表面上だけは導師イオンと似通った笑みを浮かべる少年に、けれどジェイドは食えない笑みだと、警戒したままだった。
告げられた俄には信じられない事実に、しかし目の前の少年はイオンやシンクと言った面々と面識があり、嘘ではないのは、確かなのだろう。
それは、わかる。
わかるが、すんなりと信用出来る筈がないだろう?


「あなたの言うことはごもっともだと思いますが、しかしそれが本当がどうか信憑性がありませんね。それに協力と一口に言っても、あなた方に騙され逆に大地を崩落させられるのは御免です。六神将の一人がそちらに居る以上…ヴァンと繋がっているのではと言う可能性は、こちらとしては無視出来ませんので」


同じように食えない笑みを浮かべて言ってのけたジェイドの言葉に、聞いたシオンはきょとんと目を丸くしたあと声を上げて笑った。
その反応にジェイドは余計に訝しげにシオンを睨み付けるのだが、知ったことではないとシオンは気にもしない。
今までのやり取りを踏まえた上で、笑い出したシオンに対し不満を露わに出来る人間など、ジェイド以外には居なかった。
イオンと同じ顔、と言うのが、どうしても強く出れない理由になってしまっている。


「確かにその気持ちは分からないこともないですけどね、六神将だからって理由を上げるのはおかしくありません?あなた達は一体誰と新たに行動し始めたんですか?それこそあの髭お気に入りの、特務師団長だったりするでしょうに」


さんざん笑ったあとに言ったシオンのその言葉には、ジェイドもまさか何か言い返せる筈がなかった。
笑みを絶やさぬまま、シオンは続く言葉を言う。
容赦なく抉るような、そんな言葉を。


「それともイオンと同じ顔をした僕を見て−−−レプリカかと思っている、その理由で信用する価値無しと判断しましたか?ジェイド・バルフォア博士」


にっこり笑んで言ったシオンの言葉に、今度こそジェイドも返す言葉を失った。
図星、だったから。
自分の生み出してしまった罪の証だと、フォミクリーの技術で誕生した生物ではないのかと導師イオンと同じ存在である少年に思っていたのは確かで、無意識に拒絶したのかと言われれば、否定の方が出来なかった。


「多くのレプリカが被験者に対し負い目を感じ、協力を求めるならばここは殊勝な態度を心掛けるところですが…仮に僕がレプリカだとしても、そんなことは全く感じないので改めなどしませんよ。それよりもそろそろ答えをくれません?協力するのか、しないのか」


時間がないと、言ったでしょう?

と続けて言うシオンの言葉に、ジェイドは少しの間考え込んでいたが、改めて考えてみたところで拒否する理由の方がなかった。
パッセージリングを操作するにせよ妙な動きを見せたならそこで強硬手段を取ればいい話であり、アクゼリュスのパッセージリングが消えた影響が他の地域に及んでいるのだけは、確かな事実でもある(大地を支えるリングが、まさかアクゼリュスだけを支えていたわけではないのだから)。


「…いいでしょう。わかりました。我々は一体、何をすればいいのですか」


了承したジェイドに対し、ティアやナタリアから「大佐!本気ですか?!」と非難めいた声が上がったが、適当にあしらって相手にしなかった。
その様子を楽しそうに眺めているシオンが本題に入ろうと口を開いたのだが、それよりも早く、声が響く。


「大地を降下させるのはマルクト領とケセドニアだからね、あんた達はグランコクマへ行って皇帝の許可を取ってからシュレーの丘へ。僕たちはケセドニア代表と話をつけてザオ遺跡へ行くのさ」


さらっと説明しながらタルタロスの中から姿を現したのは、ユリアシティであの朱色の少年を連れて行った、あの。


「嫌に登場が早いじゃないですか、シンク」
「あんたがこいつらで遊び過ぎなだけだろ、シオン。待ちくたびれたんだけど」
「なら説明係交代と言うことで。僕はちょっと癒やされて来ます」
「あんた自分でこいつらの説明は任せろって言ったんじゃないか!ってちょっと!本当に行くの止めてよシオン!」


様子を見に来たシンクの言葉など何のその。
引き止める言葉を聞きもせず中へ入って行ってしまったシオンの後ろ姿に、がっくりとシンクは肩を落として頭を抱えてしまった。
この急展開には流石にアニスも五月蝿く喚くことも出来ず、哀れむ様な視線しか向けられない。溜め息を吐きつつ、一度頭を掻いたあと、シンクは面倒臭そうにとりあえずジェイド達へと振り返った。
ジェイドは笑う。
シオンよりもシンクの方がまだ、気を張り詰めなくて済むからだ。


「六神将、烈風のシンクとあろう方が、タルタロスに無断乗車は感心しませんねぇ」
「辞めたって言った筈だろ、死霊使い。大体文句があるならシオンに言ってよ。僕としては普通に交渉する予定だったのに、タルタロスにチーグルと一人残ったイオン見て嫌がらせしたいって言ったのはあいつなんだからさ」
「御免被りますね」
「気持ちはわかるよ」


シオンに関して話す度にどこか溜め息混じりに言うシンクに対し、これは苦労しているんだな、とわかる分、あからさまに喚き出すような真似は流石にナタリア達もしなかった。
ジェイドに匹敵する程の規格外の人間なのだ、シオンと言う存在は。


「それで、一体どこまで説明聞いたわけ?」


気を取り直して言ったシンクの言葉に、ジェイドが「いやぁ、出来れば最初からお願いしたいですかね」と言おうとしたのだが、それよりも先にいきなりタルタロスへの扉が開き、勢い良くシンクの背中に抱き付いたピンク頭にそれは叶わなかった。
完全に不意打ちだったのか、シンクの体が可哀想な音を立てて反り返る。
呆然と見届けてしまったのだが、その苦痛を与えたピンク頭がこれまでの間で見たことのある少女だとわかった瞬間、アニスが声を張り上げた。


「根暗ッタ!あんたなんでこんなところに居るのよ!!」


怒鳴りつけるように言ったアニスの言葉に、けれどアリエッタはシンクにしがみつくばかりで何の反論もしなかった。
以前よく見ていた黒を基調とした服ではなく、白を基調とした服にジェイドは疑問に思ったが、ここはとりあえず黙っておく。シンクだけでなく六神将の一人、妖獣のアリエッタまでが居ることにアッシュは驚いていたが、彼女がなにやら…泣いているのではないかと気付いてしまえば、流石に言及することは出来なかった。
「なにすんのさアリエッタ!」と一度は文句を言いつつもシンクはアリエッタの小さな言葉に耳を傾け、そうして訴えを把握した瞬間、仮面の下で密かに眉を顰める。


「……死霊使い、説明しようと思ったけど少し事情が変わった。本音を言うとめちゃくちゃ嫌だしなんでこんな傲慢な自己中心な奴らに付き合わなくちゃいけないんだとか思うし、納得なんてこれっぽっちもしてないけどこの方が早いから、我慢してあげるよ」
「…なんの話です」


アリエッタの背中を撫でながら言うシンクの言葉に、訝しげに睨み付けながらジェイドが言った。
シンクは隠すこともせず、露骨に溜め息を吐く。
会わせたくなかった、本当は。
けれど側に居るイオンが泣きじゃくっていて、アリエッタもどうしようも出来なくなったと言うのなら、大地を降下させる過程で必ず会わせなければならないのなら、今でも、別に。




「ルークに、会わせてあげるよ」



そのどこにも、救いはありもしないのだけど。



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