「君は…ケセドニアで会った…?」


呆然と呟くように言ったガイの言葉に、シオンはにっこりと笑って頷いてみせた。
途端にアニスが「あんたどういうことよ!イオン様はどこ?!」と騒ぎ出したが、まさかシオンが相手にするわけがなく「大体導師が残るならば当然導師守護役も残る筈でしょう」と笑みはそのまま毒づいてやる。
途端に口ごもったアニスに、ナタリアとティアは代わりとばかりに非難めいた声を上げたが、ジェイドとアッシュは何も言わず、ガイに至っては眼中にすらなかった。
アクゼリュスへ向かう過程で、ケセドニアで会ったシオンから、目を背けられない。
誰一人として、彼のことを知らなかった。
知っていたのは、あの−−−



「ルーク!君は、ルークのことを知らないか?!」


必死に詰め寄るように聞いたガイに、シオンは一度だけきょとんと目を丸くしたが、すぐに今までと同じ笑みを貼り付けて微笑んだ。
ムッと怒ったようにナタリアとティアが顔をしかめたが、話にならないとジェイドは後ろへ押しやって、シオンと話をするべく体勢を取る。
初めて顔を合わすことになるだろうアッシュは若干困惑しているようだったが、ここは黙っておくらしかった(相当不満そうに顔をしかめては、いるが)。


「知っていますよ。僕とシンクは兄弟みたいな感じですし、そうして仲間です。ルークは僕らの大切な人。彼は今、僕らと共にいます」
「ルークは無事なんだな?!」
「ははは、それは一体どういう意味です?僕らがルークに危害を与えるとでも?あなた達じゃあるまいし馬鹿なことを言わないで下さい。虫酸が走ります。それより、話を戻しても構いませんか?」


にっこり、イオンと表面上だけは同じような笑みを浮かべて毒づいたシオンに、こればかりはガイもナタリア達もどういうことだと詰め寄ることも出来ず、凍り付いた。
イオンと同じ恰好をしているのがまた精神的に追い詰められる要素となるのだが、まさかそこに触れられる筈もない。
唯一、この面子の中で動じなかったジェイドが、シオンに対し口を開いた。
口元に浮かんだ微笑に、シオンとジェイドの笑みが似通ったものだと、一体何人が気付けただろうか。


「話とは一体何ですか」
「単刀直入に言うならば、あなた達に協力をお願いしたいのですよ」
「協力?」
「ええ、僕らはあなた達の力を借りたい。本当だったらこんなことをするつもりはさらさらなかったんですけどね。妥協案です。時間がないのですよ」
「……どういうことです?」
「先程の地震、その理由をあなた達は知っていますか?」


言葉の節々から決して良い感情は伝わって来ないのだが、こう聞いて来たシオンに対し、苛立ちながらも黙って話を聞いていたアッシュが鼻で笑って答えた(それがどれだけシオンの機嫌を損ねることになるのか、知っていたらそんな無謀な真似はしなかったろうに)。


「はっ、そんなことは屑がアクゼリュスのパッセージリングを消滅させたからだろうが!」
「残念、それだけでは視野が狭いですよオカメインコ」
「誰がオカメインコだ!」
「そうですわ!あなた、ルークに対し何を言うのです!無礼者!」


すぐさま喚き始めたアッシュとナタリアに、しかしシオンは鼻で笑っただけだった。
そうして向けた視線は、明らかな侮蔑と呆れと言った、それだけ。


「人を屑だと罵っておいて、まさか自分は誰かから罵られることはないと思っていたのですか?傲慢も大概にしなさいよ、デコと癇癪持ち。自分の言動は自分に返るといい加減学びなさい。大体僕は言いましたよね?ルークは大切な人だと。侮辱するならそれ相応の対応をこちらだって取ります。それと時間がないと言った筈ですが。何か難しいことを僕は言いましたか?」


それはそれは綺麗な笑みで言ったシオンに、これにはナタリアもアッシュも押し黙り、今まさにルークを侮辱せんと口を開こうとしたアニスも慌てて口を噤んだ。
ジェイドが隠すこともせず溜め息を吐く。
いい加減にしてくれませんかね、と寸でのところで飲み込んだ言葉は、同行者に向けたかった、言葉だ。


「アクゼリュスのパッセージが消滅したことで他の大地に影響が出ているのは確かです。程なくしてセントビナーもまた、崩落の道を辿るでしょう。けれど今の揺れはそれだけじゃないんですよ。ケセドニア周辺とルグニカ平野一帯が、崩落する兆しです」
「そんな!ルークのせいであの広大な地が落ちると言うの?!」


驚きのあまり咄嗟に口にしたティアに、隠すまでもなく、にっこり笑んだままのシオンの額に、ぴきりと青筋が浮かんだ。
音叉を握っていた手が躊躇いなく地面へと振り下ろし、べっこりと抉れる。
般若の面が背後に見えた気もした。悲鳴を上げそうになったのを無理にでも堪えたアニスは、ここは間違ってはいない。悲鳴を上げていたならば、確実にあの音叉はアニスの頭を抉っていただろうから。


「おかしなことを言いますね、ティア・グランツ。人の話を最後まで聞かず、早合点などするからあなたは常識が欠けているのですよ。何がルークのせいですか。ルグニカの大地が落ちるのは、その地を支えるパッセージリングが限界を迎えるからです」


安易に口を挟むんじゃねーよ能無しが、と何だか一部副音声が聞こえたような気もしたが、向けられた相手がティアなのは確かだったので、ジェイドもあのガイすらも何も言わなかった。「どういうことですか?」とジェイドは先を促す。
シオンは笑みを貼り付けたまま答えた。ガイの顔が引き攣っていたのは、ちっとも笑っていないと、きちんとわかっているからだ。


「パッセージリングの耐久年数は元々2000年と僅か。今年はもう限界の年なのですよ。それがシュレーの丘のパッセージリングと、ザオ遺跡のパッセージリングの限界が先に来てしまった…このままでは多くの民が崩落に巻き込まれ死に絶えるでしょう。それを阻止する為に、あなた達の力を借りたい」
「…何をするつもりなんです」
「大地の降下作業ですよ」


あっさりと言い放ったシオンの言葉に、ギョッと目を見張ったのはティア達だけの話ではなかった。
あのジェイドすらも、僅かに目を見張って反応を返せずにいる。
聞きたいことや疑問に思ったことも多々あるだろうに、それでも誰もが何も言えやしなかったのだ。


「シュレーの丘とザオ遺跡のパッセージリングの操作を同時に行う必要があります。多くの民の命を救い、無事に大地を降下させる為にも、僕らに協力してくれますよね?」



まあ拒否権なんて、認める筈がないのだけれど。



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