足掻くことも無しか」と笑顔のまま思っていたが、口にすることだけは止めておいてやった。
シンクには聞こえているだろうが、アッシュには聞こえていないだろう。
別にジェイドの居る場面で言っても良かったのだが、朱色の髪をした彼が、アクゼリュスへ行く前の彼が、以前話題に出したのを覚えていて、コーラル城でシンクに頼んだのだから、仕方ない。


「ルークに感謝しなさい、アニス・タトリン。あなたの両親の借金はルークが望んだからこそ、帳消しにしときました。タルタロスの件もイオンとアリエッタ、そしてシンクのお陰で死者は0。このままバレなければ罪に問われることはないでしょう。勿論、問われないだけで罪は罪なので、償いは必要ですが」


こればっかりは渋々告げたシオンの言葉に、アニスは愕然と目を見張って、その場に崩れ落ちた。
見上げるように顔こそ上げてはいるが、どうして?と表情がそう訴えている。
その姿に、シオンは鼻で笑った。冷めた視線を送るのと2択だったが、同じ笑みならあえて聖人君子のように振る舞ってやっても、面白かったのかもしれない。


「…ルークは優しいんですよ。あなたが望んでスパイなんてやってるわけじゃないと信じたから、止めさせたかったのでしょう。子どもが無理してる姿は、見ていられなかったのかもしれませんね」


その言葉に、あの傲慢で我が儘なお坊ちゃまがとは、アニスはとてもじゃないがそうは思えなかった。
ケセドニアで、一度目にしているから。
そうだ。
子どもたちに囲まれて、穏やかに笑んでいたその姿を、目にしていた。


「今までのことを悔いているのならこれからの態度でイオンに償いなさい。イオンに償うことで、ルークに感謝していることを示すことですね。あなたがスパイと言う形でイオンを裏切っていたのは事実ですので。ここから先は、あなた自身の問題です」


もっとも、害があると見なした場合はあっさり切り捨てさせてもらいますね。タトリン夫妻諸共。

と続くシオンの言葉はゾッと感じる部分があったけれど、アニスは涙が止まらなかった。

恐怖からではないそれは、確かな安堵と、申し訳なさだけが、そこにはあって。



(あんなに酷いことばかり言ったのに、どうして、彼は。)


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