死にに行きなさい、とそう言われた。

月明かりが仄かに差す『ルーク』の自室で。
告げたのは父上だった。
腕を引かれて、日溜まりに出された時と似通った言葉。


死になさい、と。
ずっと、昔からの。







キムラスカのマルクトとの和平に関する返答を聞いたとき、ジェイドはもう何もかも放り投げて名代を辞めたいとすら、確かにそう思った。


(和平でなくキムラスカ滅ぼして帰るとかは、無しですかねぇ。)


全くもって頭の痛くなることばかりで、まず始めに、返答を聞きに謁見の間に通らされたその先に何故か公爵家襲撃犯であるダアトの軍人の姿が見えた時点で頭痛がし(マルクトで同じことをやれば死刑だと言うのに、お咎め無しとはキムラスカも心が広い)、次いで救援の必要性のあるアクゼリュスにキムラスカから和平の証として救援隊と親善大使としてルークを向かわせると言う話に胃が痛くなり(身体的に劣化が見られる彼は道中で死ぬ可能性の方が絶対に高い)、同行者として襲撃犯の指名、そして持ち出された『ルークがアクゼリュスに向かうことは預言に詠まれている』と言う罷り通すには無茶苦茶な言い分に目眩を覚えながらもまさか意見を出せる筈もなく、謁見が終わったあとのジェイドの目は死んでいた。自覚もあった。



トリプルコンボどころの話でない和平に関しての話に、唯一の救いは…唯一の救いは?なんてもう考えることも放棄したいぐらい、ジェイドは現実を直視したくない。
預言を鎮守するキムラスカにとって預言の影響が大きいとは知っていたが、まさか

『ND2018 ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう そこで…』

で途切れた預言を鵜呑みにするとはジェイドも思っていなかったのだ。
まあ何にせよ、とにかく自分は今からキムラスカの親善大使と共にアクゼリュスへ向かわなければならないらしい。
その任さえ果たせば自分にはもう何も関係無い、とジェイドは思っていた。思っていたが、それはあくまでルークが身体的に何の劣化もなかったらの話である。
エンゲーブからバチカルに帰還するまでの間で、ルークの体力の無さなどの問題はジェイドも痛いほど身に染みていた。
前途多難過ぎる現状にジェイドはこれ以上何か厄介事がありませんようにと柄にもなく神とやらに祈りたい気分だったのだが、まさか城下に降りてすぐ、そんな想いも打ち消されるとは、思ってもいませんでした。



「大佐!ルーク様ぁ!大変なんですぅ、イオン様が攫われちゃいました!!」


導師守護役である筈のアニスの告げたその言葉に、ジェイドはもういっそ今卒倒してしまった方が楽になれるんじゃないかとつい思ってしまっていた。
幻聴であれと思わず現実逃避しかかるが残念ながらそうでないらしく、ますます頭が痛くなるような事実に溜め息を吐いてしまうのはもうどうしようもない。
ただでさえ馬車を使うとは言え海路でなく陸路でアクゼリュスへ向かうことに呆れて物も言えなかったのだが、ここに来て更にこの仕打ちかと嘆きたくなった。
女性恐怖症であるが故にアニスに怯えながらも、ガイが話を聞いているのを耳に、ジェイドはルークの様子を伺う。

顔色は悪くはなかった。
ただ、バチカルに帰還するまではなかった剣を腰に帯刀している姿は幻覚ではないようで、キムラスカは何がやりたいんだとジェイドは頭を抱えることしか出来ない。


「お願いですぅ、ルーク様!私も連れて行ってください!」


一体何がどうなったらこんな話の流れになるのか、らしくなく意識をどこかへフェードアウトさせていたジェイドはうっかりわからなかったのだが、ああイオン様を探しに行くのに連れて行って欲しいと言うことか、とすぐに頭を切り替えた。
別にいいだろう、とジェイドは思ったのだが、何を考えていたのかルークは僅かだがどこか辛そうに顔をしかめていて、おや?と首を傾げる。

ルーク様ぁ!としがみついてまで訴えるアニスに、ルークは一度溜め息を吐いていた。
ガイが困ったように笑いながらルークを宥めているが、面倒だから、だとかそう言った理由で溜め息を吐いたと言うには、少し違和感があるとジェイドは思ったが、口にはしなかった。


「……わかった」


渋々了承したとも取れるルークに、けれどジェイドは何か言うことはしなかった。
とりあえず馬車を待たせている所へ向かう為に、指示された廃工場へ足を進める。
これ以上の面倒事は正直、御免であったし、また導師イオンが居なくなった以上の問題もないだろうと思っていた。

だからこそ、向かった先にそれ同等かそれ以上のとびっきりの面倒事が居るとは、夢にも思ってもなかったのだけど。








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