導師イオンの力で開けられた扉の先には、今までの坑道とはまるで違う、ぽっかりと空いた空間の中に螺旋状の道が続いていた。
記憶粒子が光を放ち、舞い踊る。

幻想的な、と言っても過言ではない空間の中を、ルークは前を歩くヴァンに続いて歩いていた。隣を歩くイオンにしっかりと手を繋がれたまま、ゆっくりと、中央に見える光る柱へと…パッセージリングへと、歩みを止めない。
どちらかと言えばイオンの方が、行きたくないと駄々をこねているかのように、重い足取りを引き摺るように歩いていた。
ギュッと細い手を握る。
ルークは振り返って、くれない。


「さあ、来なさいルーク。こっちだ」


螺旋状の通路を降りきったその先に、光る柱の真正面に立ったヴァンが穏やかに笑い掛けながら、ルークにそう言った。
ギュッと、イオンの手に力が籠もる。
ルークは笑った。
空いていた片手でイオンの頭を撫でて、そうして笑って、言った。


「大丈夫だよ、イオン」


かえる、だけだから。


続けて言ったその言葉に、イオンが今にも泣き出しそうに顔を歪めたけれど、あえて見なかったことにしてルークはその手にミュウを預け、そっと掴んでくれていた手を離した。
さ迷うように動いたイオンの指先が、宙を掻く。
穏やかな心境のまま、ルークはパッセージリングの前に立つヴァンの元に、レイラと共に歩み寄った。
時折点滅する光の柱に、ゆっくりと手を翳す。
背を支えるヴァンの顔が、先程までとは違った笑みを浮かべたのを、ルークは見逃さなかったけれど、何も言わなかった。
意志を、示さなかった。



「さあ、力を放つのだ。『愚かなレプリカルーク』!」



師匠、違うよ。
愚かだけど、俺は、レプリカじゃないんです。




「ルーク!!」


泣き出しそうな声で叫んだイオンの言葉が届くより先に、ルークの手から解き放たれた眩い光が、ローレライの力である超振動の光が、目の前にあった光る柱を一瞬で消し去っていた。
ドサッと鈍い音を立てて、ルークが膝から崩れるように倒れたのが見える。
その姿に、イオンは形振り構わず走り出そうとしたのだが、慌ただしく聞こえた足音と叫ぶ声に、弾かれるように顔を上げていた。


「クソッ!間に合わなかったか!!」
「アッシュ?!何故ここに!来るなと言った筈だ!」


驚き目を見張って言ったヴァンの言葉に、ルークはゆっくりと顔を上げて、視線を声のする方へと向けた。
使い終えた道具には興味無いとばかりに、警戒する必要も無いと背を向けたヴァンの先に、ジェイドやティア、この地に来るまで共に行動していた面々と、アッシュの姿が見える。
崩れ落ちていくセフィロト内にアッシュの姿があることに、ルークは思わず目を見張っていたが、何かしらの言葉を交わした後ヴァンがグリフィンを使いアッシュと共に空高くへと去って行く姿が見えて、ほっと息を吐いた。

−−−良かった、と。

素直にそう、思うことが出来る。そしてこの感情は、嬉しいとそんなことかもしれない、とどこかで思った。

さいごに会えて、良かった。



「ティア!第二譜歌を早く!」


必死な声で叫ぶようにそう叫んだジェイドに視線を移せば、ガイがこちらへ駆け寄って来るのが見えた。
バカだなぁ、とルークは思う。
パッセージリングに近い場所は超振動の影響を直に受け、床は罅割れいくらガイとて下手すれば地核へと真っ逆様だと言うのに、こんな自分なんかの為に、役目を終えた道具なんかの為に、無謀にも突っ込んで来ようとしている。
ルークは必死に駆け寄って来たガイの姿を目にしたあと、一度そっと目を伏せた。
座り込んだまま動かないから、ガイがこちらに来るしか選択肢は一つしかないように思えるけど、もう一つ、簡単な選択肢がある。
意識を集中させて、ルークは両の手を床につけた。
足場を崩してしまえば、助ける対象が居なくなれば、わざわざガイが危険に晒される心配はない。

『聖なる焔の光』は、アクゼリュスと共に、消えるのだから。



「ルーク!」


足場を崩れ落とす為に超振動の力を放った瞬間、イオンの声が聞こえた気がしたけれど、どこか遠かった。
目を瞑ったまま、その瞬間を待つ。ふわ、と浮かんだ感覚を、堪える。
レイラの姿は既にどこにもなかったから、先に地核へと帰ったのかもしれなかった。

これから向かう、そこへと。





それでは、さようなら。




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