辺りを包み込んだ目映い光に目を細め、次に目を開けたらどこか見覚えのある、火山の中だったから普通に驚いた。
そしてまた、先程ローレライと呼ばれていた犬がライガ程までの大きさになっていて、その背に二人で乗って駆け抜けている現状に、どうにも頭が追い付いてくれそうにない(ああ、アリエッタに乗せてもらったライガと似てる気がする…って普通に考えてもなんだこの状況!)。
いい具合に頭が大混乱していたのでとりあえずついついまたベタな方法で頬を叩いてみたのだが、案の定やっぱり普通に痛かった。
こいつと一緒に居たら頬が常に赤くなるんだな、と全く冷静になれない頭で考えていれば、ふと見えた光景に思考回路がプツンと切れた。
ザレッホ火山の、人など滅多に近付かない火口付近。




自分と同じ顔をした存在が、人間の手で火口の中に突き飛ばされていた。







「おい、早く終わらせて戻るぞ」
「ああ、あと少しだ」


次々と火口に突き飛ばされていく同じ顔をした存在を眺めつつ、あと二人と言う段階まで残っていた緑色の髪をした少年は、ただただぼんやりと全てを聞いていた。
白衣を来た連中が好き勝手に話している。
導師イオンのレプリカに選ばれたのは七番目で、五番目の自分は、他の出来損ないのレプリカは、廃棄処分にされるのだとそう言ってるのを聞いた。
なにも火口に突き飛ばさなくとも、方法はいくらでもあるだろうにと思いはしたが、廃棄処分なら仕方ないとも思った(だってゴミなら、焼却処分だろうし)(ああ、これも被験者の知識じゃないか)。
ぐつぐつと煮えたぎっているその様は、シチューか何かを煮込んでいるようで、馬鹿らしいと自嘲気味に口の端を上げる。
シチューなんて食べたことも見たこともなかった。
むしろ腹一杯に何かを食べたことなどないし、食事をする権利なんて、与えられもしていない。


「よし、じゃあ次だ」


言われて、それが自分の番なんだと緑色の髪をした少年はどこかで聞いた。
火口に、あと一歩踏み出せば落ちると言うところまで、歩かされる。
下を見れば先に落とされた兄弟とも言えるような存在が、黒い塊となって、そうして空に還っていくのが見えた。
自分も、そうなるのだろう。

ゴミのように棄てられ、焼け爛れて黒くなって、そうして音素になる。


死んで、いく。



「……ぁ、」


突き飛ばされる間際になって、初めて怖いと思った。怖い、怖くて仕方ない。けれど、もう何もかも遅かった。
体が傾く。
足がついていた筈の地面なんてどこにもない。

死にたくない、とそこでようやく思った。

僕は、死にたくなんかない。


誰か誰か誰か!
助けてと無意味なのはわかりきっていた癖に、それでも無様に縋るように手を、伸ばしてしまった。
誰も掴んでくれる筈がない、なんてわかりきってるのに。

それでも、伸ばした。
死にたく、なかった。




「………ぇ?」


漏れた声は、相当に間抜けだったろう。
誰にも掴んでもらえない手。
馬鹿みたいだと思ったその瞬間、確かにその手を掴まれて宙ぶらりんになったとわかったから、漏れたのは単純になんで?とそれだけだった。
視線を上へあげる。
手を掴んだそいつは、見たこともない長い朱色の髪をした、少年だった。


「……なん、で?」


疑問がそのまま声に出たその時、ふと自分の手を掴むその手が、あんまりにも細いことに気付いて思わず目を見張った。

この腕じゃ、無理だ。

自分を引き上げることも、それどころかこいつだって落ちるだろう。
だからこそ離してくれと言おうとしたその瞬間、不意にもう一人自分の手を掴む誰かが来たから、思わずギョッと目を見張ってしまった。

自分と同じ顔が、必死に手を掴んでた。


「たっく…ほんと、僕は病み上がりだってのに…無茶させないでよね」


聞こえた声。
よく理解は出来なかったけれど助けようとするのは本当で、少しずつ引き上げられる体に、最後は自分の力でどうにか先程立っていた地面まで戻った。


「ぁー…ほんと疲れた。あとできちんと説明してくれるんだろうね?ローレライ」
『勿論だ。しかしとにかく今は火口から離れよう。危険過ぎる…あとすまないが、リアンに肩を貸してやってくれないか?』
「わかってる。ほら、あんたも離れるよ。導師イオンのレプリカ?」


同じ顔をしたそいつに言われ、とりあえず状況が理解出来なかったが大人しく従って火口から離れた。
近くにあの白衣を来た連中が倒れていたが、そこは気にせず進む。
多少離れたその先に、もう一人同じ顔をした存在が居たけれど、そいつは自分と同じレプリカだとわかっていたから、緑色の髪をした少年は、怪訝そうに顔をしかめた。

最後まで残っていたのは、二人だけの筈だ。

七番目はもうとっくに連れて行かれたのは知っている。
知っているからこそ、もう一人が一体何なのか、全くわかりそうになかった。


「…そんな顔で睨まなくても、ちゃんと後で説明してあげるよ。五番目」


淡々と言ったそいつに、どうしてか癇に障って捲し立てようとしたその瞬間、しかしある意味突拍子なく、不意に聞こえた声に立ち尽くすように固まってしまった。


「シンク」
「…は?」
「だから、名前。五番目とかそんなの嫌だから、シンク」
「ぇ?ちょっとあんたなに言って…」
「あっちはフローリアン。…ローレライ、あと頼んだ。ちょっと、疲れた」


言うだけ言って、そうしてローレライと呼ばれた魔物(ライガだっけ?確かそんな魔物に似てる)に寄りかかって目を瞑った朱色の髪をした少年に、緑色の髪をした少年は、シンクは口をパクパクと動かすばかりで声にならず、ただ全くわけがわからなかった。
フローリアンと呼ばれたそいつも、きょとんと目を丸くして状況を理解出来ていないでいる。
呆れたように溜め息を吐いたのは、名付けられなかった同じ顔をした、そいつだけだった。


「何の迷いなく名前即決したね…突拍子ないのはなに?いつもあんな感じなの?」
『言いたいことは山程あるだろうが、これ以上はリアンが限界だ。一度戻るぞ』
「どこに、と聞いても無駄なんだろうね。いいさ、早く連れて行ってよ」
『ああ、わかった。シンクとフローリアンも、構わないな?』


拒否権なんて端からない癖に言うんじゃないよ、と思ったけれど、『シンク』と付けられた名前が不思議と嫌じゃなかったから、素直に頷いておいた。






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