辿り着いたアクゼリュスは、それは無惨なものだった。
辺り一面を障気が覆っている。
ぐらり、視界が揺れたのは、多分、これまでの度重なる疲労も加えて、自分の体の方が障気に耐えきれなくなっているからなんだろう。
顔色が悪い自覚はあった(イオンの顰めっ面が目に入ったが、ああ、お前だって顔色が悪い癖に)。

澱んだ空気に、レイラが小さく呟いた言葉が聞こえる。
その言葉に、一度だけ目を瞑った。
否定出来るだけの術を、持っていなかったのだから。


『……国は、この地を見捨てたのだな』


嘆くみたいに、そう言った。
それだけしか、言えなかった。
















「皆様方は、キムラスカの救援隊の方ですか?」


障気の充満したアクゼリュスに入ってすぐ、不鮮明な視界に誰もが顔をしかめていれば、ふとここで働いていたらしい男にこう声を掛けられたから、一行は視線を男へと移した。
他より動けるとは言え、男もまた障気に当てられたのだろう。少しばかり窶れているようにも見える男は、自身をパイローブと言い、障気に倒れ、先に搬送された代表の代わりだとそう言った。
聞いたジェイドが、何かを考え込むように口元を押さえて少し黙り込む。
一万もの民が住むにしては、人の気配があんまりに少なく感じる、そんな場所だった。


「代表の方が搬送された、と言うことはもう既に救援隊は民間人の搬送を済ませた、と言うことですか?」
「え?あ、はい。お陰様で8割方は避難を完了しています。残るは六十名程でしょうか」
「こちらに神託の盾騎士団主席総長であるヴァン・グランツ謡将が来ていると思うのですが、彼はどこに居るかご存知ですか?」
「先遣隊の方達ですか?彼らなら…確か14坑道の方へ向かわれたかと」
「そうですか。ありがとうございます」


淡々と言葉を交わすジェイドの姿に、ナタリア達はおや?と首を傾げていたが、特に何かを言うことはしなかった。
残った人の救助に当たりましょう、と気を取り直したように言うジェイドの言葉にナタリア達は従い、取り残されたようなルークはヴァンが向かったとされる14坑道へ足を進める。
隣をイオンが、寄り添うようにミュウとレイラが、ずっと着いて共に居てくれた。
正直、現時点でなぜ8割方救助が済んでいるかルークにはわからないが、ここまで来たらそれはもう、関係ない。
ティアが、ナタリアが、アニスが、ガイが、ジェイドが離れているその間に、ルークは14坑道へ辿り着くことが出来た。
他の場所よりも濃い障気に、思わず顔をしかめてしまう。
障気は、第七音素と結び付き易いのだと以前レイラからそう聞いた。
なら、この中で影響が出やすいの、は。


「イオン、」


隣を歩いてくれる緑色に、小さな声でルークはそう名を呼んだ。揺らぐ瞳と目が合う。
顔色は悪くは無さそうだった。
それ以外は、わからないけど。


「体、大丈夫か?」


聞けば、イオンは一度驚いたように目を見張って、それから辛そうに顔をしかめた。
何かを紡ごうと口をぱくぱくと動かす。けれどどれも言うべき言葉でないと判断したのか、俯いてから、小さく答えた。


「……はい、大丈夫です」
「そっか。なら良かった」


無理をしてではないその答えに安堵して、ルークは再び前を見据えて歩き出した。
14坑道の中で倒れている人間は居なかったからそのまま奥へと進み、見えた彼の人の後ろ姿に、そっと目を伏せる。
先遣隊の姿は見えなかった。
それが何を意味するかは知っている。
知っているけれど、今は、ただ。



「−−−ヴァン師匠」


呼べば振り返るその人は、穏やかに見える笑みを貼り付けて、そうして『聖なる焔の光』を、待っていた。





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