どうして、生きてるんだろう。

















ずっとずっと、考えていたことだった。
なぜ、生き残ってしまったのかと。
なぜ、アクゼリュスと共に、消えることが叶わなかったのかと。

死ななくてはいけなかった。
生きているのは、いっそ罪でもあった。
今思えばジェイドに頼まずとも、自分で首を掻っ斬ってしまえば良かったとそう思うと言うのに、それを見透かしたように手元に剣はなく、澱んだ海を進む艦の中で、一室に閉じ込められたようなこの状況で、自ら命を断つことは許されそうにない。


どうして、俺は生きているんだろう。


セフィロトでだって、助かる可能性を潰す為にも足場は超振動で消した筈だと言うのに…生き長らえたのは、ローレライの意志とでも言うのだろうか。

死ななくては、いけなかったのに。
『聖なる焔の光』として死に、本当の『ルーク』が生きれば、世界は続いていくのに。


どうして、俺は生きてるんだろう。
どうし、て。












「お前は俺の劣化複写人間だ。人間じゃない、フォミクリーで作られた、ただのレプリカなんだよ!」


ユリアシティと呼ばれる障気の影響で薄暗い街に辿り着いたとき、見えた紅がそう声高に叫んだ言葉が、耳に痛かった。
ナタリアとアニスは明らかな侮蔑の眼差しを向け、ティアがその前に叫んだ言葉は…「やめてアッシュ!」と制止の声は意味を成さず、寄り添ってくれているイオンの体が、僅かに震えているのがわかる。
ジェイドは黙って見ていて、ガイは困惑しているようだった。
レプリカと罵倒する、紅の声。
罵り続ける、俺の半身。


魂の、片割れ。



「は、はは…」


口から漏れたのは、乾いた笑いしかなかった。
きっとどこかで期待してた、ずっと。
アッシュなら、いや『ルーク』なら、気付いてくれるんじゃないかと。
けれど、現実なんてこんなものだ。
彼は、俺に気付かない。


兄上と縋っても、レプリカが何を言ってるんだと突き放すのでしょう、あなたなら。


それでも、俺は呼びたかったのに、今更言える資格もないじゃないか!




「あはははは!」


まるで狂ったように笑い出したルークに、泣き出しそうな顔をしてイオンが腕にギュッとしがみついたが、視線を向けてくれることも、なかった。
ルークは笑う。
その度にアッシュの表情は険しくなり、女性陣からは非難の声が上がるのだが、それらは届かない。
ルークの耳に、届かない。
やがて気が済んだのか、静かに一度ルークは俯いたのだが、再び顔を上げた時に見えたその瞳に、ジェイドでさえも息を呑んでいた。
−−−感情を削ぎ落とした、ガラス玉のような瞳しか、ない。


「一つだけ、答えをやるよ」


言って、タルタロスを降りた際に返してあった剣をルークが抜いた瞬間、ガイが慌てて止めに入ろうとしたのだが、それよりもルークがイオンの手を振り払って剣を首筋に当てた方が、早かった。

死ぬつもりなのか、と。

血の気が引く思いをガイはしたが、名を叫ぶよりも先にルークが後ろ手でまとめた朱色の髪を躊躇いなく切り落としてしまったから、ただただ呆然と立ち尽くすしか、ない。
肩口で切り落とされた長い朱色の髪を、ルークは自分の道具袋の中に、無造作に入れた。
ほとんど空っぽな袋に、朱色が散らばる。
何本かはさらり、地面へと落ちる。
そうして誰もが呆然と見ている中、ルークはその道具袋をジェイドに、突き付けた。

朱色が入った、それを。



「あんたに任せる。あとはジェイドが、好きにしろ」


不揃いに切った髪をして、どこか笑んでいるようにも見えるルークにジェイドは戸惑ったものの、結局受け取らざるを得なかった。
受け取ってしまえば、もう用は済んだとばかりにルークはアッシュへと向き合ってしまう。
らしくなくジェイドは呆然としてしまっていたのだが、今にも斬り掛からんとばかりに剣を握るアッシュに向かって、ルークが自身の左手を突き出したその姿が見えた途端、目を見開いていた。


「避けなさい!!」


突如叫んだジェイドの言葉に、訝しげにアッシュやナタリア達は視線を向けたが、退くことをしなかったのが、致命的だった。
ジェイドには、わかる。
大気中の音素の流れが、呼応するように集うこの術式、は。


「−−−アブソリュート」


抑揚のない、声だった。
詠唱すら破棄したと言うのに音素は集い、氷の刃が、地より襲い出る。


「「ルーク!」」


イオンの叫びとナタリアの叫びが重なったが、それぞれ違う人間を呼んだのは明らかでガイは顔をしかめたが、結局何も言わなかった。
御貴族様の嗜み程度の譜術ではエナジーブラストが限界だとばかり思っていただけに、そして術の威力がわかるからこそ、ジェイドはその場に立ち尽くすしかない。
直撃を喰らったかのように思えたアッシュだったが、そこは流石特務師団長とでも言うべきか、左半身にダメージはありつつもかろうじて避けることが出来ており、その姿を認めた途端ナタリアから非難の声が上がった。
けれど、ルークにとってそれはもうどうでも良かった。
寂しい?悲しい?
それすらもわからない。
わからないけれど、ただ。


「−−−っこの屑が!」


傷付きながらも、それでも剣を抜き斬り掛かったアッシュは相当頭に血が昇っているらしく、ナタリアの制止も振り払ってルークを殺すことしか、頭になかった。
迎え撃つべく本来だったらここでルークも剣を抜かなければならなかったのだが、最悪受け止め切れない可能性も頭にある以上、再び詠唱無しで術を仕掛けるしかない。
大気のうねりを感じ取ったジェイドはそこから展開される術式に気付き、再び声を上げようとしたのだが、突如間に割って入った人影に、それは叶わなかった。
振り下ろしたアッシュの剣を素手で掴み、もう片方の手でルークの左手を取った、その、緑色に。



「−−−シンク、」


小さな声で呼ばれたその人物は、仮面の下で不敵に笑んでいた。



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